第10話 誕生。
宴はもう滅茶苦茶だ。
父さん達がまるで主役のようにみんなに囲まれて楽しくお酒を飲んでいる。
そうなったのも僕のアーティファクトが原因なので何も言えない。
通常の宴だと村長の挨拶の後に成人の儀を終えた子供達がみんなの前でアーティファクトを披露して使う事になっていたらしい。
だが、僕の「時のタマゴ」は夜になっても真の姿を表す事は無かった。
父さんと母さんがその事を村長に告げるとアーティファクトのお披露目はまた後日改めてと言う形になり、級の発表だけになった。
村初めてのC級以外のアーティファクトの出現に村は大きく沸いた。
僕のS級アーティファクトは真の姿も現していないのに級だけ先に発表をすると皆に無駄な期待をさせたり、真の姿が気になって僕自身も気負ったり気まずい思いをするだろうと村長の配慮からまだ発現前のA級という事にされた。
その配慮も僕の両親やナックやリーンの両親、それと村長はS級と知っているのであまり意味はないかも知れない。
村長は僕たちの級を聞いた時にも大泣きして喜び、挨拶の時にまた勝手に感動して大泣きしていた。
本当に干からびてしまうのではないかと思ったのだが、誰かが僕の級を聞いた時に「じゃあ村長はキョロにやってもらうか!」と言うと村長は泣き止んで焦った表情をしていたのには笑った。
「本当、大変だったんだぜ!」
ナックが僕に絡んでくる。
この話は三度目だ。
僕のS級をA級までしか聞いた事がない親に説明するのが大変だったらしい。
特にどういう事ができるアーティファクトなのか説明が出来ないから余計に大変だったらしい。
リーンも同様に少し手を焼いたと言っていた。
コツコツコツ…
変わらず「時のタマゴ」はコツコツ言っている。
さっきより音は力強くなっているので、そろそろなのかも知れない。
そう思って耳をすませてタマゴから出る音に集中してみると、音の切れ間が殆どない事がわかった。
初めは数分間隔で聞こえてきた音が力強く断続的になってきた。
これは真の姿になるのか!?
そう思うと、この人の多い場所での発現はもしかすると問題になるのかも知れない事に気付いた。
「二人ともごめん!」
僕はそう言って村はずれの方へ駆け出した。
村はずれにつく頃には、コツコツコツと言う音は更に断続的に力強くなっていた。
「もう産まれるんだ…」
産まれる?
僕は今産まれると言ったのか?
そうか、産まれるのか。
僕は直感で「時のタマゴ」が真の姿になることは産まれる事だと察したのか。
変な理屈だが、一人で納得してしまった。
「さあ、僕のアーティファクト!村のみんなの為に!僕自身の為に産まれてきてくれ!!」
今まで感じたことのない高揚感を感じた僕は「時のタマゴ」を天にかざしてそう言った。
…!!?
掌の中の「時のタマゴ」が一瞬震えた。
その後、震えた「時のタマゴ」は熱を帯びて熱くなってきて光り始めた。
「産まれる。産まれるんだ。」
世界が一瞬光った?
世界が光ったのか僕がめまいをおこしたのかよくわからない。
ただあまりの光に僕はめまいをおこした気がした。
よくわからない。
ただ今だけは倒れてはいけない、直感がそう言っている。
僕は直感に従って意識を集中し倒れないように踏ん張った。
光が収まるとき、目の前に一羽の小鳥がこちらを見ながら羽ばたいているのが見えた。
「お父さん僕を産んでくれてありがとう」
お父さん?
このアーティファクトが喋っているのか?
よくわからない。
思考がまとまらない。
そう思いながら僕は倒れた。
ああ、やはり光ったのは世界が光ったのではなく僕がめまいを起こしたからか。
昼の疲れが出たのか、実はアーティファクトが真の姿になる時に物凄く疲れるのか、原因はわからない。
困った、意識が薄れてきた。
この状況で倒れるのは良くないのがわかる。
何故かはわからないがわかる。
そう思っていると、足音と僕を呼ぶリーンの声が聞こえてきた。
助かった。
これでひとまず倒れても何とかなるだろう。
そう思い終わる頃に僕の意識は闇に落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます