第9話 僕の両親。

「S級のアーティファクトを授かったよ」


「…」

「…」


何故かの沈黙。

あまりの出来事に考えが追いつかなかったのかも知れない。

ただ、それは僕も同じで、まだ真の姿にならないので、なんとも言えないが名ばかりのS級の可能性だってあるのだ。


「こら、いくらなんでもこんな時に親をからかうものではない。父さんはS級なんて聞いた事がないぞ」

「恥ずかしがらないで本当の事を教えて?お母さんはC級でも嬉しいわよ」


「父さんはA級だと思うのだが、あれか?ナックとリーンちゃんに気を使ってふざけているのか?」

「キヨロスは優しいのね」


これは本当にS級を知らない顔だ。

多分、今頃ナックとリーンも同じ目に遭っているのかと思うと少し申し訳なくなる。


「父さん、母さん」

「はい?」

母さんが思わず返事をした。


「僕は本当にS級のアーティファクトを授かったんだよ」


「…」

「……」


「何だってーー!!」

父さんの大きな声で家が震えた気がした。


「S級だなんてそんな、本当なの?」

「神の使いが教えてくれたよ。S級のアーティファクトだからか箱庭は迷宮みたいになっていて大変だったんだよ」


「母さん!!聞いたか?」

「聞いていますよ」


「俺たちの息子が、息子が…S級だ!」

「ええ、そうですね。本当にありがたい事ですね」


父さんは興奮から吐く息が白くなっているし、身体がプルプルと小刻みに震えている。

その横で母さんは空にお祈りを始めてしまった。

しばらくすると二人とも歓喜の涙を流している。


…このタイミングで言うの辛いな…


「父さん、母さん、……あのね…実は1つ言いにくい事が…」


「どうした!?何だ!?言ってみろ!」

「そうよ、水臭いわよ」

涙を拭いながら二人がそう言ってくれた。


「あー……、実はまだ……どんなアーティファクトかわからないんだ」


「…え?」

父さんの目が点になった。


「…それって…どう言う事?」

母さんが心配そうな顔で聞いてくる。


僕は神の使いとの話をしながら「時のタマゴ」をテーブルに置いた。


「これがアーティファクト…」

「綺麗なタマゴね、白色にも紫色にも見えるわね」

二人とも僕のアーティファクトをいろんな角度から見まわしている。


「母さん、これはもしかしたら安産のアーティファクトでキヨロスが撫でると…」

父さんがナック達と同じ事を言い出した。


「タマゴ型から離れてくれるかな?それにまだ真の姿になっていないから真の姿によっては安産とは無関係かも知れないんだよ」


「あ、ああ…そうだな」

父さんがしゅんとしてしまった。


「自立型のアーティファクトって初めてだからお母さん心配しちゃうわ」

母さんの心配事のポイントはどこにあるんだろう?中から犬とかオオカミが出てきて家中滅茶苦茶にしてしまう事かな?


「うむ、だがアーティファクトが使い手を貶める事は無いだろう。きっと大丈夫だ」

「そうね」

父さんと母さんはそのままひとしきり話すと「良かった」と勝手に満足してくれた。


「キヨロス」

急に落ち着いた声の父さんが僕を呼ぶ。

「お前は凄い子だ、そのアーティファクトが何であれ私たちはお前を誇りに思うよ」


「改めてありがとう。私たちの子供で、…生まれてきてくれてありがとう」

母さんがまた涙を流しながら僕にありがとうと言っている。


少し照れくさくてむず痒いが両親が本当に喜んでくれている表情を見て僕は嬉しくなり思わず

「父さん、母さん、僕の方こそありがとう。このアーティファクトは暮らしを便利には出来ないらしいけどみんなの役には立てるらしいから、その力で頑張るよ」


僕の返事にまた父さんが大声で喜んで、母さんが泣いた。


ものすごかった。

だが僕はこの両親の子供で本当に良かったと思った。

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