第8話 成人の儀からの帰宅。

「それではいいですか?神の使いは僕が箱庭に入っているときに僕の事を見ていたんですよね?」

「そうですね。見ていました。途中からですが帰りが遅かったので気になって見始めました。あなたが入ってからの足取りは私の力で追いましたので結果的に全てを見ました。」

「なぜ冬だったのか、二人が散歩道だったのに僕は迷宮のような場所だったのか教えてください。」

「季節は箱庭が選ぶので、キヨロス、あなたの中の何かを箱庭が察したとしか言えません。場所に関してはあなたがS級の所有者の素質があったからだと思います」


「もう一つだけ、いいですか?」

「なんでしょう?」


「仮に最初の分かれ道で雪の積もった石畳を選んでいた場合、僕が授かっていたアーティファクトは変わっていましたか?」


神の使いは少し困った顔をしてから

「そうですね。もしも違う道を行っていたら貴方のアーティファクトは「時のタマゴ」ではなく別のS級アーティファクトになっていたと思います。あまり言いたくはなかったのですが、あなたの可能性の数だけアーティファクトがあの場にはあった。アーティファクトたちがあなたを待っていた」


その話の通りならナックは「大地の槍斧」以外のアーティファクトはなかったのであろう。

リーンは…ああ、聞き忘れていた。リーンの入った箱庭はどんなところだったのだろう?あとで聞いてみよう。


「さあ、二人が戻ってきましたよ。」


二人が息を切らせながら走って帰ってきた。

「キョロ!聞いてくれよ。俺のアーティファクト凄いんだぜ!木々をバッタバッタと切り倒してさ!!」

「もう、その話は後にして、神の使い様が帰られるんだから」


「ナック、キヨロス、リーン。今日あなた達に会えてよかった。新しく成人になるあなた達に神より与えられしアーティファクトが幸せを運びますように。それではさようなら」


神の使いはそう言うと祭壇の光を使って天に帰っていった。



さて、大分遅くなってしまった。早く村に帰ろう。

そう思っていると僕の右手を何かがノックしている。


コツコツコツ…コツコツコツ…

これはあれか、時のタマゴが真の姿を現すのかもしれない。


村長への報告は後回しにして一度家に帰ることになった。

ナックとリーンはお互いのアーティファクトの特徴を話し合っている。

「え?注意点ないのかよ!いいなぁ」

「その代わり私はイメージが出来ないと何もできないんだからね」

そんな事を言いながら歩いている。


ナックは早く家族にアーティファクトを見せたいと言っていた。

リーンも家族にアーティファクトを見せたいけれど、両親の前で失敗しないようにと歩きながら何度もイメージしたものを形にする練習をしている。

「ろうそくだと感動が薄いと思うの、同じ火なら松明かしら?」

そんな事を言っている。


僕の方といえば気が重い。

S級のアーティファクトという事が分かったが、このタマゴがどういうものかもわからないのだから。


コツコツコツ…

またこの音だ。

音は確かにアーティファクトからする。

ナックやリーンにも確認してみたら音は聞こえたので僕の聞き間違いではない。


神の使いが真の姿になるまでにはもう少しかかると言っていたのを思い出す。

夜の宴までには真の姿になっていて貰いたいものである。


「これ、本当にタマゴで孵化するのかもな」

ナックが音を聞きながらそう言って居たのを思い出す。


中から出てくるタイプのアーティファクトか、僕はそんな事も考えず、寝て起きたら姿形が変わっているのかなくらいにしか思っていなかった。


僕の家まであと少し、リーンは松明の出来にようやく満足している。

「もう使いこなしているんだね。凄いや」


「私のは所詮B級ですから、きっとS級よりも簡単なのよ」

上機嫌のリーンは普段あまり言わない軽口を言って笑う。


僕もそれが不思議と可笑しくて笑ってしまう。

「じゃあまた夜」

「キョロのお父さん達がどうだったか後で教えてね」


「わかってるよ」

僕はますます気が重くなりながら家の扉を開けた。



ものすごかった。

あの時のことは僕が年を取ってもそう言うだろう。


家に帰ると、待ちくたびれた父さんと、宴の準備を中抜けした母さんが居た。

母さんは他の女性陣から「さっきからソワソワして、気になるんでしょう?行ってきなさいよ!」と中抜けを勧められたらしい。

どれだけ顔に出ていたのだろうか?


帰宅の挨拶もそこそこに、箱庭での景色、僕のアーティファクト、リーンやナックのアーティファクトの事を矢継ぎ早に質問された。


父さんと母さんが気にしているのは僕のアーティファクトだと言う事は分かっていたので、あえてナックとリーンの話からした。


「ほー、あの二人がB級とは…」

「凄いわね、村で始めての事じゃない」

二人は普通にナックとリーンのB級の件を凄いと驚き喜んでくれていた。


「ところでほら?な?」

「あなたはどうだったの?お母さんもう気になって気になって…」


もう少し、この過保護の親がソワソワする所を見ていたい気持ちもあったのだけど僕はキチンと告げることにした。

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