第7話 万能の柄。

「さて、そろそろリーンが戻ってきますよ」


神の使いの箱が光ると中からリーンが帰ってきた。

手には何か持っているがあまり大きくない、手にすっぽりと収まる物のようだ。


「おかえり」

「キョロ!ただいま。あれ?ナックは?」


「お帰りなさいリーン。ナックは少し離れたところでアーティファクトの力を試してみていますよ」


「そうでしたか。あ、アーティファクトと言えば私のアーティファクトは何なのでしょうか?」

そう言うとリーンは手のひらを僕たちの方に向けて手の中のアーティファクトを見せてくれた。


リーンのアーティファクトは長さが10センチくらいで幅が4センチくらいで少し厚みがある。

色は赤い。何かの柄のようにも見える。


「これは「万能の柄」です。B級アーティファクトですよ。あなた方3人は凄いですね。C級しかアーティファクトがなかった村にBとS級のアーティファクトが授けられました」

神の使いは優しい笑顔で僕たちを見ている。


「「万能の柄」ですか…」

名前からはどう言うものなのか想像もつかないアーティファクトを前にリーンは少し困った顔をしている。


「大丈夫ですよ。今から能力と注意点を説明しますから。」


神の使いの説明はナックの時とは違っていた。

「このアーティファクトはナックの「大地の槍斧」のように能力の数が3つあるわけでも、水辺や汚れた土地では能力が発揮されないと言う注意点もありません。

このアーティファクトの能力は[万能]です」


万能、これはまた凄い言葉が出てきた。

空を飛んだり食べ物を生み出したりするのであろうか?

それにナックのような注意点が無いと言うのも凄い。

同じB級でもこれだけ違いがあったらナックは何を言い出すであろうか。


「万能…ですか?私には益々わからなくなりました」

リーンがかなり困惑しているのが声と表情からよくわかる。


「万能と言ってもできる事には限りがあります。このアーティファクトはあくまでB級ですのでA級やS級でできるような事はまず出来ません。

ただ、そうですね論より証拠ですね。リーン、アーティファクトを構えて意識を向けてください。

そして、頭の中にろうそくをイメージしてください。ろうそくの長さはアーティファクトと同じくらいをイメージしてくださいね。」


リーンが少し困った顔をしながら神の使いに言われた通りにアーティファクトを構えた。


「準備ができたら【アーティファクト】と呼びかけてください」


「はい、【アーティファクト】!!」


呼びかけた瞬間、リーンの赤いアーティファクトは光を放った。

光が収まるとリーンのアーティファクトの先からろうそくと同じ大きさの火が出ていた。


「成功ですね。これがあなたのアーティファクト「万能の柄」の能力です」


「火が出るのが能力ですか?それもこんなに小さな火…」

リーンががっかりしている。


「いえ、それでは万能などと名前は付きませんよ。火を消すときは[もうおしまい]とアーティファクトに念じてください。それで今の効果は終わります。」


神の使いが言い切る前に火は消えた。

余程ショックだったんだな。


「今度はナイフをイメージして【アーティファクト】と呼びかけてください」


「え…はい、【アーティファクト】!!」


今度はアーティファクトの先に鈍い光が見える。光の形はナイフの形になっている。


「成功ですね。もうお分かりでしょう。これが「万能の柄」の能力。イメージした物の具現化になります。」


なんという事だ。3人の中でリーンが一番凄いアーティファクトを授かったのではないか?


「さて、注意点を説明します。リーン、今のナイフでそこの葉っぱを切ってみてください」


リーンが神の使いの指さした葉っぱを切ってみる。


「わかりますか?切れ味は並みのナイフと同等くらいの切れ味しかありません。アーティファクトで精製した武器と言う扱いにはなりますが、アーティファクトの専門品の性能には届きません。これが注意点の一つ目。

次の注意点はイメージ力がそのまま精製に繋がるのでイメージに失敗すると何も精製できません」

確かに万能ではあるが、秀でたものはないしイメージする力に左右されるのか…


「それとあと一つ」


「まだあるんですか?」

リーンがどんどん顔を曇らせていく


「精製できるものの種類と大きさの話です。柄の大きさは一般的な剣の柄より短いですよね?この万能の柄で剣のようなものを精製しようとしても最大でも鉈くらいの長さのモノしか精製できません。あとは飲み物や食べ物は精製できませんので注意してください」


確かにそれ以外ならイメージする力と知識があれば何でも作れるので「万能の柄」と言う名前なのも頷ける。

だが、リーンの顔色は優れない。きっとイメージする力に自信がないのだと思う。


僕はそんなリーンに

「リーン、今度僕と王都の図書館に行ってみよう。あそこになら色んな物の本があるって聞いたから、きっとリーンの力になると思うよ」

「キョロ…ありがとう」


「さて、説明も終わりましたし私はそろそろ帰る時間ですね。リーン、ナックを呼んできてくれますか?あちらでまだ槍斧を振るっているみたいですし、近くに行けば声がするはずです」


「あ、はい」

リーンは素直に言われた方向に歩いて行った。

これはまた二人きりになるのが狙いなのかな?



「キヨロス、何回目ですか?」

「…何の話ですか?」


「いえ、忘れてください。それよりも何か聞いておくこととかはありますか?少しなら時間はありますよ」

そう言われた時、僕の中に疑問が浮かび上がった。

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