第5話 僕が授かったアーティファクト。

光が収まると目の前には心配そうに待つナックと涙目のリーン、少し意外そうな神の使いが居た。


「帰ってきた!!」

リーンが僕の帰りを喜んでくれている。

「良かった!無事か!!?」

ナックが心配をしてくれている。


「ナックの倍以上時間がかかったのよ」

倍?あれだけ長い間行っていたのに倍?なんだか変な感じだ。


「散歩道の紅葉に見とれていたのか?」

ナックが冗談を言っている。


「いや、僕のは冬だった。それに上り坂と下り坂、崖なんかもあった。」

「なんだそれ?俺の時とは大違いじゃないか」

ナックが僕との差に驚いている。


「怪我はないの?」

リーンが心配してくれている。

「ありがとう、大丈夫だと思う。走った時に枝とかに引っ掛けたかもしれないけど大きな怪我はないよ」

そう聞いてリーンがホッとしてくれた。


「無事で何よりです。私もあまりに帰りが遅いので中を見させてもらいましたがまさかあんな事になっているとは…」

神の使いが驚きながら話しかけてきた。


「それにしても意外でした。あれだけのモノに追いかけられて一度も振り返らずに走りぬく子供が居たとは…」


「振り返ったら禁止事項で散歩道が迷宮とかに化けたら困るから頑張って振り返らなかったんです」

「そうでしたか、振り返るのは問題なかったのですが、今回は振り返っていたら恐怖で足がすくんでいたかもしれないので結果正解でしたね」


「え?お前何か出てきたのか?」

「うん、僕は見ていないから何だかわからないけどね」

「え?私の時も出るかな?」

リーンが不安そうにこっちを見ている。

しまった、安全確認に行ってこれでは話にならない。


「いえ、大丈夫だと思います。キヨロスが何故か迷路と散歩道の間のような場所に紛れ込んでしまっただけで、通常は散歩道に行けますし、何より私も心配になりましたので次は初めから箱庭の中を注意しておきます」


「あの、それであれは何だったのですか?」

「ああ、あれは鬼です」


「鬼?デーモンとかそう言う魔物ですか?」

「いえ、あれは鬼ごっこの鬼です。姿は見る人によって異なりますが、箱庭の鬼はあの状況で出てきてほしくないものの姿を模して現れます」


捕まったら僕が鬼になっていたのかな?

それにしても出てきてほしくないものか…

「それで四つ足の何かだったのか…」

「キョロは山でイノシシに追いかけられた事があったしな」

ナックが昔の事を思い出している。

子供のころ、父さんの後を追いかけて山に入って子供のイノシシに追いかけまわされた事がある。それを箱庭の鬼が読み取って模してきたというみたいだ。


「で、キョロは何を持っているの?タマゴ?」


タマゴ?

何を言って…


アーティファクト!


あまりの事態にアーティファクトの存在を忘れていた。

僕は慌てて手の中を見ると大き目な10センチくらいの白いタマゴがあった。


「なんだこのタマゴ?」

僕はタマゴを見回してみる。

タマゴは光の受け方によって薄い紫に光っている。


「これがキョロのアーティファクトか、効果はなんだろうな?飼ったニワトリが卵をバンバン産んでくれるとかかな?」

ナックは自分のアーティファクトの方が格好いいからと調子に乗っている。


「うーん、キョロに撫でてもらうと動物がいっぱい赤ちゃんを産むとか?」

リーンもナックに合わせて本気か冗談かよくわからないことを言っている。


「何回食べてもなくならないタマゴとか?」

ナックがまだ言っている。


「産むとか食べる関係から離れてよ。僕は家族の暮らしが便利にさえなってくれればいいんだからさ」


そう言っていると神の使いが僕を見た。


「キヨロス、いいですか?落ち着いて聞いてくださいね。これはS級アーティファクト「時のタマゴ」です」


S級?アーティファクトはA級までじゃないのか?


それにしても僕にS級アーティファクトが授けられるなんて思いもよらなかった。

そんな僕の驚きよりもナックとリーンの驚きの方が凄かった。


「すっげぇぇぇ、Sなんて聞いたことないよ!凄いなキョロ!!」

「本当、キョロのお父さんたちの言った通り凄いアーティファクトを授かったのね!」


「二人ともありがとう。でも驚きすぎだよ。」

正直、僕でもS級と言う名の凄さはわかったが価値が全くわからない。

段々と疑問の方が勝ってきた。


「S級?A級の上があるんですか?」

僕は神の使いにそう聞いた。


「A級の上にS級が存在します」

「でも僕はそんなことは実はどうでもいいんです。僕のアーティファクトは家族の暮らしが便利になりますか?」

神の使いは少しだけ困ったような顔をして言葉をつづけた。


「この「時のタマゴ」は家族の暮らしが便利になるのは難しいアーティファクトです」


ハズレだ。

なんという事だ、このアーティファクトでは暮らしが便利にならないのか…


「ではせめて村のみんなの役に立ったり、みんなを笑顔に出来ますか?」

「ええ、それは出来ます。きっとあなたのアーティファクトはみんなの事を幸せにしてくれますよ」

そう言ってくれた神の使いは僕からリーンに顔を向ける。


「さあ、遅くなってしまいましたね。次はリーン、あなたの番ですよ」

「はい」

リーンが覚悟を決めた顔で前を向いている。

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