第4話 僕の散歩道。
光が収まると僕は石畳の上にいた。
ナックは紅葉と言っていたが、一面雪景色で肌寒い。
「この薄着で雪の中を歩くのか…」
雪こそ降っていないが、周りの木々には雪が積もっていて見ているだけで寒々しい。
寒さが不安に拍車をかける。
「石畳が雪で滑るな…」
滑る足元に注意をしながら歩くと分かれ道が現れた。
「分かれ道?ナックはそんな事言ってなかったぞ…どっちが正解なんだろう?」
右の道は変わらず石畳の道で雪が積もっている。
左の道は石畳ではなく土の道だが上り坂になっている。
この箱庭の中はどうなっているのだろう?
ナックの話と全然違う。
これがアーティファクトの力なのだろう、だけどこれは困った。
とりあえず僕は雪道を避けて左の上り坂の方に進むことにした。
少し歩くと不安になってきた。
実は右が正解で左は大変な道であったのかもしれない。
ただ神の使いの言う事が本当であれば引き返すと大変なことになるだろう。
それならば進むしかない。
しばらくすると上り坂が終わった。
本当ならどれだけ上ってきたのかを確認したいところだが、万が一振り返る事も禁止事項に含まれていたら大変な事になるだろう。
振り返る事を諦めた僕の目の前にはなだらかな下り坂が広がっている。
「今度は下りか…」
まあ、上ったのだから下るのは正しいのかもしれない。
少し下ったころ後ろの方、それも遠くの方から何かが走ってくる音が聞こえてくる。
後ろは振り返れないしそもそも何も武器になりそうなものを持っていない。
物凄い恐怖が僕を襲う。
「追いつかれては駄目だ」
直感的にそう思った僕はなだらかな下り坂を駆け下りていく。
不思議な事だが、駆け下りる僕の耳に後ろから迫る足音が聞こえる。
4つ足の動物…イノシシや鹿のような足音…だが速い。
あっという間に追いつかれるかもしれない。
足に力を込めて更に走る速度を上げる。
それでも引き離すことは出来ない。
それどころか足音が増えている。
「2匹?いや3匹か?」
考えるよりも足を動かすことに集中するんだと言い聞かせて走る。
少ししてふと疑問に思う。
この坂道はどこまで続いているのであろうか?
そう思った時、目の前の道は途切れて崖になっていた。
「散歩道は!!?」
僕は思わず声を荒げてしまった。
「道!?道はないの!!?」
崖から落ちないために目を凝らす。
きっと右か左に道があると思うのだが見当たらない。
もう後50メートルもすると崖っぷちに着いてしまう。
減速をするならそろそろ減速をしなければいけない。
道を探す僕の目にはとんでもないものが写った。
「嘘だろ?」
およそ15メートルの崖の間に何個かの足場が見える。
しかも初めの足場までは少し距離がある。
「まさか飛べって事?」
見える足場は近づいた事でわかったがせいぜい足が3つ乗る分くらいの大きさしかない。
今の速度を維持して崖ギリギリで大ジャンプをして足場に飛び乗って休むことなく対岸まで何回か飛ぶしかないのである。
ナックは紅葉が奇麗な散歩道を歩いただけと言っていた。
それなのに僕はなんでこんな目に遭っているのであろう?
やる気の問題か?何が原因だ?簡単の次は難しいのか?それならリーンを行かせないでよかった。
そんなことばかりを考えてしまう。
今は飛ぶことに集中しよう。
気持ちを飛ぶことに切り替えて今の速度を助走にして飛ぶしかない。
できる事なら一度息を整えたいが後ろから聞こえる足音はまた増えた気がしている。
万一捕まったらどうなってしまうのか?
飛ぶ恐怖と後ろの何かに捕まる恐怖では後ろの何かの方が断然怖い。
このまま飛ぶしかないのである。
飛んだ!
一瞬の事なのに時間がゆっくり流れている感覚におちいる。
「あれ?落ちたらどうなるんだろう?」
今更そんな事を考え始めて怖くなった。
そうこうしている間に一つ目の足場に左足が着く。
そのまま勢いに乗って次の足場に向かって飛ぶ。
数秒前に聞こえた足音が聞こえなくなった。
どうやら何かは追ってこれないようだ。
そう思っていると二つ目の足場だ、右足を着けたら三つ目の足場に向けて飛ぶ。
「あと一つ!!」
そう思っていると後ろ、下の方から水音が3つ聞こえてきた。
何かは3匹居て、全部崖下に落水したようだ。
無事に最後の足場を渡り切り、対岸に飛び移った。
本当は振り返って僕のやったことを褒めたかったのだが、振り返るのを我慢して先に進む。
「あと、どれだけかかるんだろう…?」
いい加減疲れたし、早く帰らないとリーンの番も残っているし宴が始まってしまう。
そんな僕の目の前にようやく石畳が現れた。
「正解って事かな?」
安堵感にホッと胸をなでおろしながら僕は先を急いだ。
周りの木々に雪は積もっているが今度は石畳に雪はない。
「それどころか石畳が暖かく感じるのはなんだろう?」
最初は冬の曇天だったのだが、今は陽が差すようになっている。
「そう言えば、光る祭壇があるんだっけ?」
あまりいい印象のないなだらかな上り坂を進んでいくと祭壇が目の前に現れた。
「これが目的地か」
手をかざして後はアーティファクトと唱えれば箱庭から出られる。
僕はどんなアーティファクトが欲しいとか何も考えずに手をかざしていた。
「アーティファクト」
かざした手に光が集まり来た時と同じように光に包まれる。
光が収まった時、僕の手には何があるのだろう?
あれ?ナックはこの時すでに何を授かったのかわかっていたよな?
僕はなんでわからないんだろう。
僕は欲しいものをきちんと考えてから手をかざすべきだったのではないかと後悔していた。
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