第2話 降り立つ川の祭壇へ。
部屋を出ると父さんが居た。
母さんがいないのは夜の宴の為に広場に集まって料理を作っているからだ。
「今から成人の儀だな」
「うん」
「緊張しているのか?」
「そんな事ないよ」
「大丈夫!お前は凄い子なんだから自信を持て。
きっと神様は私達みたいなC級ではなくB級、いやA級のアーティファクトを授けてくれるだろう!」
「C級?」
「ああ、まだ話してなかったな、私達の持つ「祝福のナイフ」や「愛のフライパン」はサウスガーデンに多く普及するC級のアーティファクト、B級になると火の出る指輪や速く走れるようになる靴、A級になると大怪我だって簡単に治せるアーティファクトなんかがあるって話だ。お前ならA級もあり得るんじゃないかって母さんと話していたんだ」
そうか、アーティファクトには級があるのか…
きっと王様達のアーティファクトはA級なんだろうな。
それを僕が?父さん達の親バカも過ぎるな。
「父さん、あまりプレッシャーをかけないでよ。これでみんなと同じ「祝福のナイフ」だった時には恥ずかしくて帰ってこられなくなっちゃうよ」
「何だと!?そんな事はないぞ、お前は私達の自慢の息子なんだ!仮にアーティファクトをお前だけが授かれなかったとしても父さんは恥ずかしいなんて思わないぞ!!」
あー…ああ言えばこう言うなぁ…
「あ、父さん、迎えがきたから僕行くよ」
「まだ話がだな!お前が何を授かっても父さんは!」
ここで扉が開きリーンが顔を出す。
「こんにちは、キョロ行こう」
「うん、助かったよ」
「キョロのお父さんどうしたの?外まで声が聞こえていたよ?」
「いいのいいの、行ってきます」
「父さんはな!いや、母さんもな!お前の帰りを待っているからな!」
私が言葉を言い切る前にキヨロスとリーンちゃんは成人の儀に行ってしまった。
「しかしキヨロスは何も気付いていないのか?
あの子、何でリーンちゃんが来たのがわかったのだ?
そう言う所があるから私や母さんは、お前は凄い子と言っているのだ…」
儀式は村の外れの更に先<降り立つ川>のほとりの祭壇で行われる。
祭壇の入り口にナックと村長が居る。
「遅いぞー!」
「ごめん、間に合ったよね?」
リーンがナックに謝る。
「時間には間に合っておる。ナックは家も近いし我慢も出来んので、もう30分以上も前にな、私が来るよりも先に来て待っておった」
「え?そんなに早く来てどうするの?」
「それは俺が一番にアーティファクトを授かるためだ!!」
「別に早い者勝ちじゃないんだから時間通りで良くない?」
「神様が俺のやる気を見てくれていたらナイフだったアーティファクトを斧にしてくれるかも知れないだろ?」
そう言われてみるとそんな気もする。
リーンも何となくそんな気がしたようで顔に「確かに」と書いてある。
「面白い考え方だなナック。
それにしてもお前達3人が無事に成人の儀を迎えられて私は本当に嬉しいよ」
村長は歳のせいかよく泣くので今も涙を浮かべて喜んでくれている。
「さあ時間だ、お前達…祭壇に行きなさい」
祭壇に近づくと光が祭壇を照らす。
その直後、文字通り空から人が降りてきた。
「おお…御使い様、20年振りに御座います」
村長は干からびてしまうのではないかと思うくらいに泣いている。
ナックとリーンは顔を見るまでもなく引いているのがわかる。
今、空から降りてきた人が神の使いらしい。
「久しぶりですね」
「はい、無事に3人の子供が15歳になりました。<成人の儀>をよろしくお願いします」
「わかりました、それでは後は私に任せて貴方は村へお帰りなさい」
神の使いは村長を村に帰すとゆっくりと話し始めた。
「はじめまして、ナック、キヨロス、リーン。私は神の使いです」
神の使いは自分を神の使いと名乗った。
正直、見た目は普通の人間だ。
背はかなり高い。服装は牧師の格好をしていて穏やかそうな雰囲気に似合った丸いメガネをかけている。
空から降りて来なければ神の使いと言われてもとても信用なんか出来ない、そんな感じなのだ。
あ、神父様は神の使いなので間違いではないのか?
なんだかよくわからなくなってくる状況だなと僕は思った。
「羽根でも生やして羽ばたきながら降りてくれば信じてもらえたのですかね?」
驚いた。
心を読まれた?
「いえいえ、私は神様のように細部の閲覧は出来ません。顔を見ると感情がわかるのです。それで疑っているという事がわかっただけですよ。
リーンは驚いていて、ナックは感動しています。それも顔を見てわかった事です。後は経験ですかね、これまでも何人もの子供達にアーティファクトを授けてきましたから、中には疑うどころか戦闘を仕掛けてきた子供も居ましたよ」
これが神の使いの力の一部なのだろう、僕はこの会話で疑う事を辞め神様の使いなのだと信じた。
「さて、それでは成人の儀を執り行いましょう。【アーティファクト】!」
神の使いが右手を前に出して掌を上に向けてアーティファクトと言った。手元が少し光り、その光が収まると手の中に大き目の箱が浮いていた。
「これは、あなた達にアーティファクトを授けてくれる「神の箱庭」です。
今から1人ずつ中に入って貰います。
中はちょっとした散歩道のようになっていますので引き返す事なく思うがままに歩いてください。
ある程度歩くと光る祭壇があります。
祭壇に手をかざして「アーティファクト」と言ってください。
祭壇が輝き、光が収まると手の中にあなたのアーティファクトがあります。
そしてアーティファクトを授かると箱庭から出て来られます」
神の使いは淡々と説明をしている。色々と気になるところがあるがこれが<成人の儀>のようだ。
「わかりました!じゃあ俺!俺から行って良いですか!!?」
ナックが身を乗り出して神の使いに頼み込んでいる。どうしても一番乗りにならないと気が済まないらしい。
「いいですよ。決して引き返さない事、祭壇に手をかざして「アーティファクト」と言う事を忘れないでくださいね」
「はい!行ってきます!!」
そう言った途端、光がナックを包み込んで光ごと箱に吸い込まれた。
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