異世界信長6

 一兵卒、つまり足軽に落とされてから、しばらくたった。


 といっても朝から晩まで何のために建っているのかわからない建物の警備をするという日々だ。


 ある日、噂を聞いた。織田信長が北条攻めの司令官を自ら行い、そして負けたと。負けた織田家を見限った伊達、佐竹、上杉ら有力大名が謀反を起こしたと。


「関東は一益かずますが殿軍となり北条、伊達、佐竹に対して時間を稼げ。その間に三河・遠江国境に要害を築きやつらを食い止めるのだ。北陸の上杉には勝家があたれ。西の毛利が必ず動くだろう。猿はおらぬな、俺が斬って捨てた。しかし息子の城介では手に余る。ならば俺が主力を率い、これにあたる。貞勝、朝廷に働きかけ静観するよう暗に伝えよ。さもなくば俺に殺されると思わせればよい」


 信長はそう指示を飛ばしたらしい。だが一兵卒の俺にはもう関係のないことだ。

 他の異世界からきたやつら、おそらく俺と同じ世界の人間は、この世界でどうしているんだろう。この世界をどうしたくて、干渉しているんだろう。

 たぶん小田原で北条を勝たせたやつも、そうに違いない。異世界に行ったら末期の北条家だった件、みたいな。やかましいわ。

 案外、俺と同じで、ただ生き残りたいだけなのかもしれない。


「あの、もし、オレ殿」


 何者かの声がした。


「オレ殿。内密のお話がしたく」


 オレ殿という不思議な語感に白目を剥きそうだったが。その男は勝手に俺の耳元まで顔を近づけ、囁いた。


「元の世界へ戻る方法、お教えいたす。されば、我が主に会い、知恵をお貸しいただきたい」


「誰だ、あんた。その主って?」


「会えばわかるのではないですかな未来の方。そうこれは、ギブアンドテイクというものです」


 元の世界に戻る方法、それがあれば俺は。


 その頃、命からがら本拠地の安土城にたどり着いた織田信長は、すぐさま西の毛利家が謀反を起こしたことを聞いた。

 信長は直ちに自分自らが兵を率いて毛利にあたると宣言した。

 その時家臣が中継地として示した地図の場所は、本能寺だった。


「ほう、本能寺か。俺が死ぬ場所だ。しかし死ぬかな? ガハハハ」


 奇妙なことを喋る主君に、居合わせた一同は困惑するばかりだった。


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