異世界信長5
あの爺さん、平手政秀が死んだ。老衰だったらしい。
その報告がもたらされたとき、信長は立ち上がると、何も言わずに評定の間から去り、戻ってこなかった。もはや小田原攻めどころの話ではなさそうだった。
そしてなぜか俺がこうして、信長の居室の呼ばれて座らされている。
信長は背中を見せたままである。
「オレよ。何か面白い話でもいたせ。くだらぬ話で良い」
うわぁ出た面白い話しろっていうやつ、まさかこんな戦国でいわれるとは思ってなかったあ。
俺はとにかく、なんとか笑わせようと自分がいた世界の話をした。
学校の話とか、ネットの話とか、らぶらいぶとか。
「たわけぇ。そんな話とうの昔に聞き飽きたわ。それに俺は年増しか抱かぬ」
信長そう言って俺の話を遮ったが、声に力がない。
やっぱり、落ち込んでいる。
「貴様の世界では、年寄りは長く生きるのか」
「はい、高齢化社会でそれはそれで問題になっています」
「ということは六十、七十まで当たり前に生きるということか。ふん、爺は九十を超えて生きたぞ。あのような妖怪は、貴様の世界にもおるまい」
「……はい」
信長は黙り込んだ。だから俺はなんとか励まそうと、精一杯考えて、あの爺さんのように背筋を伸ばし、大きな声で言った。
「信長様、落ち込んでいる場合でしょうか? 北条家のとの戦いはまだまだこれから。あの城を落とさなければ天下布武はなりません。きっと平手政秀様も」
信長は腰からギラリとしたものを抜き取ると、俺の首にそれを当てて止めた。冷たい感触を感じてそれからようやくそれが刀だとわかった。
「二度と貴様が爺の真似などするな。今貴様の首がついているのは俺が歳をとったからだ。去ね。その面二度と見せること許さぬ」
そうして俺はおしっこを漏らし、侍大将、そして小田原征伐戦司令官から一兵卒に格下げとなった。
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