異世界信長3

 そんなことがあって俺は織田家の侍大将になった。

 あの信長様を笑わせた男として家中からも一目置かれている。


 今日もサッカーの練習をしていたのだが、いつの間にかフィールドに白い死装束を着た妖怪の様な爺さんが歩いてきて、信長の前で正座した。

 爺さんは大きく息を吸うと、すっと背筋を伸ばして大きな声で言った。


「天下治り泰平の世来たりて久しいとはいえ、天下人たるものが為政から目を背け配下を己が満足がため戯れに連れ添わせ道楽に興じるとは、これ古より亡国の兆しにして乱の源。この平手政秀ひらてまさひで、身命を賭して吉法師きちほうし様に諫言申し上げに参った次第」


 ああこの人は信長が若い頃、うつけだった信長を諫言して自ら腹を切った人だ。きっと”毎年やってくるやつ”の誰かがそれを止めたんだ。


 信長は練習を止められてあからさまに怒りを見せ言った。


「呆けたか爺! まだ北条が残っておるわ」


 それから信長は平伏する爺さんを見下ろして言った。


「貴様の命など犬も食わぬわ。興が冷めたゆえ俺は安土へ戻る。それから、俺をその名で呼ぶな」


「お聞き入れいただき、恐悦至極に」


 この爺さんすげえ、と俺は思った。


 信長はそれからサッカーをしなくなった。




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