第22話 セグ教への潜入

「ここがそうか?」

 

 少し離れた場所から大きな門扉を見上げ、アークがラクエルに問いかけた。すると、ラクエルは大きくうなずく。目の前には、セグ教の本拠地である大きな建物が建っていた。その建物は、この都で目にした建物のどれよりも豪奢だった。


「それで? どうやって、この中に入ればよいのだ?」

 

 アークが問いかけると、ラクエルはぐっと右手の親指を突き上げた。


「簡単よ。教徒になりたいって言えば、あっちから喜んで中に入れてくれるぜ!」

 

 そう言い、ある方向を向く。その視線の先には、見張り番が一人立っていた。


「じゃあ、俺がちょっくら一声かけてくらあ」

 

 少しも臆することなく、ラクエルが見張り番の元へ駆け寄っていく。その思い切りのよさに、アークは内心感心する。数分待つと、ラクエルがこちらへ戻ってきた。


「中に入っていいってよ」

「そうか。では、行くか」

 

 アークたち四人は見張り番に門を開けてもらい、セグ教の建物内に入っていく。

 

 建物の中は外観と同様立派な造りで、高級そうな絵画や置物が据えてある。


「おい、見ろよ。随分高そうな置物じゃねーか……」

「恐らく、教徒の寄付から手に入れたものではないか?」

 

 アークとラクエルがひそひそ話していると、ローブを羽織った人物が目の前にやってきた。


「……あなた方ですね。教徒になりたいというのは」

 

 そう、ローブを羽織った女性が言う。彼女は若いながらも、その話しぶりから教団の中で高い地位を与えられているだろうことが見てとれた。ラクエルが少し狼狽したように答える。


「そ、そうだけどよ」

 

 女性は、アークたち一行をまるで値踏みでもするかのように一瞥した。そして、一言。


「我が教団は、教徒の皆様からのご寄付で成り立っております。あなた方、我が教団にご寄付はいただけますか?」

「い、いきなり金の話かよ……」

 

 ラクエルが呆れたように小さく呟く。アークは考える。金を持っていない人間は、この場で振るい落とそうという腹なのだろう。では――。


「寄付か。では、これでどうだ?」

 

 アークは外套の懐に入れておいた財布から、金貨一枚を取り出す。


「……結構です。では、教祖の元へご案内いたします」

 

 女性はアークから金貨を受け取ると、「こちらへ」と言い、長い廊下へ一歩踏み出した。


「お、おい。いいのかよ? 金貨一枚も渡しちまって……」

「ああ、構わない。後で返してもらうからな」

「へ?」


 アークの発言に、ラクエルは不思議そうに首を傾げる。それから、どれほど廊下を歩いただろうか。気がつくと、アークたち一行は大きな木の扉の前へと辿り着いていた。


「この奥に教祖がいらっしゃいます」

 

 女性は扉の前へ立っていた男に何やら話しかける。


「今、ちょうど奇跡を起こされる時間だそうです。来たばかりのあなた方は幸運ですね」

「おい、奇跡だってよ」

 

 少し興奮した様子でラクエルが言う。


「そうか。ちょうどいいな」

 

 アークは小さくうなずく。そして、少し緊張した面持ちで呼吸を整える。


「では、どうぞ」

 

 女性は扉を静かに開ける。中を覗いてみると、まだ教祖の姿は見えなかった。部屋の中は広く、大勢の教徒が教祖の登場を今や遅しと待っているようだ。


「あ……っ!」

 

 不意にラクエルが驚きの声を上げる。それを不審に思ったアークが彼に問いかけた。


「どうした?」

「ソニアだ。俺の嫁さんがいるんだよ!」

 

 ラクエルはある方向を指さす。その先には、髪の長い女性がこちらに横顔を向け立っていた。彼女はまだ若いが、少し疲れた表情を浮かべている。


「そういや、あいつ出かけてくるって言ってたな。ここのことだったのか」

「何だ、夫のくせにそのようなことも知らないのか。管理不行き届きではないか?」

「し、仕方ねえだろ。この頃は仲が悪くて、ろくに話もしてねーんだからよ」

 

 まだラクエルは何か話したげにしていたが、今はゆっくりと彼の話を聞いている場合ではない。アークは静かにするようラクエルに言い、ほかの教徒と同じように教祖の登場を待った。

 

 それからほどなくして、部屋の一番奥の祭壇に向かい、一人の初老の男が歩いてきた。その光景を見た教徒の間から、わっと歓声が上がる。祭壇に着いた男は、教徒たちの歓声に応えるように片手を上げた。その姿は鷹揚としていて、彼がただ者ではない空気を感じさせる。

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