第17話 大きな迷子(2)

「……一体どこへ行ったのだ?」

 

 アークは立ち上がり、上着を羽織るとベルを置いて部屋を出ようとする。すると、その背中にベルが声をかけてきた。


「ねえねえ、アーク。あのおねーちゃん、なんなの?」

 

 当然の問いかけに、アークは一瞬返事に窮する。少女が生霊の書だと説明し理解させるのはグレッグ夫妻の場合と同様、苦心しそうだった。アークは逡巡した後、簡易に結論だけをベルに告げる。


「あの少女は身寄りがなくてな、これからオレたちと旅をすることになった」

 

 ベルは少しの間考える素振りを見せ、素直に「そうなんだあ」と呟いた。それに首肯してみせた後、アークは部屋を後にする。

 

 廊下を二、三歩進んだところで、アークの足がぴたりと止まった。生霊の書の少女を見つけようにも、ここは他人の家だ。勝手に捜し回るわけにはいかない。

 

 アークが困ったように頭を掻いていると、背後からポンと肩を叩かれた。


「どうした、アーク? こんなところに突っ立って」

 

 振り向くと、グレッグが不思議そうにアークを見つめていた。


「彼女を見かけなかったか? グレッグ」

「彼女?」

 

 グレッグは、ついさっきベルがしたのとまったく同じ反応をする。アークは小さくため息をつき、言い直す。


「昨日、オレが連れてきた少女だ。寝室からいなくなったようなのだが、見かけなかったか?」

「ああ、あの女の子ね。いや、見かけてないが……」

「そうか。済まないが、少し家の中を捜させてもらっても構わないだろうか?」

「それは構わないが……あ、アーク」

 

 了解を得て早々、この場から立ち去ろうとするアークにグレッグが声をかけた。


「余計なことだろうとは思うけどな、あの女の子どうするつもりなんだ?」

「どうするとは?」

 

 グレッグの質問の意図が読めず、アークは小首を傾げる。


「あの子にだって、家族がいるんだろう? 何の事情があって針の山なんかにいたかは知らないけど、家族の元に返した方がいいんじゃないか?」

 

 気遣わしげな声音でグレッグに言われ、アークは内心苦笑した。


「それなら心配には及ばん、オレが責任を持って彼女を家族の元へ連れていく」

「そうか、なら安心だ。引きとめて悪かったな、あの子を捜しに行ってくれ」

「ああ」

 

 安堵した表情のグレッグを残し、アークは生霊の書の少女を捜すため再び歩き出す。心から自分たちを心配してくれるグレッグに、真実を話せないことを心苦しく思いながら。

 

 グレッグ家の中をすべて捜してみたが、生霊の書の少女は見当たらなかった。

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