第11話 地下室での戦い(1)

「そこで何をしている」

 

 アークが声をかけると、男の肩がピクリと動く。そして、ゆっくりとこちらを振り向いた。


「……てめえこそ何だよ?」

 

 歳は二十歳前後、長身の黒マント姿の男が不愉快そうな声音で言う。


「この家の主ルドウィックに、不心得者から記録書とやらを奪うのを止めるよう依頼された者だ」

「依頼されたあ? あのジジイ、まだくたばってなかったのかよ」

 

 男は舌打ちし、細いつり目をさらにつり上がらせた。


「貴様がルドウィックを襲ったのか?」

「それがどうしたよ? 任務を遂行するのを邪魔するから、ちょっとばかしおとなしくしてもらおうとしただけじゃねえか」

 

 つり目男にまったく悪びれる様子もなく平然と答えられ、アークは不快感を覚えた。


「俺は手ぶらで帰るわけにはいかねえんだよ。ましてや生ける記録書、生霊の書を前にしてなあ!」

「せいれいのしょ?」

 

 初めて耳にした単語をアークがおうむ返しに言うのを聞き、つり目男は少し驚いた素振りを見せた。


「何だあ? てめえ、知らねえでここまで来たのかよ」

 

 つり目男はすぐ傍の寝台に近づくと、何かを抱えるような仕草をする。そして、ニヤニヤしながら抱えたものをこちらに見せた。


「これが生霊の書よ。なかなかの別嬪じゃねえか」

 

 アークは思わず驚愕する。目の前に現れたのは書物などではなく、一人の美しい少女だったからだ。肌の色は驚くほど白く、艶やかな長い銀の髪を持つ少女は、こんな切迫した状況下であるにも関わらず、深い眠りについているようだ。


「まだ目覚めてねえようだな。それならそれで、いろいろ覚え込ませる楽しみがあるってもんだぜ」

 

 つり目男は下卑た笑みを浮かべつつ、少女の頬を撫でた。

 

 ――生ける記録書だと? あれでは、ただの人間ではないか……!

 

 理解しがたい話を聞かされ、アークは大きく動揺する。


「つうわけで、生霊の書はもらってくぜ。邪魔するってんなら……」

 

 抱えていた少女の身体を再び寝台に戻すと、つり目男は中指を立てて挑発してくる。


「てめえも上のジジイと同じにしてやるよ。今度は間違いなく息の根を止めてやるけどな」

 

 殺気を向けられ、すかさずアークは身構える。そして、固く唇を結び、つり目男を見据えた。


「オレとて依頼されてここへ来たのだ、貴様の思うとおりになど決してさせん」

 

 頭の中はまだ疑問符だらけではあったが、このまま黙ってつり目男を見逃すわけにはいかない。問答無用の力で他人のものを奪うなど、アークが一番唾棄する行為だったからだ。


「へーえ、やるつもりい?」


 まったく怯む様子を見せないアークを前にし、つり目男はおもしろそうに笑う。だが、次の瞬間、その緩んだ表情は失せる。

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