46.マイナス方向の決断
何かあるか、と言われましても──私と芽衣が言葉につまっていると、土浦くんが話を広げる。
「んー、そうですねぇ。たとえば皆さんはゴーホームズを続けることのメリット、デメリットってどう考えてます?」
それに対して望海先輩が応える。
「ゴーホームズを続けるメリットは、言うまでもなく、今までどおり、僕らはみ出し物の場所が確保される事だよね。デメリットは、まあ学校に否を突きつけるわけだから、僕らの進学とか内申とかそういうのに影響するだろうし、活動如何では退学停学とかあるかもしれない」
「……え、そんな事になるんですか?」
私は思わず声をあげた。それは私的には辛い。
「急にそこまでにはならないとは思うけどね、何かあるんじゃないかなぁ」
「んー、僕の予想もそんな感じですけど、だからここは出来る限り表向き穏便に、最悪は地下に潜ってでも続ける方法を探しておかないといけないかも知れません」
土浦くんが言った。
「私は何であれ解散とか断固反対です! ありえないです。せっかく出来た居場所なのに、無くなるなんてあり得ない」
芽衣はわかりやすい反応だ。
「俺も、まあこんなだからねぇ、いまさら障害の一つや二つ増えても気にしないかな」
望海先輩も自身の女性姿を揶揄して言った。基本的に、皆、従う気はないらしい。
「で、最終的には天ヶ瀬さんに決めてもらおうかなって」
「えっ」
話が私に突然もどってきた。
「ちょ、何で私なんですか? そもそも、話自体は学校から望海先輩のところに来たんですよね?」
「うん、だから報告は僕の方からするよ。だけど決めるのは、やっぱり天ヶ瀬さんじゃないと」
「いやいやいや、決めてもらっていいですよ」
「そうですよ、なんで天ヶ瀬先輩なんですか」
芽衣も、そこは理解できない、という風に望海先輩と土浦くんに問いかける。
「そりゃ、天ヶ瀬さんはこの集まりのすべての切っ掛けだからだよ」
土浦くんが答えた。
「……あ、まあそうですね」
芽衣があっさり納得した。
「え、切っ掛けって……あたしなにかしました?」
すると三人は顔を見合わせる。
「落ち着ける場所を作ろうっていいだしたの、天ヶ瀬さんなんでしょ?」
えっ? あたしは思い返す。
――いつか、自分たちが落ち着ける場所を作りたいよね――たしかにそれは私が静子に言った台詞ではあるけれど。
「あたしははじめに言ったけど、作ったのは静子でしょ! ていうかリーダーとか冗談で決めたやつですよね」
「いや、花井さんは天ヶ瀬さんをリーダーにしたの本気の判断だったと思うよ。彼女、天ヶ瀬さんじゃなければ何もしなかったんじゃないかな?」
土浦くんが言った。
私は、静子の言葉をふと思い出す。
――深はさ、ふてぶてしく真ん中にドンっていると場が落ち着くんだよ。結構リーダーとか向いてると思うよ――。
「だからさ、天ヶ瀬さんが続けるといえば、僕らは続けるためにどうすべきか考えるよ」
それは、友人冥利に尽きるといったほうがいいのだろうか? けれど私は判断がつかない。それどころか、今は弱っているから、そういう煩わしい事柄が、心底嫌だと思っていた。
「……私はそんな器じゃないし、決められない」
「えー、今更そういうの無しですよ」
「だって、あたし一人の判断で、みんなの立場が辛くなったりすることだってあるんでしょ?」
「その時はその時」
「そう簡単に辛いことになったりしないから大丈夫だよ」
「あたし、みんな一緒に辛いならがんばれる」
「し、静子にも聞いてみたほうが……」
いや、私は静子の答えを既に知っている。彼女はたぶん続けるべきだと言うだろう。けれどこの判断は、望海先輩、芽衣、土浦くん、静子の他に、最近入ったゴーホームズの他のメンバーにも影響するのだろう。
そんなこと、嫌だ。面倒くさい。
何故こんなに後ろ向きになっているのか、私はふと思いう。私は、葵との関わりが切れたせいで心が弱くなっていた。
「……無理ですよ、そんなに期待されても。ていうかほんとなんであたしなんですか? 期待されても、私には無理です」
みんなの顔が曇る。──なんでそんな悲しそうな顔をするの?こんなことなら、いっそ強く文句でも言ってもらえればいいのに。売り言葉に買い言葉で、後腐れなく断れるのに。
私は、取り繕うように言葉を続ける。
「……も、望海先輩やればいーじゃないですか!ヒーロー気質だし、リーダー向いてそうだし!」
「僕は、世間的にこじれた人間だからねぇ、すべての人に公平には振る舞えない」
望海先輩は、自身の女装した姿を指して、自虐的に言った。
「じゃ、土浦くん、頭いいし、やったらいいじゃん!」
「自力がたりないですよ。ひ弱にみられちゃって、ついてこない人が出てくる。そこはNサポーターズ時代に経験済みだよ」
正直、リーダータイプではないのは、私から見ても明らか。
「め、芽衣」
「あたしは駄目です、勢いで突っ走ることしか出来ないので、いつかの事件みたいに、みんなを危険に晒してしまいます」
「じゃあ静子は……」
言うまでもない。彼女は身体を壊している。
「……」
私は、昨日あった出来事を恨む。もし、葵にフラれるのが明日だったら、少なくとも今日はもうちょっとポジティブでいられたかもしれない。
私は、今、世界を呪っているのだ。ごく個人的な理由と、そこから溢れ出た感情で。
「じゃあ、決めるよ……ゴーホームズは無期限活動停止。それまでは、それぞれがそれぞれの判断でもって、勝手に独自に行動して」
自分でもびっくりするくらい冷たい答えを返した。
結局、祭り上げられたリーダーとして確かな対応など何一つ出来ず、私はゴーホームズを活動停止にさせた。
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