45.高校生は情緒不安
葵にフラレた夜、私は、もう葵に会えないだろうと思って、帰宅後に布団の中で泣いた。ぶっちゃけ、世界などどうにでもなればいいと思った。世界への興味が失われたと言ってもいい。
それから、翌朝になって顔のむくみが酷いので休みたいと言ったら、両親は私を家から追い出して学校に行かせた。長い付き合いであるから、自分の娘が仮病なのか本当に具合が悪いのかわかるらしい。
けれど、べつに学校に行って授業に出席したところで、授業の内容が頭に入ってくるはずもなく、教師と同級生から、病み上がりだからと気遣われる始末だった。皆の優しさは心に染みたが、なにもかも面倒くさい私は、机にもたれかかって外をみながら授業を受けて、気づけば放課後になっていた。
そして帰宅部では、出席確認が終わった後でゴーホームズの仲間たちに連れ出される。それは、幹部会と静子が呼ぶ不定期な集まりだった。
参加メンバーは、私、静子、芽衣、土浦くん、望海先輩の五名。うち、静子は未だ欠席であるから、それを除いた四人が学校最寄りのファミレスに詰めていた。
「天ヶ瀬先輩、大丈夫ですか? 病み上がりのせいか、ちょっと元気が無いですね?」
とは芽衣の気遣いだ。
私の中で葵との事については、まだ整理がついていなかった。フラレてしまった、だなんて伝えることも出来ず、ただ気だるそうな自分を見せることしか出来なかった。
「いちおう……大丈夫だよ」
今回の集合をかけたのは望海先輩だ。望海先輩は、一つ重大な相談があるといって私たちを集めていた。
大まかに言うと、私たちのゴーホームズという集まりが思っていた以上に世に知られ、懸念を持たれているという事なのだけれど──。話を聞いた芽衣が声をあげた。
「えっ、解散しろっていうんですか?」
「ゴーホームズをですか?」
土浦くんも思わす聞き返した。
「なんで学校からそんな話でてくるんですか?」
芽衣が質問を重ねる。それは学校側からの通達らしかった。
「公認部活内に、非公認のよくわからない集まりを作るんじゃないってさ」
「そんな要求がなんで学校側から出てくるんですか? というかゴーホームズのこと、なんで学校に知られているんですか?」
芽衣が、望海先輩を問い詰める。
「別に僕たちは箝口令を敷いているわけじゃない。秘密の地下組織じゃないんだから、そりゃ伝わるところには伝わるよ」
望海先輩は、今回の話についての、裏話を続けて話してくれた。
聞く所によると、今回の私達への要求は、部員を帰宅部内のゴーホームズに引き抜かれた、学内の各種部が、学校側に報告した事に端を発しているらしい。加えて、その話についた尾ヒレとして、私たちが、既存の部の退部を奨励している、という話もあるようだった。
「そんなことしてないじゃない! なにそれ何でそんな話になっているの!?」
芽衣が声を荒げる。私は、若いってのは熱いことなんだね、と一つ違いの後輩を見て思う。それに対して土浦くんが、冷静な分析をしてみせる。
「まぁ、事実としてはそういう事も会ったんじゃないかな。──ようするに実は退部したかった、っていう見えない需要を掘り起こしちゃったことが問題なんだろうね」
私達の集まりのコンセプトは、結果として
ただ、問題はそこじゃない気がしていた。
うちの学校は大枠となるルールの範囲を逸脱しなければ、それはもう気持ち良いくらいの放任主義だった。
学生の領分を大きく逸脱したり、誰かの法律上の権利が侵害されたり、怪我をしたりなどなければ、何も言わない。むしろ自主的な活動はそれがどんなものであれ尊重すらしてくれる。そんな校風だ。それが、学校として生徒らの活動に文句を言い介入するというのがどうにも納得できない。
土浦くんが尋ねる。
「望海先輩はどう思います?」
「どうって?」
「例えば誰か外部の人間が、学校側に対して、僕らの集まりに圧力をかけるように働きかけたりしていないかって話ですよ」
「えっ、そうなんですか? これそんな話?」
芽衣が驚く。
「いや、状況的にそうじゃないかなーって、僕思うんですよね」
それは、土浦くんなりの仮説らしかった。
「うーん、
「え、そんな事までするんですか? あたしたち無害な学生ですよ?」
芽衣が驚いて聞き直す。
「……もともと、
「私達ジャマなんですか?」
「……さあ、そこまでは。……ま、とりあえず、これについて、もう少しみんなの意見を聞きたいんだけど、何かあるかい?」
望海先輩が私たちを見渡して言った。
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