22.女子高生と事の顛末
土浦くんは、全身に打撲と骨折をしていた。
ただ、彼自身は何がしかの変異因子をもっていた事が幸いしていた。つまり、以前教室で言っていたとおり彼は頑丈だった。病院で芽衣も怪我の簡単な治療を受けた。
その合間に、私は芽衣に土浦くんとの因縁を尋ねる。
「でさ……結局、真知山と土浦くんは、仲が良いの?悪いの?」
すると、芽衣はびっくりした顔になって押し黙る。それから何か観念したように口を開いた。
「……えと、私がウラカンでちょっとグレーな活動をしている時に、何度かNサポーターズに鉢合わせして、それで補導されそうになった時に土浦先輩に逃してもらったりとか、そういうのが何度かあったんです。そのせいで、私、ウラカンのメンバーから、Nサポーターズに通じているんじゃないかって疑いをかけられちゃって」
芽衣は力なく笑った。つまりは、まあ芽衣なりに迷惑を被っていたと。
「で、まあ私としては必死になって、否定するわけですよ、土浦先輩やNサポーターズと何の関係もないって。そうしたら、今日も街宣活動で鉢合わせして」
ただ一方で芽衣は、今にも泣き出しそうな様子だった。
「それで、さっきの騒動の中で、
後半の話は私も見ていたから知っていた。
「へー、土浦くんかかっこいいじゃん」
静子が、ちょっと茶化すように感想を述べた。
「そうですね……」
当の芽衣は、誰かが目の前で怪我をしたという事実と、おそらく今まで関わっていた自らのグループが、とんでもない事件を引き起こしてしまったせいで、肩を落としていた。病院には、同じ事件で怪我をしたと思しき人たちが何人も訪れていて、それがいっそう気分を重くさせた。
会計を終えたあたりで、芽衣がポツリとつぶやいた。
「……土浦先輩、なんで私のことかばったんですかね?」
「……何でって?」
「Nサポーターズと怪人結社は通常対立しています。だから土浦先輩が、何故自らの所属する団体の方針を無視してあたしを救ったのかちょっとわからないんです」
「……そりゃ……うん、なんだろうね?」
それは、要するに土浦くんの正義感?一方静子はまったく違う事を言った。
「惚れてるとか?」
芽衣がまた驚いた顔になる。いやいやいや、そういう話ではないでしょ。この恋愛脳め。
以前みた彼の過去の風景でいうと、彼は幼い頃の自室で、ヒーローのTV番組を食い入るように見ていた。私が思うに、たぶん誰よりも正義の人なんじゃないだろうか? それはNサポーターズとか所属とか関係なく、彼を突き動かした──まあ、聞いてみないとわからないけど。
私は一つ気になっている質問をした。
「真千山も因子保持者なの?」
私の質問に対して、芽衣はすこし躊躇したあとで応える。
「私、テレビの怪人なんです」
「て、テレビ?」
静子が驚く。
「ステージ一ですけど、私みたいなTVとかメディア系の因子を持つ怪人って結構いて、今回それがあつまって、メディアジャックをするっていうのが、活動の趣旨だったんです」
静子も私も驚いた。
「え、そんなことできるの?」
「……ええ、複数の怪人の能力でメディア介入や中継をするので、その……大規模にできるって話らしくて、やった個人の特定もしづらいし」
「でもさ、そんな犯罪に肩貸すようなこと強いる集まりってなんなの? こんなに怖い目にあってさ、良くないんじゃないのそういうの?」
「そうですね……でも、あたし居場所ないから」
私の指摘に対して、芽衣は小さな声で同意をした。すると、突然芽衣の意識が私の中に流れ込んできた。
「……っ」
私は、例によって芽衣の奥底にあるものを幻視した。
その風景は、狭苦しい居間で、一人ずっとTVを見ながら親の帰りを待っている童女の姿だった。
毎日毎日夜遅くまで、闇夜の恐怖を紛らわせるようにTVを見ていた。時折、酔って帰ってくる母親、そして父親。どちらも、あまり教育上良いとは思えない大人に見えた。その様子は一瞬で消えた。
芽衣は本当に居場所がなくて、ウラカンを選んだのだろう。けれど、結果としてこんな場に居合わせることになった。無力である子供からどうにか抜け出そうとして、もがいて、あがいて、それでもまた苦しみに鉢合わせをしたのだ。
私は芽衣を見て言った。
「やめちゃえば? そんなの」
自分でも意外な言葉だった。
「えっ」
「あ、それあたしも同意」
静子が、言いながら携帯のニュースを読み上げる。
「今さ、遅れてニュースやってる……なんか真知山の組織から声明が出ててさ、ようするに……あんたんとこの人たちがさ、
「……え、どういうことです?」
「だからさ、警察とか
静子はこう見えて頭がいい。そして、芽衣は顔色を変えた。
「……でも、それじゃけが人が沢山でて」
「……そうだね」
私は悲しげに同意した。負傷者が多数。被害は市民にも及んでいた。
被害状況がメディアに取り上げられる中、警察と
「だからさ、あたしも、深の言う通り、そんなところやめちゃいなって思うよ……簡単じゃないのかも知れないけど……あ、もしかして辞めるのにレディースの脱退みたいなことあるの? リンチとかさ」
「え……そ、それは、わからないです。それよりも、今回の件で、みんな捕まったりしてるらしくて、あたしもそのうち、警察とかに捕まっちゃうのかなって」
普通に考えて、芽衣の所属していた団体だって今回の件で警察に取り調べをうけるような事がありそうだ。
「先輩たちにも迷惑がかからなければいいんですけど」
「え、あ……」
私は驚く。考えていなかった。その影響は私たちにも及ぶかも? ──芽衣次第では私たちも手伝ったことになる。私は、一瞬、面倒なことになるから関わるなといった母の顔が浮かんだ。
「まぁ、深だってそのへんは覚悟の上でしょ?」
「えっ、あー……うん」
私は不安の混じった返事をする。一方静子は、こういう時けっこう図太い。
「その時はその時よね、大丈夫、なんとかなるって。あたしたち善意で助けてるんだから」
「そ、そうだよね」
さっきの勢いはどこへやら。私は、ちょっと弱気になった。
しばらくして、土浦くんのご両親が病院に現れた。私たちは、丁寧にご両親に挨拶をすると、病院から引き上げる。帰りは静子のところの赤松さんの車で送ってもらった。
部活をやめて、平穏無事な日々になるかと思いきや、ここの所、事件つづきでちょっとげんなりする。正直、もうちょっと落ち着いた学校生活が送りたいと思った。
ただ、一方で何か波乱が待っているのではないかという予感があって、私はすこし不安をつのらせていた。──それに、今日もまた幻を見てしまった。
私は、やっぱりどこかで、一度葵に相談したほうがいいだろうと思った。
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