21.惨事の決着

 カフェを出て液へと向かった私は、先程の広場に入る商店街の手前に到着した。すると、既に警察が非常線を張っていた。

 駅の中心部へ向かう路地は他にも沢山ある。私は、正面をあきらめて、裏路地に入る。そこから、こっそり駅前に向かった。


 なんとなく確信があった。芽衣も土浦くんもたぶん大丈夫だ。

 私は、迂回した裏路地から、あっさりと駅前の広場にたどり着いた。そこはまだ煙が立ち込めている。広場は思ったよりも落ち着いていて、警察がウラカンのメンバーを一箇所に集めてる。

 しかし、そこに芽衣の姿は見えなかった。


 そういえば特殊保安官ネイティブガーダーも見当たらなかった。

 さっき目撃した全ての人がそこにいる訳ではなかった。別の場所でなにか衝突が続いているのかも知れないと思った。

 

 私は物陰から駅前広場を伺う。隠れられる場所は限られる。すこし思案する。──なんだか線路沿いの立体駐車場が気になり始めた。

 たぶん、そこにいる。それにしてもこのカンの冴えはなんだろう? これが、いつかの葵の薬の作用だというのなら、悪いものでもないと思えた。


 私は、警察に見られないように、物陰を経由して立体駐車場にたどり着いた。自動化されていて、管理人らしき人は居ない。中を覗き込む。真知山芽衣が、その駐車場の奥にある、上層階へと向かうためのスロープの陰で息を殺して隠れているのが見えた。

 見れば、傍らに血まみれの土浦くん倒れていた。私は、彼女の側に近づくと声をかけた。


「真千山」


 声をかけられて、芽衣がビクッと反応する。誰? というような表情をして振り返った。


「……せ、先輩? どうして?」

「……え、うん……たまたま、土浦くんは?」


 すると芽衣はひどく混乱した様子で、弁明を始める。


「あの、私、あの……これ私がやったんじゃなくて」


 わかってる。けれど私も説明が面倒くさい。


「うん、助けたんだよね? 真千山が」

「は、はい……?」


 土浦くんを見ると頭から血を流している。つい先週まで包帯ぐるぐる巻だった上に、さらに怪我を負っていた。昏睡しているかと思いきや、私の気配を感じ取って目を開く。


「誰かいるの?」


 土浦くんはかすれた声で尋ねた。


「天ヶ瀬深だよクラスメートの」

「……天ヶ瀬……さん? なんで?」

「助けに来たの」


 その言葉に、芽衣も土浦くんも一瞬驚いてみせた。


「……なんで?」

「細かい話はいいから……それより土浦くん、大丈夫?」

「体中痛いけど、僕は頑丈なので」


 どう見ても大丈夫には思えなかった。それにしても一つ疑問がある。土浦くんと芽衣はなんで一緒に逃げているのか?


「何故、土浦くんはNサポーターズと一緒に行かなかったの?」


 そう尋ねると、芽衣が悲しそうな顔をして言った。


「私を助けようとしたから、裏切り者扱いされているんです。今出てったら、多分土浦さんは警察に突き出されます」


 土浦くんは、それを聞いてフッと笑った。


「笑い事じゃないですよ、バカなんですか?」


 状況は理解できた。けど、捕まったって病院には連れて行ってもらえるだろうに。


「……はあ、なんかこじれてるっぽいねえ」


 私は思案する。つまり、どうにかして、ここから二人を連れ出さなきゃいけないということか。


「土浦くん肩貸したら歩ける? 芽衣、片方支えて。移動するから」

「ちょ、ちょっとまってください。あの、あたし……警察とかNサポーターズとか特殊保安官ネイティブガーダーにみつかったら……その、土浦先輩以上に、たぶん捕まるんです……だから、その土浦さんだけ、なんとかしてもらって」

「真千山はどーするのよ? 逃げたいんでしょ」

「私は……自業自得なので」


 芽衣は泣きそうな顔でいった。

 私は土浦くんを見る。どう考えても一人で土浦くんを引きずっていけるとも思えない。


「そのシャツぬいで……」

「えっ」

「そのシャツ着てなければ、たんなる怪我をした女子高生でしょ。ほらこれ着て」


 私は言いながら、日焼けしないようにと羽織ってきた薄手のパーカーを脱いで渡す。


「は、はい」


 芽衣は、シャツを脱ぐと私のパーカーを受け取って羽織る。私は、ウラカンのシャツをまるめて、自販機のゴミ入れに無理やりねじ込んだ。

 芽衣が、あっけにとられて私を見ていた。

 携帯が鳴った。静子からだ。


「静子? 今どこ?」

『南口の大通りの先、検問の手前で止まってる。じっとしてろって言ったのに移動した?』

「うん」

『まったく……どうすればいい?』

「そのへんコンビニあったでしょ? そこの駐車場にいて、芽衣と土浦くんに会えたから、こっちから行くから」

『わかった……』


 私は、電話を切った。私と芽衣は土浦くんに肩をかして立ち上がる。裏路地に出て、市街の外を目指した。──流石に、私たちは怪我人に見えるだろう。警察に呼び止められたら、言い訳も立つはずだ。そして、予想通り私たちは検問をすんなり抜けることが出来た。


 コンビニで静子の出迎えを受けると、私たちは車に乗って、土浦くんを最寄りの救急病院に連れていくことにした。

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