20.真知山芽衣と少し前の幻

 それは、すこし前の駅前の風景。

 市街地の駅前に集まる、真知山芽衣を含む同じTシャツを着た若い男女。芽衣はリーダーらしき男と話をしている。


 彼らの集合場所には、横付けされた、ワゴン車があって、その中は放送車のようになって、いくつものモニタが並んでいる。そこには、ブラウン管の頭をした怪人が数名いて、なにか作業をしていた。たぶん、彼らが海賊放送をしているのだろう。


 それからまた場面が切り替わる。

 眼の前に、Nサポーターズが姿勢を正して、ずらりと目の前に並んでいる。どうやら、ウラカンの街宣活動を封殺するつもりらしい。イライラした様子で、ウラカンの面々がNサポーターズに文句を言っている。

 そのNサポーターズの中に、包帯のとれていない土浦くんがいた。 


「土浦先輩、性懲りもなく来たんですか?」


 それは芽衣の声だった。


「はは、まあそういう活動をする集まりだからね」


 土浦くんは人の良さそうな笑顔で行った。


「なんでいつも邪魔するんですか? 私のゆく先々に現れて。ストーカーですか?」

「たまたま縁があって相対しているだけだよ」


 これは、芽衣の視点だろうか? 彼女の声は聞こえるが表情は見えない。ただ苛立っていることだけは理解できた。


「こないだ、先輩のせいであたしひどい目にあったんですから、今日はそのリベンジです。邪魔しないでください」


 何があったのだろう。


「まあ、止めるも何も、君たちの活動次第なんだけどね……」


 土浦くんが、なにか申し訳なさそうにそう応えると、誰かが芽衣を叱る。


「余計な話をするな、自分のやるべきことをしろ」

「は、はい、すいません」


 芽衣の恐縮した声が聞こえた。


 それから、さらに場面が切り替わる。

 混乱した駅前の風景。眼の前で、ウラカンの人たちと、Nサポーターズの衝突が起こっている。これも、真知山芽衣の視点だろうか?

 緊張した様子で、逃げ惑っているようで荒い呼吸が聞こえる。眼の前に、虎の怪人が現れ、誰かを殴り飛ばす。それをかいくぐって逃げる芽衣。芽衣は、何人かのNサポーターズに追われていた。


 芽衣は路地に逃げ込もうとすると、肩をつかまれて引き倒された。振り向くと、興奮状態にあるNサポーターズが警棒のようなものを振り上げる。芽衣の悲鳴、そこにウラカンの狼の姿をした怪人が割って入って、男を吹き飛ばす。しかし続いて、特殊保安官ネイティブガーダーが現れて、その怪人を芽衣もろとも薙ぎ払った。

 狼の怪人はその一撃で、大きな怪我を負ったようで血まみれになっていた。


 特殊保安官ネイティブガーダーは倒れている芽衣に対して、追撃をしよう歩み寄る。すると土浦くんがあらわれて、止めに入った。

 特殊保安官ネイティブガーダーは一瞬、手を止める。


「あの、この子は僕の知り合いで……」


 言い切らないうちに特殊保安官ネイティブガーダーは、土浦くんと芽衣をまとめて蹴り飛ばした。


「……!」


 びっくりして我に返った私は、意識をカフェにもどした。

 さっき一瞬、芽衣と土浦くんが血まみれだったのはそ、今見た景色の結果だったのだろうか? 私は、煙で何も見えない携帯の画面をOFFにすると立ち上がった。会計を済ませてカフェの外に出た。


 市街地の駅のある方向を見ると煙が上がっているのが見えた。

 ひっきりなしにサイレンの音が聞こえる。同じように、路上に出て駅の方向を見ている人たちがいた。


 私は、駅に向かって歩き始めた。

 たぶん、さっきの場所へは五分程度でたどりつく。だけど、私は行って何をするのか? 何が出来るのか? ──私は、良くないとわかっていながらも、携帯を取り出すと、静子に連絡をしていた。


 静子は出ない。バイト中か、あるいは自宅か。出てよ、静子。祈るように数度リダイヤルをすると、向こうから馴染みの声が聞こえた。


『ちょっと深! 何度もかけてうっとおしいんだけど!』


 その声のトーンは低く、静子の周囲からはファーストフード店らしき喧騒が聞こえる。どうやら店内にいるらしかった。


「ごめん!バイト中だった? ……あのさ、ちょっと急な相談があるの!」

『いまあがるとこだけれど……どうしたの?』


 静子の背後の音が変わった。たぶん、バックヤードに入ったのだろう。私は、いま携帯のネットTVでみた内容を伝えた。それから、真知山芽衣と土浦くんが、そこにいる、という事も。


『……それ、さっきうちでも話題になってた。なんか大変らしいね』

「うん……でね、今から真千山と土浦くんを助けに行く」

『は?』


 静子の驚きの声が帰ってきた。


『ちょっと、何言ってるの?』

「芽衣たちを助けなきゃ」

『あのねー、本気?あんた行ってどうなるってもんでもないでしょう?』

「……うん……でも、行ってみる」

『……なんで』

「わかんない……でも行かなきゃいけない気がして」


 静子は受話器越しで、しばらく考え込んだ後で、すんなりと協力を申し出た。


『あーもう、よくわからないけど、深がそういうなら手伝うよ。とりあえず……今の話だとアシが必要だよね。ちょうど車あるから』

「車?」


 免許なんてもってたっけ?


『今日さ、うちの赤松が迎えに来てくれてるの……その、さっき親から連絡があって……まあ、それはいいんだけどさ、どっちにしてもバイト後に深と合流したらどっか送ってもらおうと思ってた所だから』

「……赤松って、お手伝いさんだっけ?」

『そうそう』


 花井家に古くからいる、昔で言うところの下男だ。そんな人がいるくらい、静子の家は大きい。ずっと昔に静子の家に遊びにいったときに、静子の家で遊ぶ私たちの世話をしてくれたことを覚えている。


『ついたら連絡するから、勝手に動いたりしないでよ?』

「うん、わかった」


 私はじっとしていろ、という静子の注文については、約束できないと思った。

 ただ、気遣いは嬉しかった。

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