51.決意の行動

 浅葉邸を離れた私はあれこれと考え始める。

 最近、私の中に困った時の静子、というロジックが出来上がっている。私は家に帰った後で、すぐに静子に連絡を入れた。


 細かい話は置いておいて、要点を伝える。失恋から復調していろいろ考えた結果、攻めに転じたいこと。そのために、ダムへ向かうのだという事。


『ダム?』

「ダム、相良川の上流の」

『……わからんわー、男子の好み。葵くんはダム好きな子なんだ』


 とは素朴な静子の感想。いや葵の目的はダムじゃないんだけど、それは言わない。

 聞きたいのは一抹の不安が杞憂であるかどうかだ。彼は、再会したら私を再び拒むのではないだろうか?

 私の不安を察したように、静子は私に言った。


『まあ、こないだの話だと、完全に嫌われたとかじゃないだろうから、自然を装って会えば、案外互いの切っ掛けになるんじゃない?』

「そう思う?」

『うん』


 静子は言葉を続ける。


『ただ、偶然を装ってっていうのは、どうやっても無理が出るから、ちゃんと言ったほうがいいよ』

「ちゃんと? ……何を?」

『わかんないけど、深がその子に会いに行くってことは、前回消化できなかったことをぶつけるんでしょ? 好きとは別の何かをさ。だから、もう一度話にきましたって、言わないと』


 そのあたりは私も踏ん切りがつかないでいた。


「……うん、うまくいくかな?」

『知らないよ、そんなの』

「ははは、そうだよね」

『でも、深あんたはさ、決めたときはちゃんと動ける子だよ』


 急に褒められてびっくりした。


「……ありがと」


 静子は私の期待どおり、私を後押しして不安を払拭してくれた。

 亜子さんに薬をもらったときは、実はまだ迷っていた。環境とか人類とか自然科学とか、研究所とか変異者ヴァリアントの権利とか、そういう話に部外者の私がどこまで絡んでいいものかって。


 しかし、迷いはなくなった。これは、科学でも医学でも人類の話でもなく、私と葵の話なのだ。


 私は、葵を探して、相良川の上流に向かう準備をする。葵が言っていたダムは三つあった。相良ダム、宮山ダム、城が瀬ダム。そのどこかにいるのか、あるいは全くの見当違いか、そのあたりは分からない。そんな不確定な状態で、私はよく行く気になったものだと思った。


 地図をみる限りでは、ダムはそれぞれバスで一時間前後の距離に密集していたので、朝いちばんで出発する必要があった。葵に会いに行くのだから、なら当然勝負服がいいと静子にいわれて、再び一張羅のワンピースを手配する。そして、たぶん歩くだろうからスニーカー、小旅行用のバックパックを用意した。

 これが、私の戦闘装備だ。

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