二つの勢力
18.ウラカンとNサポーターズ
翌日以降で、私は葵に連絡をしたのかと言えば、それもしなかった。
私は思い立った時に行動しなければ、どんどん腰が重くなるタイプだと自覚している。それが、そのまま現れたのだろう。ああ、ものぐさですよ私は。──いちおう毎日葵の教室は覗いていたのだけれど、葵には会えなかった。
代わりに約束の日がやってきてしまう。
それは、真知山芽衣に勧誘された、ウラカンとかいう怪人結社の街宣活動の日だ。
前日、私は母親からの反対もあったことから、事前に芽衣に対して断りの連絡を入れようとした。しかし、断念をしている。──問題は、私は真知山芽衣の連絡先を知らないことだった。
私は自分の携帯を見て思った。
なんで?メッセンジャーで真知山芽衣は私に連絡してたじゃない?
ならば通知記録に真知山芽衣の連絡先がのこっていそうなものだけれど、そこに真知山芽衣の連絡先は残っていなかった。
あの子は、私にどうやってメッセージを送ったのだろう? ──きっと私の知らない、新しいサービスがあるのだろうと、静子に聞いたりもしたが、静子も良くわからないと言っていた。
私は、結局、真知山芽衣と当日会うことにした。もちろん、直接断る為にだ。
たぶん他にも人がいるだろうけど、真知山芽衣だけ連れ出して、ちゃんと話せばわかってくれるだろう。そう思って、真知山芽衣の指定する集合場所に向かった。しかし、私の目論見は現地で脆くも崩れることになった。
「……なんでよ」
指定の場所は駅前広場だ。
そして、私がそこにたどりついてみると、広場は人でごった返していた。
ウラカンらしき同じTシャツを着た一団と、ベレー帽にスカーフというボーイスカウトのような格好をしたNサポーターズが一同に介していた。彼らはにらみ合い、一触触発の状態にあって、駅前の一般人は明らかに困惑している。
いちおう、どちらの集団も、一般人には邪魔にならないようにしているのだけれど、私にしてみれば、不安しかない。
「ちょっとぉ、この状況でどうすればいいのよ」
私は一人ぼやく。ただ、考えようによっては、会えなかったからと、帰ってしまえるからいいのかな? なんて不遜な考えが頭をよぎる。
すると私の携帯電話に着信があった。
「えっ!」
見れば、通知が真知山芽衣となっている。ちょっとまって、私は真知山芽衣に連絡先を教えていないし、通知登録した記憶もない。どんなオカルトかと思ったけれど、仕方がなく私は電話に出た。
「……はい」
『あ、天ヶ瀬先輩ですか? 来てます? すいません、ちょっとNサポーターズが来たせいで、こっちも臨戦態勢になっちゃって、しっちゃかめっちゃかで』
それは、真知山芽衣の声だった。──私は尋ねる。
「あんた、なんで私の連絡先知っているの?」
『ええと、ちょっと特技で』
「特技?」
『その話は会ってからでもいいですかね? 天ヶ瀬先輩は来てるんでしょうか?』
「来てるよ」
『あ、来てくれたんですね。ありがとうございます』
「断りに来たの。連絡先わからなくて」
『……そんなら帰宅部の時に言ってくれればいいのに』
「……それは、そうなんだけどね。連絡先しらないし」
私は心の中で詑びた。ごめんね、期待させて。ものぐさで。
『あっ、先輩見つけました!』
ふと振り向くと、人混みの中から芽衣が携帯を片手に現れた。芽衣は胸にHURACAN(ウラカン)と書かれたTシャツを着ている。
「よく見つけたね」
「へへ……でも、参加は見送りですか……」
「うん……」
すると芽衣はすこし悲しげな顔をした。
「残念です、でも来てくれて嬉しかったです」
「別に、帰宅部でいつも会ってるじゃん」
「そういうことじゃないですよ」
わかる。期待して、それが僅かばかりでも誠実に帰ってくると人は嬉しいのだ。私は期待の全てには応えられないけどね。
それにしても、と私周囲を見渡す。
芽衣の明るい笑顔と裏腹に、周囲はピリピリとした雰囲気でどうにも重苦しかった。さっきから、彼女の所属するグループが駅前にたむろしていて、それを取り囲むようにNサポーターズが直立姿勢で並んでいる。さらに、それを駅前の交番の警察官が見ている。交番の警官の人数はいつもより少し多いようだった。
「あれは、大丈夫なの?」
私は、周囲の様子を芽衣に尋ねる。
「感じ悪くみえません? ちょっと、なんかやらかしそうだし、ほんとNサポーターズって迷惑なんですよね」
ほら、というように芽衣はNサポーターズを指差す。そこには、クラスメートの土浦くんらしき顔もあった。ホントに参加していた。
「まぁ、統一感はあるけどねぇ」
「でも、服装とかも野暮ったくてダサいし」
──いや、芽衣の所属する集まりも大概だと思うけど。
芽衣は自身のグループを棚に上げて言った。彼女のいるグループのちょっとしたガラの悪さを見ると、どっちもどっちだ。
ふと見ていると、土浦くんらしき人物と芽衣の目が合う。芽衣は土浦くんに「べぇ」とバカにしたようなサインを送って、プイとそっぽを向いた。本人は、何か思う所あるのだろうけど、その仕草は可愛くて、何の効果も無い気がした。
一方の、土浦くんはどうもバツが悪そうに苦笑いを返した。──なにその微笑ましいやりとり。
「不参加は残念だけれど、ウチカッコいいと思いませんか?」
「えっ……あー、うん」
促されて、芽衣のグループを見る。サブカル系個性ファッションの集まりに、市民活動家っぽいプラカード。──それをカッコいいかと言われると、なんとも。そういう、リアクションに困る質問はしないでほしいなー。私、意識低い系なので。なんなら意識無い系だし(死んでる)。
私が微妙な反応を示していると、芽衣は気にせずに言った。
「あ、何か面倒が起きるかも知れないので、先輩は離れていたほうがいいですよ。正直、あたしもこんな感じになると思っていなかったから、先輩が参加したらどうしようとか考えていたんです」
そりゃ、そうだよね。新人にはハードルが高すぎる。
「入った子はいるの?」
「いますよ」
見れば不安げにしている子が何人かいる。その子らだろうか?
「まぁ真千山のところの集まりには行けないけど、今度お茶でもしよう。静子も一緒に」
「期待しないで待つようにします。あ、折角だからウチらの海賊広告見ていってくださいよ。この辺が配信範囲なので。もし用事がなければ、ですけど」
「え、あうん……わかった」
ちなみに、芽衣には申し訳ないのだけれど、実はこの日この後、私は静子と会う予定を入れていた。ただ、静子のバイトが終わるのは夕方だ。それまではだいぶ時間があった。
「じゃああたし行くね、なんていうか……がんばってね」
「はい!」
私は手をふって別れた。彼女は、ウラカンの集まりの中に戻った。
これで、一つ私の重荷が取り除かれた。──真知山芽衣にはほんと悪いと思うけれど。
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