第5話 ノブナガ、麒麟を召喚する

「なるほど。これには、そう云う意味があったのか」

 ノブナガはその白手袋を爪で引っ掛けて何度も見直している。

 相手の態度とかで気付かなかったのか。


「馬鹿をいえ。わしとて、そこまで愚かではないわ」

 ちゃんと対策は講じてきたらしい。

「約束の日時は、4日後にしたからのう」


 ネコ相手に、絶妙な日時設定だな。

 多分きっと、ノブナガも忘れてそうだ。


 ☆


「だが、このままでは埒が明かぬ。わしの方から町内のネコどもに召集をかける事にしたぞ」


 おお、なんだか天下人っぽい。


「そこで蘭丸。お主に頼みがある」

 すごく真剣な表情でノブナガはあたしの足にすり寄って来た。

「むう。なにやらおでんが食いたくなったのう」

 ノブナガ、お前いま、あたしの足で、味の染みた大根を連想しただろう。


「誰が晩ご飯の話をしておるのじゃ、愚か者め」

 そう言いながら、ざり、ざり、とあたしの太ももを舐めている。

 ちょっと痛いぞ。


「わしは自分に足りないものに気付いたのじゃ。何か分かるか」

 得意げにあたしを見上げるノブナガ。自分で気づくとは大したものだけれど。


 いっぱいありすぎて分からない。



「わしに足りないもの。それは、麒麟じゃ」

「は?」

 キリン? ネコなのに?


「昔から、ネコに麒麟というであろう」

 それは、『猫に小判』では……。たしかにキリンも黄金色っぽいけど。


「お、おのれ蘭丸。また主人に恥をかかせおったな。今日こそ本当に手打ちにしてくれるわ!」

 そう言うとノブナガは、ぺしぺしとネコパンチを繰り出してきた。

 まあ、手打ちだけれど。

 でも気をつけないと、爪が出てる事があるからな。


「ところで、どうして麒麟なの」

「うむ。昨夜、わしは天啓を受けたのじゃ」

 おそらく、日曜の夜8時に、テレビからだろうと想像はつくけれど。


「そこで、蘭丸。麒麟を呼ぶ方法を調べるのじゃ」

 ネコの集会に麒麟が来れば、ノブナガにも箔が付く、という事らしい。


 ☆


 ―――はあ、キリンなぁ。


 電話の向こうで、幼なじみが変な声を出した。

 彼の家はすぐとなりなのだが、最近はちょっと疎遠になっている。

(あたしも、もう高校生じゃないからな)

 昔みたいに、下着姿で彼の部屋に押し掛ける訳にもいかないだろう。


 ―――キリンなら、南雲動物園にいたぞ。ほら小学校の遠足で行っただろ。


 ああ、確かに。そうだ思い出した。

「あのとき、チンパンジーにウ〇コを投げつけられて、酷い目にあったよね」


 って、そんな話のために電話しているんじゃないんだけれども。

 動物園のキリンじゃなくて、麒麟なんだよ。


 ―――えーとな、確か。


 立派な政治を行う君主の許に現れる聖獣で、理想の世が出来上がるという瑞兆なのだそうだ。


 この男、昔からライトノベルしか読まないけれど、意外とモノを知っているから頼りになるのだ。



「なんじゃ、にやけた顔をして」

 あたしは、慌てて顔をこする。

「いや、何でもないよ。それより麒麟のことだけど」


 ノブナガの許には、千年待ってもやって来ないという事がはっきり分かった。


 ☆


「では、話は簡単じゃ。来ぬのなら、騙してでも呼べばよい」

 騙す、って。なぜそっちに向かう。


「集まったネコで輪をつくり、一心に願うのじゃ。麒麟さまおいで下さい、とな」

 なにか変な飛行物体が来そうな気がするけど。

 円盤に吸い上げられるネコたちの姿が頭に浮かんだ。



「ならば、誕生日パーティ作戦はどうじゃ」

 もっと意味が分からない。麒麟に誕生日があるのか?


「生き物であるからには必ずあるに決まっておろう。2月6日じゃ」

 言われるままに、その日生まれの人を検索してみる。


「えええーっ。福山雅治、石塚英彦、それと杉浦ヒナタ?」

「おい、最後のは誰じゃ」

「え、知らない」


「で、なんで、ましゃなの」

「うぬ? 知らぬのか。この絵をよくみるがいい」

 アルコール飲料の缶をノブナガは指さす。麒麟のラベルだが。


「まさか、龍+馬≒麒麟、だから?」

 でも、龍馬伝って。

 そのころ生れてなかっただろう、ノブナガ。


 でも、本当に福山雅治が来たら、あたしも呼んでほしい。



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