第2話 天下統一に暗雲漂う
ノブナガの天下布武計画は果たしてどこまで進んでいるんだろう。
そう思って直接訊いてみた。
「うむ、いま最大の敵はあれじゃ。中華料理屋の3匹かのう」
ああ。それなら知っている。
『中華飯店みよし』の黒猫三姉妹だ。
名前はリンちゃん、ミンちゃん、それとメイちゃんだった。
いつもこの3匹が縦一列になって散歩しているのを見かけるが、みんな結構、体格がよくて迫力があるので、小さな子供はこわがって泣いていたりする。
「あれは強そうだよね。勝てるの、ノブナガ」
「男というのはな、蘭丸。たとえ勝てないと分かっていても戦わねばならない時があるものだ」
なんだ。やけに格好いい事を言いはじめたぞ。
「これはわしが敬愛する松本零士の作品に出てくる宇宙海賊の言葉じゃ」
また昔のビデオを見ていたらしい。
「これを真似て、福沢諭吉とかいう男も同じ事を言ったらしいぞ。おそらく、その男も
だとしたら明らかに時系列が逆だが。
「だけど、そんなビデオうちにはないでしょ。どこで見たの」
「おお、それは」
そういうとノブナガは意味ありげな目線をあたしに向けた。
「なによ」
「隣の古本屋の息子が見ておったのじゃ。あやつ、はだかの男女がおかしな体勢でからみ合うのが好きなのだと思うたが、たまには良いものも鑑賞しておる」
うーむ。幼なじみの性癖をこんな奴から聞くとは思わなかった。
「どうじゃ、今度いっしょに見に行こうではないか」
エロビデオをか。
いや、それ以前に……。
「おう、これは失言であった。お主はあの男に振られたのであったのう」
はっきり言うな。
「そんな、別に振られた訳じゃないんだからね。もともとそんな関係でもなかったし。それは、まあ昔からちょっとは、気になってたけれども」
それなのに、あの男。
「女の価値の8割はおっぱいで決まる、とか言うんだよ。ひどいよね」
「そうか。……まあ、そうであろうのう」
ノブナガはあたしの胸に目をやると、寂しげにため息をついた。
「ノブナガ、お前もかっ!」
☆
ところで、裏切者の件はどうなったんだ?
「おおう、これは暖かいぞ」
ノブナガは電気カーペットの上であおむけになっている。そのまま左右に転がってみたり、身体をくねくねさせたりしてご満悦だ。
「こんなものがあるなら、もっと早く出せばよかろう」
何なら一年中出しておいてもよいぞ、とか言っている。
「ちょっと。毛が抜けるでしょ。大人しく丸くなってなさいよ」
あたしは粘着コロコロで抜け毛を取りながらぼやいた。
ついでに、そのローラーをノブナガのお腹でころがしてみる。
「お、おおう」
ノブナガが変な声をあげる。意外と気持ちよさそうだ。
「もっと下、局部のほうもやってくれぬかのう」
ぺん、とノブナガのあたまをはたく。
「この変態!」
まったく、男というやつは。
「実はおおよその目星をつけておるのだ」
ノブナガは急に鋭い目つきになった。そうだ、裏切者。
「日吉神社の、あやつよ」
「日吉神社の……ああ、ヒデちゃんだね」
料理の食品サンプルにかみついたら前歯が折れ、いまは差し歯になっている、町内でも有名なネコなのだ。
「うむ。さし歯のヒデよ。しっておるようだな」
だけど、あのヒデちゃんってノブナガの使い走りだったような……。
「あやつめ、裏工作を任せたら、なかなかやり手でのう。重宝しておったのだが、どうやらそのコネを使って勢力を拡大しておるようじゃ」
まさに裏切られる典型だな。
「でも裏工作ってどんなことをしてたの」
「なに。敵対するやつらのエサ皿に、こっそりネギを入れたりとか、かのう」
それ絶対やったらダメなやつだから。
この近くの最大派閥といえば薬局『平松元気健康堂』のたぬポンくん一派だが、あの子たちも、どうやらヒデちゃんになびいているらしい。まあ、あれはノブナガがいじめすぎたせいもあるだろうけれど。
どうも、このノブナガ。人徳が無いのがすごく気がかりだ。
まあ、人徳といってもネコなんだけど。
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