ある日うちのネコが麒麟を探しに行ったんだけど
杉浦ヒナタ
第1話 ノブナガ、家臣を疑う
「さむかったー」
あたしは部屋に入るなり、こたつへ足を突っ込んだ。
ふにゃ。
足先が柔らかい物にめり込んだ。
「おお?」
「蘭丸、貴様また主人を足蹴にしおって。今度こそ手打ちにするぞ」
こたつの中からシブい声がした。
布団をめくってみると、中から茶トラのネコが、のそのそと出て来た。
そのまま、あたしの膝に上がってくる。
こいつはノブナガ。うちの飼い猫だ。いつからか、中の人が異世界の織田信長に繋がっていて、この町内のネコたちを制圧することで、向こうの信長さんの天下統一が完成することになっているらしい。
「ノブナガ。ちょっと太ったんじゃないの」
ずっしりと重たいぞ。
「最近、出番がなかったからのう」
ノブナガは、くわーっとあくびをしながら答えた。
まあ、それはあたしも同じだが。
「ところで蘭丸。お主は手相をみたことがあるか」
言っておくが、あたしは森蘭丸ではない。
手相なら高校生のころに占いの本で読んだから、基本的なところは知っている。実際、友達を占ってあげて、よく当たってると評判だったのだ。
ただ、自分には結婚線が無いのに気付いてからは、見ないようにしているが。
「なによノブナガ。お前もそんなこと気にするの?」
うむ。とノブナガは重々しく頷いた。
「どうやら、わしの天下は年末までらしいのだ」
うーん。それって、某国営放送の、キリンが来るやつかな。明智光秀の。
でもあれはドラマだけども。
しかし、よくテレビ見てるな。ネコなのに。
「テレビではない。先日、道を歩いていたら呼び止められてのう」
占い師さんに手相をみてもらったらしい。
最近の占い師さんはネコの手相もみるのか。肉球占い、というやつか?
「どうも、最近召し抱えた者どもの中に裏切者がおるらしい。確かめに行くぞ」
そう言うと、ノブナガは部屋を出て行った。
仕方ない、あたしも後に続く。
☆
「まずは『正宗』だ」
ノブナガは最初の名前をあげた。
右目の周りだけがパンダみたいに黒い、真っ白なネコだ。ノブナガよりよっぽど凛々しいイケメン猫である。
「だが、『まさむね』ならもっと別の字を書くのではないかのう」
まあ、普通はそうかもしれないけど。
「飼っているのが酒屋さんだからね。『正宗』だって、まさむねって読むんだよ」
「ふむ。だってまさむね、であるなら、仕方あるまいな」
「で、そのマサムネくんが怪しいの?」
「怪しいというか。事あるごとに、我が腹かっさばいてお詫びいたす! とか言い出すので面倒くさいだけなのだが」
そうか、いつも白装束だものな。
「だが面従腹背とは、あ奴の事であろうのう」
「ああ、しずくちゃん。え、うちのマサムネ? どっか遊びに行っちゃったよ」
酒屋のおばさんがノブナガの頭を撫でながら言った。
「これは、何処かで謀反を企んでいるに相違ないな」
「まさか。考えすぎでしょ」
「次は学習塾へ行くぞ」
えーと。学習塾なんて近くにあったっけ。
「商店街の外れにあるであろう。『苦悶式』とか看板が出ておるぞ」
ああ、思い出した。この間まで、年中ポイント三倍セールの赤井商店があった場所だ。金色の毛並みの、きれいなネコがいる。
名前は、
その名前をとって、『
「あれもまた、反覆常無いからのう。まったく油断ならぬ」
それは大変だ。
だけどノブナガ、ろくな家臣がいないな。身内に敵を抱え込んでどうする。
「ところで蘭丸よ」
不思議そうにノブナガがあたしを見上げた。
「なぜ、わしらはこんな寒空の下、散歩をしておるのだったかのう」
そろそろ忘れる頃だろうと思っていた。
あたしたちはコンビニで肉まんを買って、家に帰ることにした。
つづく?
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