魔法幼女と悪の幹部。-bitter chocolate Days 364/2-

・今月のテーマ


「お札」「タバコ」「衣(ころも)」「カレンダー」「リング」「殺虫剤」

この中から3つ以上使用


・使用テーマ「カレンダー」「リング」「衣(ころも)」


 ✳︎


・冒頭ポエム


甘い旋律。

勇気の歌。

安らぎの幕間に放つ輝き。

踊れ、踊れ。何よりも愛おしく。

果つる空まで。

それが世界を守る糧となる。


 ✳︎



(もう時間がない)



 ──幾度となく繰り広げられてきた魔法幼女と地下帝国アングラルの戦い。

 それは遥か昔から続く因縁。どちらかが倒れるまで決して終わらぬ宿命。修羅達の輪廻。

 正義と悪の衝突に、今決着がつく。



「これでっ!」

「フシュル……ナァッ⁉︎」

「光になぁれぇぇぇぇぇっ‼︎」


 魔法幼女──シイナのステッキから放たれた光の波に飲まれ、悪の皇帝ビッグ・デュエラーズは跡形もなく消滅。世界を守る魔法幼女の勝利によってピリオドが打たれた。

「やっと」

「おわったニャ!」

「や、ったぁぁぁぁあ!」

 シイナは変身を解き、嬉しそうな顔をしてパートナーの猫妖精と笑みを交わす。

 だがしかし、


『まだ、終わってなどいない』


 帝国幹部であった黒の蟷螂人デア・マンティス──ブレードゥが姿を現し、

「私と戦え。 マジカルージュ」

 敵意を向けた事でその笑みは一瞬にして凍りつく。

「どうして……だって、ビッグ・デュエラーズは、たおしたんだよ? もう。 たたかう理由は、ないのに」

「これはてれびげぇむではない。 現実だ。 ボスを倒した程度で終わりはしない」

「なんで……そんなこと、言うの……」

「それに理由ならある。 私は悪の幹部、貴様は魔法幼女。 それだけで充分だッ‼︎」

 ブレードゥがシイナ目掛けて勢いよく駆け出す。

「……や、いや……だって、あなたは……」

「ッ‼︎」

「ひぅっ……!」

 鋭い眼光を燃やし、振り上げられた右腕の爪は鎌のように死の匂いを纏う。

 故に、


 ──ガキンッ‼︎


 シイナは魔法幼女にならざるを得ない。

 変身して、ステッキで受け止めていなければ、今頃地面に自分の首が転がっていたのだから。

「そうだ、それでいい」

「わたしは、わたしはぁ……」

「何を躊躇う。 我らが出会った日を忘れたのか──」



 ────2020.2.2(日)────


『貴様、何者だ?』

『わ、わたしは赤実あかみシイナ!』

『ちがうニャ! 魔法幼女マジカルージュニャ!』

『え、あっ、そっか!』

『……貴様が』

『どうしよう、どうしよう! こじんじょうほうが、プライバシーが……っ!』

『今はそんなこと気にしてる場合じゃないニャ!』

『おい、小娘』

『ひゃ、ひゃい!』

『邪魔をするな』

『え、あ、うぅ、させませぇんっ!』

『何だと?』

『このせかいのへいわはわたしが守りますっ‼︎ だから──』


 ────────────



「私を倒すのだろう?」

「だって、あの時とはちがう、よ」

「何も違わぬ。 あの時も、どの時もッ!」

 ブレードゥの放つ斬撃の雨。


 ──キンッ‼︎ キンッ‼︎ キンッ‼︎ キンッ‼︎


 シイナは必死にそれらを受け流す。


「私は戦う生き物」


 ──キンッ‼︎


「戦いが全て」


 ──キンッッッ‼︎‼︎


「戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い、戦うッ‼︎ それだけがッ──」



 ────2020.2.1(土)────


『……ここは……』

『目覚めたか、ブレードゥよ』

『誰だ』

『我はビッグ・デュエラーズ。 貴様の主君だ』

『……成る程、理解した』

『お前に頼みがある』

『何だ?』

『我を裏切れ』

『ッ⁉︎ 何を血迷ったのだ、貴様ッ‼︎』

『血迷ってなどおらぬ。 魔法幼女との最終決戦は貴様にくれてやると言っているだけだ』

『何だと……?』

『貴様の望みを叶えてやる。 悪い話ではないだろ』

『…………。 そんな事をして、何になる?』

『さぁな。 だが、我はもう。 戦いに飽きたのだ──』


 ────────



(ビッグ・デュエラーズ。 貴様さえも私とは)


 ──キンッ‼︎


「もう、やめて……」

「これが運命だ。 受け入れろッ‼︎」


 ──ギギギッ‼︎


 爪とステッキによる迫り合い。

 まさに目と鼻の先にあるお互いの顔。手を伸ばせば届く距離。

 だがしかし、

「おねがい、おねがいだから……っ! もう、やめてよ……っ‼︎」

「ここで戦いを止めたとしてどうなる」

「え?」

「私は戦いの無い世界では生きられぬ。 貴様達と手を取り合う権利も与えられておらんッ」

「そんなの、そんなのわからないよ!」

「分かる。 少なくとも幼子の貴様よりはな」

 何も、届かない。響かない。

 何も、交わらない。

 何も、かもが。

「違う生き物なのだ。 体も、心も。 魂さえもな」

「でも、それでも、はげまして、くれた」

「……チッ──」



 ──2020.6.28(日)──


「オマエさぁ、何考えてるワケ?」

「アロウよ。 そんな事を聞いてどうするのだ」

「はぁ……正直、オマエが何かんがえてようがどうでもいいけど。 一応、仲間だろ。 敵に塩を送った理由ぐらい言えよ」

「……。 夢を見たのだ」

「夢? 何の?」

「紅く輝く光剣」

「何だよそれ」

「戦いたい。 戦っていたいのだ。 私は、最後まで──」


 ────────



(時間がない。 早く、早くしなければならんというのに)


 ──ガッ‼︎‼︎


 ブレードゥは力任せにシイナを弾き飛ばし、


「ッ‼︎」


 再び鋭いまなこで睨みつける。

 だが、


「さっきだって、わたしを、たすけて……たすけてくれたもんっ‼︎」


 彼女は怯まない。

 水粒を孕み続ける瞳、弱さしか紡げない口、されるがまま恐怖に支配され震える身体であろうと。

 彼女は想いを、ただ一点へと注ぎ続ける。朽ちる程の、想いを。


「笑止。 あれは目的を遂行する為に過ぎぬ──」



 ──2021.1.17(日)──


「アンタ……どういうつもりよっ! マジカルージュなんか助けてっ!」

「ガンナ、貴様を排除する」

「はぁ? ふざけないでよ。 こんなところで裏切りって……ようやく、ようやくアタシ達の望みが叶うんだからっ! 邪魔しないでよっ!」

「哀れだな」

「な、何ですってっ!」

「一つ良い事を教えてやろう。 貴様らの望みなど初めから叶わぬようになっている」

「は、何言ってんのよアンタ……?」

「安心しろ。 貴様も忘れて、闇に沈む──」


 ────────



「ハッキリ言ってやろう。 私は最高の魔法幼女──"今の貴様"と戦う為、命を燃やす為、全て。 全て……その為だけに行動してきたッ‼︎ それ以外の理由など、理由などありはしないのだぁッ‼︎‼︎‼︎‼︎」


 叫び。

 何処までも、響く叫び。

 それは幼い彼女には果てしなく、重く。果てしなく。


「ゔぇっ、んっ、ひっぐ、ゔぇぇ……」


「構えろ。 でなければ、殺す」


 嗚咽が渦巻く中。

 ブレードゥは手首から剣を生成し、ゆっくり、ゆっくりと距離を詰めていく。

 そして、

「……さらばだ、シイナ……」

 俯く彼女へ躊躇いなく剣を振り下ろした──その時。


 ──キッ‼︎‼︎‼︎‼︎


 鋭い金属音が鳴り響く。

「なっ⁉︎」

 荒唐無稽な光景を目にして驚くブレードゥだったが、すぐに理解した。

「フッ、クフフ……そうか、そうだったな。 そのステッキは貴様の心によって姿を変えるのだったな!」

 斬撃を受け止めた剣──俯いたままの彼女の手に握られているのは紅く輝く光剣。

 それが意味するのは、

「漸く、漸く貴様と血湧き、肉躍る戦いを──」


 ──ズシャァァァァァアッ‼︎‼︎‼︎‼︎


「──な、っんだ、とぉッ⁉︎」

 絶対の死。

(何をされた? 何故、斬られている?)

 浅いとはいえ胸の傷口からは青い血があふれている。

 ブレードゥの外皮は鋼よりも硬く、歴戦の戦士だ。経験だけで言えば帝国最強と言っても過言ではない。その彼の眼で捉える事が出来ない程彼女の太刀筋は速く、凄まじい斬れ味であった。

「ッ。 何処だ、何処に──ッ‼︎」

 数秒にも満たない思考の間に姿を消した彼女。

 そして、背後からの寒気。

 ブレードゥが即座に振り返ると、


 ──ザンッ‼︎


 彼の右腕は青い血とともに弧を描き、地面へ転がった。

「ぐぁっ、おの、れェ」

「…………」

「ッ‼︎ まさか、意識が……貴様の仕業か」

『そうニャ』

 彼女の付けている指輪から発せられる声。

 それはパートナーである猫妖精──クロのものであった。

『オイラの役目はシイナに魔法幼女を全うさせることニャ。 だから、一緒に合体してるんだニャ』

「外道め」

『何とでも言うがいいニャ』

「……だが。 今は、感謝するぞ」

 腐臭を放ち、瞬く間に再生する右腕。全身の筋肉が膨らみ、より強固になる外皮。背中から六本の触手が生え、その先から毒々しい液体が零れ地面を溶かす。

 そして、額が開き、禍々しい第三の眼が彼女を、クロを睨む。

「私も、本気を出せる」

 ブレードゥは両手首から新たな剣を生成し、構え──


 ──ズ、ザザザザザザザッ‼︎‼︎‼︎‼︎


 ──ると同時に、光で全身を切り刻まれていた。


「な、にィ……ッ⁉︎」

『オマエ程度が相手になるわけないニャ。 魔法幼女をナメるニャ』

「よもや……これ程、とは……な」

 ブレードゥは空を仰ぐように倒れる。そして、クロに操られているシイナによって喉元に光剣の切先を突き付けられた。

『ジ・エンド、ニャン』

「…………」

『さらばニャ、世界を壊す"回帰者エラーズ"』

「……──」



(──私は悔しい。 悔しかったのだ)


(戦うだけの生き物にも関わらず、いつも最後にはいない)


(何よりも煌く彼女と戦えぬ。 指先さえ届かぬ)


(その悔しさだけが溜まっていく。 永遠に)


(だから)



「私は貴様のように折れぬ。 貴様達のように廻(めぐ)らぬ。 私は、もう……違う、違うのだ……」

『これで全て元通り──ニャっ⁉︎』

 今まさにブレードゥの喉元が貫かれようとした瞬間。操られている筈のシイナの動きがピタリと止まる。

 そして、

「…………」

『や、やめるニャ! そんなことしたら!』

「……や……」

『オイラは……っ!』

「……もう、や……」

『わ、分かったニャ! もうニャにもしニャいニャ! ニャかニャ、ニャニァニャッ!』

「もう殺すのはなのっ! 絶対にっ!」

『ニャ、ニャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛』

 指輪を外し、強引に変身を解除。その結果クロは指輪もろとも消滅してしまった。

「貴様」

「これでもう、魔法幼女、じゃないよ」

「…………」

「もう、戦わなくて、いいよね? 戦いたい、相手じゃ、ないよね?」

「黙れ」

 ブレードゥは瀕死の体を酷使して立ち上がり、シイナへ爪を向ける。

「私は、戦う生き物だ。 何があっても、それは変わらぬ……変わらんのだぁぁぁぁあッ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 振り上げられた爪は勢いよく下ろされ、


 ──ズサリ。


 胸を貫く。


「……なん、で……」

「つまらぬ、幕引き、だったな」






















 彼自身の胸を。






















「どうして、嫌……嫌ぁぁぁぁぁあああああっ!」


 悲痛な叫びが響く。

 何処までも、風に乗って。


 涙が溢れ落ちる。

 重力に逆らえず、囚われて。


 視界が滲む。

 電気信号が、心が乱れて。


「ばか、バカ、馬鹿ぁ……」

「時間、切れだ。 もう、一年が経つ」

「貴方に、死んで欲しくなかったのに……今回ならって……」

「貴様、一体いつから……いや、そんな事はどうでもいい、か……」

 浅く、浅くなっていく呼吸。崩れ落ちる体。

 伸ばす手は、

「あのような、形でも。 本気の、貴様と戦えて、私は……」

 もう彼女に触れる事すらあたわず。

「こんなの……こんなのって……」



 ──魔法幼女シイナの活躍により地下帝国アングラルは完全に滅び、世界に平和が訪れた。

 だがしかし、何処か寂しい。

 赤く輝く太陽。淀みのない美しい空。人々は笑い、安心して暮らせる争いのない──優しさと愛に包まれた世界。もし聞けば、誰もがこの世界で暮らせて幸せだと答えるだろう。

 ただ一人を除いて。

 赤実シイナは考える。

 ぽっかりと空いた胸のあな。それは内に残る記憶のせいか。己の未熟さゆえか。

 それとも────。



 ✳︎



 ──2021.2.28(日)──


 わたし、常夏とこなつミクル! 小学四年生!

 パパのお仕事で都会からここ砂ノ浜に引っこしてきたの!

 んー、風が気持ちいい! 海しかないイナカって聞いてたからしんぱいだったけど、とってもいいところ!

 あ、そうだ。ここの海はすっごくきれいですきとおってるんだって!

 さっそく、見に行こうかな。

 なんだか、とってもすてきな出会いのよかんがするから──



 "待っててね。 カマキリさん"


 "……フッ……"



 あれ、いま風が……?



 ✳︎



【ビッグ・フレンズのスレ】


『新作の魔法幼女シリーズどうだった?』

『ミクルちゃんかわいい』

『分かる。 シイナちゃんロス辛かったけどもうミクルちゃんで頭いっぱい』

『シイナちゃんは可愛さだけ良かった。 話がクソ』

『俺は好きだった』

『幼女に業を背負わせるのはNG』

『それな。 幼女にそんなの求めてない』

『あったま、からっぽのほうが〜』

『ゆ〜めつめこめる〜』

『幼女(詰め込む)』

『ハァーイ、Siri』

『おまわりさんこいつです』

『YA・ME・RO☆ グダる前に話を戻そうぜ☆』

『ブレードゥが良かった』

『ミクルちゃんじゃなくてそっちかいww』

『まぁ、そう言うなって。 オレ独自の解釈で話させてもらうと、アイツは意味不明だったぜ☆』

『てか、戦犯だろ。 変な期待させやがって……』

『今からでも幸せな和解ENDにして(切実)』

『あいつ、最後までよく分かんなかったな。 自害までして』

『回想とか一切ないもんな』

『何かあるならちゃんと語れ』

『令和の意味深クソキャラオブザイヤー優勝』

『糸目キャラの無敗神話が……』

『それにひきかえ、ミクルちゃんの監督はマブラブエンジェルの人だから安心して見れる』

『ミクルちゃんの監督(AV感)』

『おい、おまわりさん! 仕事しろ!』

『HA・NA・SE☆』

『ダメだこりゃ』



「…………」



 ────プツン────



 fin.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る