うさぎのミートパイ。(百合作品)
・テーマ「みかん」 「十五夜」 「限界突破」
小さい頃、どうして月に兎がいるのか不思議に思っていた。
だから、それについて調べてみた。すると、兎が自分の身を犠牲にして人を助けるお話を知った。
九月十三日。今日は大切な友人である蜜柑とお月見をすることになっていた。
「へぇ、月の兎にそんな話が。 さっすが、物知りさん!」
彼女とは小学生からの付き合いだ。
仲良くなれたのはずっと周りと距離を置いていた私に彼女の方から声をかけてくれたから。
私は中学生になった今でもあの時の厚意に感謝している。
「そんな事ないよ。 これくらいネットで調べればすぐ出てくるし」
「あはっ、別に謙遜しなくていいのに」
ニコッとはにかむ蜜柑。私は彼女が笑うと胸がぽかぽかする。
「喉渇いたね、いつものでいい?」
「うん、お願い」
けど、彼女は心から笑っていない。
「おまたせ〜」
「いつもありがとうね」
「いいよ、いいよ。 うづきはこれ、好きだもんね」
蜜柑特製のジュースで喉を潤すと、今日もふわっとした心地良い気持ちになれた。
「どう美味しい?」
「……うん……」
「じゃあ、もっと飲んで」
言われるがまま蜜柑の分のジュースも飲み干す。
「ふあぁ……」
「二杯も飲んだら過剰摂取かな? いや、大丈夫だよね。 ちゃんと慣らしてきたし」
いつの間にか背後へ回り込んだ蜜柑が私を抱き寄せ、耳元で囁く。
「本当はね、こういう事はしたくなかったよ。 でも、私と違ってうづきは普通の子だから……こうするしか」
悲愴感のある台詞とは裏腹に、彼女の声は上ずっていた。
多分、今の彼女は心から笑っている。口元を歪め、ニヤニヤと。
「ずっと、ずぅーっと前から好きだったよ。 なのに、何で! 何で、あいつなの? 私が先だったのに。 同じ女じゃなかったら……」
蜜柑の口から同性故の悲しい愛が語られ、胸が締め付けられるように痛んだ。
「たかが二分の一を外したくらいでズルくない? あんなやつが初めてなんておかしくない?」
──きっと、彼女は自分の事を愛欲に溺れた大罪人とでも思っている。本当はそんな事ないのに。
「どうせ壊れちゃうから、先に壊すね」
彼女に身を任せ、目を瞑る。
ずっと恩返しがしたくて貴方の背を追いかけていた。
けど、どんなに頑張っても追いつけなくて、躓いてしまった。
もう無理だと諦めかけた時、貴方の好意が救ってくれた。
私は嬉しかった。これで貴方に恩を返せる。
その想いだけだったのに、結果はこんな事になってしまった。
私のせいで。
全てが終わった後、彼女の顔は腐りかけの果実のようにグジュグジュになっていた。
ごめんね、私が普通じゃなくて。
もっと、普通に……言えたら良かったのに……。あの丸くて綺麗なお月様みたい。
──私の中から止め処なく溢れる液体はとても暖かかった。
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