第34話 体調不良!?
2月も残すところあと数日。
いつものように、三人で朝ご飯を食べているのだが、結衣の様子が少しおかしい。
いつもより食べる量が少ないし、どこかぼーっとしている気がする。
いや、ぼーっとしているのはいつもか。
「大丈夫か?」
「え?」
「いや、食欲無いみたいだし」
「え、ええ。夕べ食べ過ぎたのかしら……」
考え込みだす結衣。
「なんか体調も悪いみたいだし。休むか?」
「ちょっと食欲がないだけ。大丈夫よ」
「それならいいんだが……」
結衣が風邪を引いたことなど、数える程しかないので、少し心配だ。
登校中、結衣の様子を横目で見ていたが、いつもよりうつむきがちだ。
「なあ、何か悩みでもあるのか?」
「悩み?」
「いや、なんか考え事しているみたいだから」
「ちょっと体調が悪いだけ。心配し過ぎよ」
何か悩んでいるのかとも思ったが、本当に体調が悪いだけのようだ。
「わかった。ただ、しんどくなったら言えよ」
「ええ。ありがとう」
登校後も、やっぱり体調が悪いようで、授業も集中できていないようだ。
加藤と倫太郎を交えた昼食のときも。
「結衣ちゃん、元気ないみたいだけど。大丈夫?」
「僕も、ちょっと心配だな」
「本人的には、ちょっと体調が悪いだけみたいなんだけど」
結衣がトイレに行っている間にそんなことを話しあう。
「風邪とか?」
「結衣が風邪ひいたことってほとんどないんだよな」
「そういえば、そうだね」
「あいつも、自分の体調には鈍感なところがあるからなあ」
前に結衣が風邪を引いたときのことを思い出す。
明らかに様子がおかしいのに、「ちょっと体調が悪いだけ」と言うので
体温を測ってみたら38℃を超えていたことがあった。
「ひょっとして、できちゃったとか?」
「……」
「あ、ちょっとした冗談だよ、冗談」
前に避妊し忘れたときのことを思い出す。
いや、まさかな……。
「いや、ひょっとしたら冗談じゃ済まないかも」
「「どういうこと!?」」
びっくりした二人に、ことの経緯を話す。
「ていうことなんだが、どうだ?」
「僕も由紀子ちゃんも医者じゃないからね。単なる体調不良かもしれないし」
「とりあえず、病院に行って来たらどうかな?」
「ああ、そうする」
そういえば、結衣がやけに遅いな……。かれこれもう10分は経っている。
と思ったら、やっと戻って来た。
「遅かったけど、大丈夫か?」
「え、ええと。少し、しんどいかも」
顔色があきらかに悪いし、襟元には、食べ物のカスがついている。
ひょっとして、トイレで吐いたんじゃ?
「結衣は、これから病院な。倫太郎、先生には言っておいてくれ」
「わかったよ。お大事に」
結衣を連れて玄関に急ぐ。
「ちょっと心配し過ぎよ」
「さすがに心配にもなる」
もし、妊娠だったらことだし、そうじゃなくてもかなり体調が悪いのは間違いない。
結衣がしんどそうなので、タクシーで近くの総合病院まで。
どこに行けばいいかわからないので、総合受付で聞くと、内科を受診してくださいとのこと。
待合室で、落ち着かない時間を過ごす。
ただの風邪だったらいいんだけど……。
少しして、診察室から結衣が出てくる。
「どうだった?」
「それなんだけど……特に異常はない、って言われたわ」
「風邪じゃないってことか?」
「ええと……」
どこか言いづらそうな様子だ。
「とりあえず、落ち着いて。ゆっくりでいいから」
「そ、その。決まったわけじゃないんだけど。お医者さんが妊娠してる可能性もある、って」
「……」
頭をがつんと殴られたような衝撃が走る。
その可能性はあるかもと考えたけど、まさか。
「それで、産婦人科への紹介状を書いてもらったの」
そう言って、紹介状の入った封筒を見せてくる結衣。
同じ病院内にあるのが幸いだけど、心が非常に重い。
「わかった。行こう」
「うん……」
産婦人科の受付を済ませて、さらに待つ。
幸い、病院は空いているようで、スムーズに診察にかかることができた。
心配なのだが、男性同伴での診察は当院ではお断りしております、とのこと。
それから、約1時間近く経って、ようやく結衣が診察室から出てきた。
先ほどまでと違い、顔が少し赤くて、何やらきょろきょろとしている。
「それで、どうだった?」
「ええと、その。できちゃった、みたい」
「やっぱり、か……」
「嫌だった?」
結衣が、少し不安そうに見つめてくる。
「あ、そうじゃなくてだな。俺も、いずれ、とはおもっていたけど。早すぎるから、心の準備ができてなくて」
「そ、そうよね」
お互い、ぎこちない口調で言葉を紡ぎ出す。
ただ、これだけはちゃんと言っておかないと。
「ただ、な」
「?」
「俺は、一緒に子どもを育てたい。結衣とずっと一緒にいたい。それは変わらないから。だから、そう不安そうな顔をするな」
「うん。ありがとう!!」
少し泣きそうな顔で結衣がそう返した。
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