第4章 恋人として、家族として

第18話 クリスマスとプレゼント

 目が覚めると、見覚えのない景色が広がっていた。

 畳に布団。

 あと結衣が裸で寝ている。


 は?


 一瞬パニックになりそうになったが、思い出してみると

 昨日は結衣とあんなことがあったのだった。


(初めては大変とは聞いていたけど)


 そんなことを考えていると、結衣がもぞもぞと動いている。

 俺が動いたので、起こしてしまったのだろう。


「おはよう」

「お、おはよう」


 少しずつ覚醒してくるにつれて、結衣も昨晩のことを思い出して来たようだ。


「あの。昨夜はありがとう」

「いや。どういたしまして?」


 つい畏まってしまう。


「それより、痛まないか?」

「少しだけ。でも、大丈夫」

「無理してないか?」

「昴がゆっくり丁寧にしてくれたから。ほとんど痛くなかったわ」

「そうか。それならいいんだが」


 事前に予習して、十分に愛撫することを意識したのだが、おかげで痛がらせずに済んだようだ。

 

(初めてだったから、仕方ないとはいえ、今度は気持ち良くさせてあげられたら…)


 そんなことを考えていると


「あの」

「ん?」

「浴衣、着るから。ちょっと後ろ向いてくれないかしら」

「おう。じゃ、俺も」


 お互いに背を向けて浴衣を着る。


 浴衣を着て向かい合う。

 昨夜の行為の後のせいか、浴衣がしわになっているのが少し生々しい。


「朝風呂でもいかないか?」

「そうね。汗かいちゃったし」


 確かに、汗はいっぱいかいたな。


 ということで、大浴場に行こうとしたのだけど。


「ねえ。せっかくだから、部屋付きの貸し切り露天風呂に入らない?」


 そう結衣が提案してきた。


「いいのか?」

「昴が良ければ」

「そりゃ、喜んで」


 行為の後だから性欲は抜けているけど、

 一緒にお風呂に入るというのは悪くない。


「じゃあ、先に入ってて」

「ああ」


 軽く湯をかけながして、風呂につかる。

 柵がついているので、屋上のに比べれば眺めは劣るけど、これはこれでいい。


「あー」


 しちゃった、んだよなあ。

 告白からそのままってのも、凄いタイミングだ。

 色々思い出しそうになるので、頭から振り払って、肩まで湯につかる。


「私も入っていいかしら?」

「ああ」


 振り向くと、タオルで上半身を隠した結衣が風呂にはいってきた。


「いいお湯ね」

「ああ。さっぱりする」


 そんな言葉を交わしながらも、ついタオルを巻いた結衣の姿を目で追ってしまう。

 そんな視線に気づいたのか。


「ひょっとして、まだ、したかったりする?」


 とんでもないことを言ってきた。


「い、いや。いきなりは無理だ。ってか、男は普通は1回したら回復期間が必要なんだよ」

「そうなのね」

「おまえも調べたんじゃないのか?」

「調べたけど、3回続けてできる人の話もあったし」

「そ、そうか。そういう人もいるのかもしれないな」


 3回続けてできるとか、どれだけ絶倫なんだ。


「と、ともかく。したいとかじゃなくて、ちょっと見とれてたんだ」

「どういうところ?」

「その。タオルで隠してるところがかえって色っぽいとか。髪をまとめてるとことか」

「そう。そういうところに興奮するのね」

「興奮とかいうな」

「でも、私は興奮してくれたのなら嬉しいわ」

「なんでだ?」

「だって、それだけ、私のことを女の子として魅力的に思ってくれてるってことだし」

「な、なるほど」

「その、いつでも求めてくれていいわよ。もちろん、生理のときは無理だけど」

「いや、そんな性欲魔人じゃないからな。俺は」


 つい数か月前は、こんな会話を結人と交わすようになるとは、思っても居なかったな。

 しばらくぼーっとした後、順番に風呂を上がる。


 朝の時間をゆっくり堪能していると、朝食が運ばれてくる。


 ご飯、味噌汁、焼き魚、山菜、漬物


 といった品が並ぶ。


「うん。やっぱり朝は和食だな」

「そうね」


 揃って頷く。

 朝食が下げられた後、何もすることがなくなった俺たちは

 窓際の席でしばしぼーっとする。


(そういえば、何か忘れてるような…?)


 って、プレゼントをまだ渡していないことに気が付いた。

 本当は昨日渡すはずだったのに。


「結衣、あのさ」

「なに?」

「ちょっと昨日渡し忘れてたプレゼントなんだけど」

「あ、私も忘れてたわ」


 結衣も何かプレゼントを用意してきていたようだ。

 揃って忘れてる辺り、昨夜どれだけ必死だったかがわかる。


「で、俺のはこれ」


 バッグから、ピンク色のリボンでラップした包装を渡す。


「ありがとう。開けてもいい?」

「どうぞどうぞ」


 丁寧に、包装をほどいていく。


「タブレット?」

「いや、デジタルフォトフレーム」


 形が似ているから間違うのも無理はないが。


「何か想い出になるものを残せればって思ってな。それで、撮った写真をこれに入れてもらえればって」

「ほんとにありがとう。大切にするわ」

「おう。Wi-Fiに対応してるから、スマホで撮った写真も入れられるぞ」

「それは便利ね」

「今は充電されてないけど、帰ったら使ってみてくれ」

「そうするわ。じゃあ、今度は私」


 そう言って、鞄から何かを出す。


「はい。プレゼント」

「お。ありがとうな。開けてもいいか?」

「ええ」


 結衣からのプレゼント、一体何だろうか。

 ラッピングをほどいていくと、出てきたのは、


「目覚まし?」

「いつも、ぎりぎりまで寝てるでしょ?スヌーズ機能付きだし、時間の調節も簡単だし、ちょうどいいんじゃないかって」

「確かにありがたい」


 平日は母さんが起こしてくれることが多いが

 目覚ましをうっかり止めてしまって、そのまま寝てしまうことがしばしばあった。

 ちゃんと俺のことを考えてくれたプレゼントに胸が暖かくなる。


「大切に使うよ」


 そうして、プレゼントの交換が無事終わったのだった。


「もうすぐチェックアウトだわ」

「ほんとだな」


 気が付けば、チェックアウトの時間が近づいてきている。

 帰る準備をしないと。

 

 そそくさと、交換したプレゼントを含め、バッグにしまいこんで

 服を着替える。


「まだ帰りの電車には時間があるし、お土産でも見ていかないか?」

「そうね。パパにも何か買わないと」


 というわけで、お互いにお土産物を物色する時間。

 俺は、伊勢海老の味噌汁など、ちょっと豪勢なものと、定番のお菓子を。

 結衣も、定番のお菓子に加えて、キーホルダーなどを買っていた。


「名残惜しいわね」

「ああ。でも、またいつでも来られるだろ」

「そうね。私たち、恋人で家族だもの」


 嬉しそうな結衣。


 その後は、帰りの特急電車、乗り換えて普通電車、とあっという間だった。


 気が付けば団地の前まで来ていた。まだ離れたくない。

 そんな気持ちが出て、気が付けば結衣を抱きしめていた。


「ひゃ」


 顔を寄せて唇を近づけていく。

 結衣も察したのか、目を閉じる。


「ん…。ひゃ」


 少し普通のキスだけじゃ物足りなくて、舌も入れてみた。

 少しびっくりした様子の結衣も受け入れてくれて、しばしお互いの感触を堪能する。


「…ぷは。いきなり、舌を入れてくるとは思わなかったわ」

「なんか、そうしたくなったというか。嫌だったらしないけど」

「嫌じゃないわ。ちょっとびっくりしただけ」


 そうして、別れてお互いの家に戻る。


 その夜。


【ねえ、昴】

【なんだ?】

【昨日と今日、ほんとに楽しかった。ううん。嬉しかったわ】

【それはこっちこそ】

【これからも、家族として、恋人として、宜しくね♡】


 ♡マークのでかいスタンプを送ってきた。


【ああ、こちらこそ】

【それと】

【ん?】

【浮気はだめだからね】

【そりゃもちろんだ】


 結衣が独占欲を見せてくれたのは、これが初めてかもしれない。

 少し幸せだ。


(これからも、仲良くやっていければいいな)


 そんなことを考えた夜であった。

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