第16話 クリスマスイヴ前夜

 いよいよ、クリスマスイヴを明日に控えた金曜日。

 終業のチャイムが鳴る。


 いつものように、二人で帰るのだが、どうにも俺の方が色々

 意識してしまう。


 結衣のことだから、明日正式に告白するつもりだろう。

 それはほぼ間違いない。


(ただ、こいつはその先まで考えてるわけで…)


 クリスマスイヴに正式に告白してくれようとする気持ちは嬉しい。

 ただ、いきなりその先にとなると、少し腰が引けてしまうところは正直ある。


「なあ」

「なに?」

「明日の旅館だけど、どう予約したんだ?」


 結衣が固まる。

 どういうことだ?


「え、ええと。その。言わないとだめ、かしら?」

「い、いや。ダメってことはないけど。どうせ明日わかるんだし」


 そういうと、結衣は、スマホで予約したプランのページを見せてくる。

 そこには、


 12時レイトチェックアウト付き、貸し切り露天風呂付、夕朝食付き

 

 といった文字が並んでいた。


「貸し切り露天風呂付きって…」

「せっかくだし、と思って…」


 何がせっかくなのかわからんが。

 結衣の本気度が伺える。

 これで手を出さなかったら、落ち込みそうだ。


「つか、40000円って。さすがに割り勘だからな」

「う、うん」


 結衣の貯金がどのくらいかは知らないが、さすがにこの金額を出させるのは気が引ける。

 というか、二人のデートなわけだし。


「しかし、8種の湯めぐりってかなり色々あるんだな」

「温泉で有名なところだしね」


 俺たちが明日行くのは、隣の県にある温泉地で、電車で2時間はかかるところだ。


「明日は何時にする?」

「15時チェックインだから、13時頃かしら?」

「ちょっと時間を持て余しそうだな」

「ゲームとか本を持っていくのはどうかしら」

「確かにそれがいいかも」


 周囲には温泉以外何もなさそうだし。


「楽しみだな。寒そうだけど」

「うん」


 いやまあ、楽しみだけじゃなくて、ドキドキしてるんだけど。


「明日は部屋に迎えにいくわね」

「ああ、助かる」


 初デート以降、俺たちは外で待ち合わせることはなくなった。

 代わりに、結衣が俺の部屋に来るのが恒例だ。


 そんなことを話している間に、団地に到着した。


 2階で別れる直前。


「明日だけど」

「ああ」

「ちゃんと、気持ちを伝えるから。待ってて」

「おう」


 真剣な瞳でそういうこいつに気圧される。


(俺の方も覚悟を決めないといけないな)


 そう思ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る