第14話 温泉旅館!?

 眠れない夜を過ごした翌日。


(眠い…けど眠れない)


 結衣があんなことを言うから。

 睡眠時間はいいところ3~4時間といったところだろうか。

 もっと寝たかったけど、仕方ない。


 今日はいつもより早起きして、気分を変えよう。

 洗面所で顔を洗っていると、


「あら?早起きねえ」

「ちょっと寝不足で」

「あらあら。夜更かしはほどほどにね」

「うん」

 

 夜更かしじゃないのだけど、必要以上に心配させるのも忍びない。

 着替えて、眠気覚ましに珈琲を飲む。

 珈琲よりお茶派なのだが、とりあえずこのままだとだる過ぎる。


「お邪魔します」


 いつものように、結衣が入ってきたが、居間で珈琲を飲んでいる俺を見てびっくりしたようだった。


「どうしたの?」

「あ、うん。ちょっと寝不足でな」

「そう。あんまり夜更かししないようにね」

「わかってる」


 原因の当人がのんきに心配してくる。


「「行ってきまーす」」


 いつものように家を出る。


 ふと、結衣が言ってくる。


「その、昨日言ってたクリスマスイヴの話」

「ああ、結局どこなんだ?」

「ここに行こうと思うんだけど」


 結衣がスマホの画面をいじって見せてきたのは、

 温泉旅館のページだった。


「え、えーと?」


 結衣のことだから、ちょっと変わったチョイスをするんじゃないかとは思っていた。

 たとえば、本屋でデートとか、神社で、とか。

 しかし、これは予想外だった。


「これは、旅館…だよな」

「ええ。もちろん」


 これはどう取ればいいのだろうか。


「これは、日帰りでってことか?」


 まず気になったのはそこだ。

 日帰りで入れる温泉もあるけど、そこはどう見ても宿泊前提にしか見えない。


「日帰りでもいいけど、昴がいいなら…泊まりがいい」


 どんどん声が小さくなっていく。

 

 24日は土曜日だから、確かに泊まりは可能だ。

 平然としてるようだったらともかく、この様子を見るに

 泊まりでってことの意味をわかっていない、とも思えない。

 

「ええと。いいのか?」

「うん。そこで、ちゃんと気持ちを伝えたいの」


 目をそむけたくなるのを抑えながら、必死で俺のことをまっすぐ見てそう告げる。


「わかった。俺も、そこがいい」

「ありがとう」

「そういえば、おじさんから許可は取ったのか?」

「うん。友達と行くって」

「そうか。ならいいが」


 誰かをごまかすのが苦手なこいつが、珍しい。

 

「その…念のため確認だが、泊まりってことの意味はわかってるよな?」

「ええ。もちろん」


 こいつとしては覚悟を決めてきてるらしい。

 なら、こっちとしてもちゃんと準備をしないとな。


「じゃあ、俺も、色々準備しておくから」

「準備…」


 何の準備を想像したのか、赤くなっている。

 いや、あながち間違ってないんだけど。


「でも、楽しみ、だな」

「そ、そうね」


 心臓がバクバク行ってて、実は楽しみどころじゃない。

 お泊りでって事は、告白だけじゃなくて、そのままエッチなことをすることも込みだろう。

 あいつも当然経験はないだろうけど、俺も経験はない。

 

(予習をしっかりしておこう)


 そう決意したのだった。


---


 自宅にて。


「母さん。24日のクリスマスイヴだけど」

「結衣ちゃんとデート?」

「あ、いや、そうなんだけど。えーと」

「?」

「いや、実は泊まりで温泉旅館に行くことになってて」

「あらあら。随分進展してるのね」

「いやまあ、な」


 実際には、告白もまだだが。


「わかってると思うけど、避妊はしっかりするのよ?」


 からかってるのではなく、至極真面目な顔でいう母さん。

 高校生で妊娠なんてしたら一大事だからな。


「ああ、それは当然」

「ならいいわ。楽しんで来なさいね♪結衣ちゃんのお父さんは?」

「友達と行ってくる、だってさ。珍しいよな」

「そうねえ。結衣ちゃんとしてもよっぽどなのね♪」


 クスクスと笑う母さん。


「恥ずかしいんだけど」

「せいぜい、青春してきなさいな」


 そう応援されてしまったのだった。

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