第3章 好きの伝え方
第13話 クリスマスイヴのお誘いと彼女の決断
あれから時が過ぎて、12月中旬の平日。
気が付けば、もう季節は冬になっていた。
この季節はとてもとても悩ましい。
なぜなら、ベッドから出たくない誘惑にかられるからだ。
今も、ベッドでぬくぬくしていたい気持ちと出なければという気持ちと戦っている。
ともあれ、
「昴ー、朝よー」
「もうちょっと待って」
「仕方ないわね。結衣ちゃんが来るまでには起きなさいよ」
「うい」
あとちょっとと思い、5分後に目覚ましをかける。
おやすみなさい。
……
「昴?」
聞きなれた声が間近から聞こえてきたのでびっくりする。
「おお、おまえ。結衣」
「私だけど?」
中学校以来、こいつが朝に部屋までお越しに来ることは滅多になかった。
どういう風の吹き回しだろうか。
「おばさんに起こしてきてって、言われたんだけど」
「そ、そうか」
母さんも普段はそんなこと言わないくせに、どういう風の吹き回しなんだか。
ともあれ、パジャマのまま食卓につく。
母さんも当然結衣も着替えているが、スルー。
「今日の最低気温は5℃だって」
「なるほど。そりゃ、寒いはずだ」
「二人とも、防寒には気を付けてね」
今日はいつもより寒いらしい。
いつもより着込んでいくか。
「「いってきまーす」」
いつもの挨拶とともに、家を出る。
相変わらず、結衣とは手をつないでいる。
秋のお付き合いが始まってからはずっとこんな調子だ。
そして、告白の言葉も、あれからずっと保留だ。
あいつなりに色々気持ちを整理したかったのはわかるが
正直、少し焦れてきているのも事実だ。
(そういえば、もう少しでクリスマスイヴなんだよな)
こっちから誘ってみてもいいかもしれない。
別に今更気後れする理由もないし、これを機会に進展できたら、とも思う。
「昴、ちょっといい?」
横から声をかけられる。
「24日のクリスマスイヴなんだけど、空いてる?」
どうやら先手を打たれてしまったようだ。
「ああ、空いてるけど」
「そ、そのせっかくだから、デートしたい、わ」
最近はすっかり普通にデートに誘ってくるようになった結衣。
今日は珍しく、言葉に詰まったようなのが印象的だった。
「あ、ああ。もちろん。プレゼントとか用意していくから」
「う、うん」
つられて俺も少しぎこちなくなってしまう。
(結衣を急かすつもりはないけど)
この機会に、あらためて想いを伝えておいてもいいかもしれない。
「そ、そういえば」
「な、なに?」
「その。あらためて言うけど、俺は、おまえのことが好きだからな。もちろん、女の子として」
「……え?」
少しびっくりしたような顔の結衣。
付き合い始めたときに想いは伝えた気がするけど。
「あ、うん。わかってる。ありがと」
さすがに、そこは伝わってたようで、ほっとする。
しかし、その後の結衣はどうにも落ち着かない様子だった。
教室でも。
「あの、ちょっと中庭に行けないかしら?」
「?いいけど」
堂々と教室で食べていたのに、場所を移そうとしたり。
「じゃあ、私はここで」
「あ、ああ」
いつは団地の2階で別れるのに玄関で避けられるし。
(避けられてる?)
しかし、一体何が原因なのか。
改めて想いを伝えた、あたりしか思いつかないが。
(ひょっとして、結衣としては、もう「異性として好き」と思えなくなったのだろうか)
そんなことを考えて部屋で悶々としていたら
【その、昼間の告白だけど】
結衣からのメッセージが来ていた。
【あれがどうかしたか?】
【あれは本気、なのよね】
【?ああ、もちろん】
【そっか、良かった】
【良かった?】
【ううん。なんでも。それより、今日はごめんなさい。いきなり態度が変になっちゃって】
【それはいいけど。なんか理由でも?】
【いきなりだったから、照れ臭くなっちゃって】
【そ、そうか。それはすまん】
【こちらこそ】
そうお互いに謝り合う。
考えてみれば、付き合いはじめのころには伝えたはずだけど、それ以降
ちゃんと言葉にして言ったことは一度もなかったかもしれない。
(結衣が照れるのも当たり前か)
距離が離れたわけじゃないことを知って、ほっとしたのだった。
【それで、クリスマスイヴのことなんだけど】
【ああ】
【場所は私に任せてくれないかしら?】
男としては、クリスマスイヴのデート場所くらいエスコートしたい気持ちがあるので複雑だ。
ただ、結衣としても、思うところがあるのだろう。
【わかった。で、場所はどうするんだ?】
【ここで伝えるのもだし、その辺は後で改めてってことで。それで、クリスマスイヴだけど】
【ああ】
【ちゃんとしたいと思うから、待ってて欲しいの。今まで待たせておいてなんだけど】
【そうか。ありがとう】
これまでずっと保留にしてきた、「本当の告白」のことだろう。
心臓がどきどきしてくる。
(24日から…)
あと2週間もないその日が待ち遠しくなってきた。
なお、その日は寝不足で、翌日は遅刻ぎりぎりの時間になって起きたのだった。
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