第10話

決戦の場に赴く前の、ほんのつかの間の休憩を取っていると、私のフードの中からひょこっと小さな小さな可愛らしい顔が出てきた。


『ねぇ、サクラ。彼、木の精霊ドリューの加護を受けてるわよ。私と一緒ね』


そう言うと、キラキラと木漏れ日の様な光りをまき散らしながら、ルカの頭の上に座ってしまった。

「あ、光葉みつは!ダメよ、勝手に出てきちゃ!」

焦る私に、子供たちはびっくりしたように、そしてそれはすぐに輝きに満ちた目で、ルカの頭の上の精霊を見る。

「すごい、すごい!!精霊さん?わたし、はじめて見たー!!」

「わたしも、わたしも!かわいいー!」

そう言いながら、精霊を掴まえようと手を伸ばせば、するりとそれをかわし、私の肩に座った。

「もぉ、光葉!なんでそう勝手に・・・」

と小言を言おうとした私の言葉に被せるように、またもフードから小さな頭が出る。

『おぉ、サクラ!この双子のチビども、オレ様の眷属だ』

そう言って出てきたのは、炎を纏った火の妖精イフリート

えん!!ちょっと!何であんたまで出てくるのよ?!」

見た目は可愛らしいけど、あまり人前には姿を現さないという精霊が自ら姿を現すのは、とても珍しい事なのだ。・・・と、前にリズが言ってたんだけどなぁ。

中身はどうあれ、見た目だけは可愛らしい小さな物体に、子供らは大はしゃぎだ。

「・・・・アリオス・・・これって、どういう事?なんで、こいつら勝手に出てきてる?」

「う~ん・・・契約してるのはサクラだろ?」

「契約っていったって・・・押しかけ契約じゃん。半分は騙された感ハンパないけど・・・それに私、魔法使えないし」

『騙されたとは、聞き捨てならんな』

そう言いながら、またもフードから小さな生き物が出てきた。


・・・・私のフードは未来の猫型ロボットのポケットと同じか?そうなのか?

呼んでもないのに、何でこうもポンポン出てくる??


しかも、この尊大な言い方をするチビは・・・・

『サクラ、今、我を侮辱するような事を考えなかったか?』

「・・・いいえ、その様な恐れ多い事を・・・大地の精霊グラン竜樹りゅうき様」

こいつ、何故わかった・・・・・

『ならば、良い。ふむ、あの娘は我の眷属のようだな』

そう言うと、ミリナの元へと飛んでいった。

そして、何かを確かめるかのようにその周りを飛び、私の元へと戻ってきた。

『面白い。実に面白いぞ、サクラ』

「何がそんなに面白いの?こっちは、作戦決行前で少し神経質になってるっていうのに・・・・」

私は不満たらたらに文句を言うと、『仕方がないわよ』『そうそう』『仕方がないのさ』と、お喋り雀が三羽、またもフードから飛び出してきた。

「・・・・・・・・・」

「諦めが肝心です」

そう言いながら、リズがぽんっと私の肩に手を置いた。


最後に出てきた三匹・・・もとい三人は、水の精霊アーナトリヤ水月みづき風の精霊エンリルはやて空の精霊トールあおという。

何で彼等が非魔法使いの私に纏わりついているのかとか、日本名が付いているのかとか、話せば長くなるから、かなぁ~~り、割愛させていただきますが・・・

ある日、私の目の前にこの六匹・・・いや、六人がいきなり現れて、自分らと契約しろと言ってきた。

魔法使いでもない私は勿論お断りしたんだけど・・・面倒臭い事になりそうだったし・・・


でも、自分らと契約すれば、自立できるぞ、と言われたの。ぐらっとくるよね!

今は王子やリズ達に護られているけど、この世を統べる六大要素と契約すれば、怖いものなしだと言われたの。気持ちが傾くよね!

しかも契約は、彼等に名前を与えるだけの簡単スピーディーって言われたの。やるしかないよね!


そして私は後悔をする・・・・

リズの冷たい眼差しと、二度目となるアリオスの人には見せることのできない顔が、私を責め立てる・・・・

「だって、契約すれば、自立できるって言ったもん・・・」

「サーラ様、魔法使えませんよね?」

うっ・・・と、言葉に詰まる私に、元凶である六人がにこやかにこう言った。

『なに、サクラが魔法を使えずとも、我らが護れば問題なかろう』

「それが問題なのです!各精霊の王、自ら暴れるようなことがあれば、この国は滅んでしまいます!!」


そうなのです・・・彼等は王様だったのです。よって、クーリングオフができません・・・・

精霊の王様に対しても怯むことなく向かっていくリズを尊敬しつつ、私は確実に自立への道が遠のいた事に頬を濡らし、そして、今に至るのであります。

何で王様自ら契約しに乗り込んできたか聞けば、『異世界の人間に興味があったから』・・・と。

多分、それだけではないんだろうけど、聞けばますます面倒になりそうだから、取り敢えず今はスルー状態。



「んで、何で皆出てきたの?王様は忙しいんじゃないの?」

ちょっと嫌味交じりで問えば、竜樹がふんっと鼻で笑った。

『おぬしを通して、魔力の匂いがぷんぷんするでな、見に来たのじゃ』

「魔力?」

私は魔力探知機なの?と、首を傾げていると颯が『おぉ!この一番チビが俺の眷属だ』と、嬉しそうにティナの頭に座った。

きゃっきゃはしゃぐ子供らを横目に、アリオスが驚いたように竜樹を見た。

「大地の王よ、このような事があるのか?」

『うむ、珍しい事じゃ』

私は何が珍しいのかわからず、リズを見れば心得たとばかりに解説してくれた。

「前にも説明しましたが、この国・・・この世界には魔力を持つ者が非常に少ないのです」

この国に限ってではないが、非魔法師が多くを占め、魔力を持った人間は非常に貴重で優遇される。

ましてや、遺伝も絶対ではなく、これまで非魔法家系だった家から、突然、強い魔力を持つ子が生まれたりもするのだ。

「それが、このように五人も・・・、王達が自ら認められるという事は、なかなかの魔力持ちなのかもしれません」

いまいち、魔法云々の凄さが良く分かっていない私は、要は、珍しい魔力持ちが五人かたまっていたって事が凄い事だったっなのか・・・と理解する。

「・・・魔力持ちが優遇されるってことは、この子等も当てはまるのよね?」

「はい。勿論です」

そっか・・・なら、このチビ共の乱入も意味があったってことね。

この子等の未来に光が見えてきて、私は尚更、失敗はできないと意気込んだ。・・・・意気込んだんだけど、作戦があるわけじゃないんだよね。

本当に、正面切って乗り込むだけだから。


だからこそ願わずにはいられない。

どうか、上手く事が運びますように・・・と。


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