第9話
作戦会議・・・と言いながらも、これといった作戦はなく、まぁ、正面突破でいくから簡単な打ち合わせをしながら、子供らから聞いた孤児院の現状を整理した。
あの孤児院は、今から五年前に現当主に引き継がれたようだ。
そして今の所この子等五人しか、在籍していない。
これまでも、何人か居たけど、知らない間に居なくなっていたのだという。
自立したのだと言われたが、挨拶もなにも無しに居なくなるのはおかしいと思っていた所に、偶然、伯爵とどこぞの貴族の会話を聞いてしまい、子供らがある一定の年齢になった時、売られていたのだという事がわかったようだ。
そしてこの度、ミリナがある貴族の愛人として売られることになったと。
あの孤児院には、見張り兼用心棒が三人。厨房に二人。そして子供らの世話をする管理人が一人常在している。全て男だ。
伯爵はと言うと、五日毎に通ってきているらしい。
彼等は伯爵が来る前日に、孤児院から逃げたのだという。
「じゃあ、今頃、大騒ぎなんじゃない?」
大事な商品が逃げちゃったんだもんね。
しかも、用心棒がいるなんて・・・よく逃げられたもんだと、感心してしまう。
「あそこは、高い塀で囲まれてるんだけど、地面に一か所だけ僕たちが通れるくらいの穴があるんだ。普段は石を置いて隠してるけど」
「じゃあ、今までもそこから抜け出した子、いるの?」
「多分・・・いない。きっと誰かが逃げるために掘っていたんだろうけど、間に合わなかったんじゃないかな・・・」
ルカが悲しそうに首を横に振った。
「せっかく逃げ出せたのに、何故ここに?」
今までほぼ聞き手に徹していたアリオスが、口を開いた。
もっと、遠くまで逃げても良かったかもしれないし、私の世界でいう警察に駆け込んでも良かったのでは・・・とも思うが・・・
「うん、僕やミリナだけならどこにでも行けたけど、この子達は体力がないから、あまり動けないんだ。役人も伯爵と同じで・・・信用できないから・・・」
遠くに逃げたふりをして、さほど離れていないこの林に隠れていたのだという。
『灯台下暗し』『木を隠すなら森』の原理か・・・
「ルカって、頭いいね!」思わず感心して、彼の頭を撫でた。
町中に出てきたのは、孤児院では碌な食事も与えられなかったため、空腹に耐えきれず食べ物を恵んでもらおうとしていたらしい。
「万が一、伯爵に見つかったらどうするつもりだったんだい?」
「その時は、大声で『こいつは人攫いだ!』って大騒ぎするつもりだったんだ。人攫いは重罪だし、多分、伯爵本人は探しにこないってわかってたから」
どういう事かわからず、アリオスを見れば「天賦人権法、か?そんな難しい事、よく知っていたね」と、感心したように頷いた。
「天賦人権法、って?」
「すべての人間は生まれながらに自由かつ平等で、幸福になる権利があるという、この国の法律でもあり、この世界での不文律さ。どんなに貧しい人間でも、幸福になる権利はある。その機会を奪う様な、ましてや子供たちを攫おうなんて事は、殺人と同等の罪になるんだ」
「ふぅ~ん・・・その割には、身なりの良いおっちゃんが、ルカを突き飛ばしてたよ。それは、許されるわけ?」
「それに関しては・・・いま、町で若い子たちの間でかなり良くない『遊び』が、流行っていて・・・その所為だろうな・・・」
良くない、遊びだって?どこにでもハンパ者はいるだろうけど・・・
「そこそこ裕福な家柄のガキ共が、物乞いに扮して大人たちから金を・・・まぁ、遊ぶ金欲しさに騙し取っていたんだ。人の善意につけこんでね。それが発覚してから、本当に苦しんでる人達も疑惑の目で見られるようになったんだ」
初めにティナとルカを見た時の、アリオスの反応が薄かったのは、『本物』か『偽物』かを見極めていたらしい。
「なんか、そのガキ共・・・ムカつくわね。勿論、片っ端から掴まえて罰を与えてるんでしょうね?」
「当然。ガキだからって、特別扱いはしないさ。余りにも悪質すぎるからね。貴族平民関係なく、加担した者は、辺境送りさ」
冬は寒さ厳しく、夏は若干過ごしやすいようだが、娯楽は一切なく自給自足の生活をしながら、腐れた性根を叩き直しているらしい。
「じゃあ、そのナントカって伯爵の性根も叩き直して欲しいわぁ」
「そうだな。まぁ、彼の場合は、暗く狭い所で・・・と、なるかもしれないがな。さて、どうやってしっぽを掴もうか・・・」
「どうやって・・・って、正面切って、皆であそこに行けばいいじゃん」
今は元凶の伯爵も滞在してるんだから、ある意味チャンスなんじゃないかな。
私は、アリオスとリズの顔を確認するように、順番に見れば、リズは「異議ありません」と頷き、アリオスは少し難しい顔をしつつも、「そうだね」と一言。
それでやるべき事は、決まった。
その『天賦人権法』とやらを、最大限に利用させてもらおうじゃないですか!
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