第3話 怪談ばなし
あかみは夕食を食べ風呂に入りすべての夜のルーティンを終えてからベッドにうつ伏せになるお気に入りのポジションでスマホを手にして音ゲーをやることにした。最高難度である。
これを一つでもミスったら死ぬ。
いちばん得意な曲を選んだ。
ただの都市伝説などの類にすぎないと思うが緊張で手汗がひどかった。
一度洗面所の流水で手を洗ってから部屋に戻った。スマホの画面についた皮脂をメガネ拭きで拭いた。これで準備万端調った。
深呼吸をしてから高まる鼓動を落ち着かせた。よし。やろう。
最高難度の音ゲー。
最初のワンタップが重要なところである。ここでミスるとリズムが崩れボロボロになる。始めると次から次へとマークが飛んでくる。だが慣れたものだ。
メロディとリズムに乗りながら適切に処理していった。中盤にさしかかった時に先走りすぎてミスタップをしそうになったがギリギリセーフだった。
だがギリギリセーフというのは次のミスにつながりやすい。すでにリズムが乱れているからだ。修正するのも簡単ではない。唇を強く噛み締めすぎて鉄の味がした。
リズムを持ち直したと安心した時、ハタハタからメッセージが届いて画面にその旨のメッセージが映った。画面が半分しか見えなくなった。メッセージが表示しないようにするスリープモードにしておくことを忘れていた。高スコアを狙う時に設定するのを忘れたイージーミスである。早くメッセージが消えてくれと願いながら怒涛のように流れてくるマークを処理していった。
やっと消えてくれたと思ったら、今度は階下からお母さんの声。
「いずみ〜あんた階段の電気点いているよ〜」
リズムが乱れた。
こんな時になんで声をかけてくるんだよ。
悪態を吐く暇もなくゲームは続いている。手汗が吹き出した。唇が乾いた。心臓も激しく脈打っている。ヤバい。間違える。早く終わってくれ。サビが終わりもうすぐで終わるという時、そこからがまだ長い。最後のワンタップまで気は抜けない。
だが気を抜けないという緊張状態がミスを誘った。ピカピカ光りながらコンボを重ねえげつないほど流れてくる最後の難関も処理してあとは最後のワンタップという時にミスった。先走りしてスルーしてしまったのである。
ところがなにも起こらなかった。
「わたし…生きてるじゃん」
ベッドから降りて階段の電気を消した。
ドンッ
ドンドンッ
窓になにか音がした。
怖い…思いながらも確かめずにはいられない。ここは二階である。誰かが窓を叩いているにしても二階までどうやって上ったのだろう?
パパを呼んだ方がいいかもしれない。
階下へ行ったらパパは入浴中だった。
諦めて部屋へ戻った。
ドンッ
ドンドンッ
バンッ
「なにかぶつかってる…?」
恐る恐る窓に近づいてカーテンを開けた。
からすだった。
からすが途切れることなく次から次へと窓へ体当たりしていた。
あかみはその場にくずおれた。
倒れたまま身動きが取れなかった。頭が妙な方向に曲がり目も動かせなかった。声だけがなんとか発することができたが大声にはならなかった。
なにか悪魔か狐が憑依したような感覚だった。エクソシストという古いホラー映画を思い出した。少女に取り憑いた悪魔を神父が悪魔払いをするヤツだ。まったく体が自由にならない。金縛りとも違う。なんだこれは。
物音を聞きつけてママが部屋に飛び込んできた。
「いずみ! どうしたの!」
母が駆けつけてきてから程なくあかみは動けるようになった。
「てんかん発作ねぇ」と母と父が相談し合うように言った。
「てんかん? わたしが?」
「実はあなたが三歳頃かな。てんかんを起こして当番病院に運ばれたことがあるのよ。大きくなって治ったかと思ったんだけど、そうじゃないみたいね」
翌日、母に付き添われて病院へ行くことになった。
病名はてんかんだった。部分発作。それほどひどいものではないらしい。
そういえば、亡くなった森谷さんもてんかん持ちだったことを思い出した。授業中に発作を起こしてひっくり返ったことがある。
彼女は横断歩道を歩行中にてんかん発作を起こしたところに不運にも交通事故に遭ってしまったのかもしれない。
なぜあかみは今頃になっててんかんを再発したのか。
ライフスタイルを医師に報告したところスマホゲームのチカチカ点滅する光によって誘発されたのかもしれないという。
ニュースやアニメで画面の右下に表示される『フラッシュや光に注意して下さい』という注意喚起の字幕は、これによっててんかん発作を起こした子供がいたことに起因するという。
つまり都市伝説の正体はてんかん発作を起こした子たちが不幸にも二次被害に遭って亡くなってしまったのかもしれない。
(了)
音ゲー、ミスしたら死ぬ 早起ハヤネ @hayaoki-hayane
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