第5話 山形

 2月1日

 鹿児島市の桜島が小規模噴火。翌日、福岡管区気象台が警戒レベルを入山規制に引き上げる。


 私は標的リストを見た。

 大泉彦五郎

 川原裕太

 不破五兵衛

 鈴木久米蔵

 土屋淳

 

 2月2日

 午前1時51分頃、群馬県と長野県の県境にある浅間山が噴火。噴煙は約2000m上空まで達し、関東地方でも火山灰を確認。


 2月5日

  紀勢自動車道の奥伊勢PAが開業。

 シングルマザーの瀧山千鶴は愛娘の照子と自宅へ帰る途中、山居倉庫でチンピラ4人によってレイプされてしまう。資料館は17時には閉まり、夜は閑散としている。ケヤキ並木の隙間から月光が降り注いでいた。


 この事件を担当する酒田署の富樫成美は懸命の捜査によりチンピラたちを逮捕するが、チンピラの親が雇った敏腕弁護士の手により無罪となってしまう。怒りに震える成美は、チンピラたちを自身の手で始末することを決意する。


 2月7日

 紀勢自動車道の大宮大台ICから紀勢大内山IC間が開通。


 2月9日

 東京地方検察庁特別捜査部、大手ゼネコン『芹沢ホールディングス』の裏金を山形のコンサルティング会社『アド』の企業グループが受領、脱税した法人税法違反容疑で代表取締役の坂巻大貴が逮捕された。

 oddには半端、端数、奇数、妙ななどの意味がある。英語は面白いと葵は思った。

 

 2月10日

 青森県警・秋田県警・山形県警三者合同捜査本部は、2008年9月に発生した三宅フーズによる『事故米不正転売事件』で、三宅フーズ等を不正競争防止法違反で摘発、三宅政信社長ら5名を逮捕。

 青森の中山葵、椎名正孝、秋田の佐藤鉄矢、江川春奈、さらに山形県警捜査一課の近藤彬管理官(警視)の5人は一連の殺人事件との関連性がないか調べていた。

 三宅フーズは将棋の街、天童市にあった。

「近藤管理官は将棋とかやられるんですか?」

 ブーが尋ねた。

「難しいよね?頭使うだろ?」

「でも面白いですよね?」


 2月14日

 南から流れ込んだ暖かい空気に強い日差しが加わって2002年以来の全国的に気温が上昇。静岡県静岡市清水区で26.8度、神奈川県小田原市で26.1度、石川県金沢市で26.1度など、全国105ヵ所の観測地点で2月の最高気温を更新。


 米沢警察署警備課に勤務する相武健太巡査部長は、政府要人の警護を希望して上層部に配置転換を願い出るが却下されてしまう。

 元政治家であり、今は酒田で隠居生活を送る大泉彦五郎が、健太を直々に指名して身辺警護を希望しているというのだ。酒田市長の川原裕太は大泉に大恩があり、義理を立てたい川原はその希望を無下には出来なかった。


 しかし、退屈な隠居生活の世話係は健太にはまるで張り合いが感じられない。健太はぶっきら棒な態度で大泉に付き添い、大泉もまたそんな健太の気持ちを見透かしたように八つ当たりを繰り返した。

「ケンタッキー、おまえなんかどうにでも出来るんだぞ?」「馬鹿は死ななきゃ治らねーな?」


 盗みの前科ありの不和五兵衛、鈴木久米蔵、土屋淳は、ムショ仲間宮川康文の娘、さくらを探すため酒田にやってきた。


 さくらは銀行で働いており、3人がそこで目にしたものは500万の大金だった。彼らはお金に目がくらみ、そのお金を盗んで逃げようとする。だが大雪で車が横転してしまう。


 そこで彼らは町の人々に救助され、川原市長の家へ連れて行かれる。疑うことを知らない町の人々は、不和たちが脱出しようとしては遭難するたびに助けてくれるのだった。


 やがて、さくらに恋をした淳は、盗んだ金を返そうと決意するが、宮川が刑務所を脱走し、さくらを人質に500万を要求してくるのだった。


 売れっ子脚本家だった柄本陽介は酒が原因で会社をクビになり、金銭面で救いを求めた友人にも拒絶され、妻子も逃げていった。陽介は会社から退職金がわりの小切手を手にしたことで、死ぬまで酒を飲み続けようと決意し、酒を24時間飲める裏カジノがある鶴岡にやって来た。寂れたモーテルに滞在した。

 鶴岡には庄内藩主酒井家の御用屋敷を博物館として公開してる到道博物館がある。明治14年(1881)に建造されたらしいが、入館に700円もかかる。

「バカバカしい!」

 旧風間家住宅丙申堂は鶴岡の豪商・風間家が建築した国の重要文化財。明治29年(1896)に建築されたが、400円もかかる。

「ふざけんな!」


 陽介は鶴岡城址公園にやって来た。鶴岡城は庄内藩主酒井家が250年間居城とした。園内には歴代藩主を祀る荘内神社や、藤沢周平記念館などがある。入園無料だから燃やさないでおいてやる。

 路上で美しい女性と出会い、1時間2万の口約束を結び、モーテルの一室に連れ帰り、激しく交わった。


 翌日、帰宅した女は、不和五兵衛に一晩の稼ぎが悪いと脅された。

「貴様、トカレフ下の穴に突っ込まれてぇのか!?」

 女は蔵王温泉に客を探しに出掛けた。斎藤茂吉ゆかりの源泉かけ流しの宿で相武健太って男に愛された。

 数日後、マフィアの仲間に追われている五兵衛は、自身の身に危険が迫ったことを察知し、女に別れを告げる。

「今までのひどい扱いを許しておくれ?」

 晴れて自由の身になった女は、陽介のいるモーテルにふたたび戻る。


 一方、刑事の仕事に嫌気がしていた葵は椎名と銀山温泉に遊びに来ていた。

 大正時代に作られた趣のある旅館が銀山川の両側に建ち並んでいる。JR大石田駅からバスで40分もかかった。

「江戸時代に延沢銀山として栄えたんだ」

「マサ、刑事なんて辞めて学芸員にでもなれば?命を縮ます心配もないじゃん?」

 温泉に入り、酒を飲み🍶、眠った。

 葵はバージンロードを歩いている夢を見た。シャキッ!シャキッ!妙な音がしたので目を覚ますとハサミを持ったエビみたいな妖怪がいた。

「キャアッ!マサ、起きて!」

 椎名は起きるとホルスターからベレッタを抜くと、エビの怪物を撃ち殺した。

 葵は春奈にケータイでメールを送ったら、アミキリって妖怪だと教えてくれた。吊った蚊帳や吊り紐を切ったり、漁師の家に現れて漁網を切ってしまうそうだ。

「その銃、どこから?」

「俺、昔イジメられていてね?そいつらに復讐しようと思ってるんだ」

「私がいるじゃない」

 

 鶴岡の古いモーテルに現れた妖怪、影女は柄本陽介惹かれ、一目惚れする。陽介は見えないはずの自分をしっかりと見つめていた。影女は殺せば殺すほど様々な魔術を使えるようになる。稲石を殺したときも楽だった。影女はコンビニのトイレのドアの隙間から入り込んで稲石を殺した。

 柄本を殺すことに自責の念にかられるマギー影女は、掟を破り姿を現し陽介と接するうちにより深く陽介を愛するようになる。

 

 そんなある日、影女は不破五兵衛と出会う。

 不破五兵衛の正体は天の邪鬼だった。人の心を読み、相手の口真似やモノマネをし、人の言葉や心に逆らう妖怪だ。

「私は妊婦たちに嫉妬して殺した」と影女が言うと、五兵衛も「私は妊婦たちに嫉妬して殺した」と言った。不破は昔は天神だったが、人間の要望を聞き入れ過ぎた為に日天、月天から叱られてへそ曲がりにした。

「岩手にいたときはずっと、灰の中にいた灰をいじる奴を食ったこともある。神奈川にいたときは山を崩したこともあるんだ」


 2月20日

 影女は銀山にある能登屋旅館に陽介とやって来る。洞窟風呂などのある明治25年(1892)に創業した老舗旅館だ。回廊で鈴木久米蔵と鉢合わせになり、日本刀で斬りつけられた赤い血を流し、痛みを感じる人間の身体に影女は喜んだ。

「これが人間なのねぇ?ヒャハハハハーッ!」

 これまでの殺戮は楽だった。標的が人間だったからだ。だが、不和や鈴木は楽にはいかない。鈴木久米蔵の正体は、鈴木渚の曽祖父で正体は旧鼠って怪物だ。旧ソ連って意味はない。ゴルバチョフの亡霊なんて怖すぎる。千年を生きた鼠が化ける猫みたいな怪物だ。

 

 2月21日

 深夜、銀山温泉にある延沢銀坑道で大泉彦五郎が殺害された。大泉は財宝が眠ってるとのブログを見てやって来た。本来は冬期は閉鎖されているのだが?大泉は不思議に思いながらも奥に進んだ。内部は一本道で、木炭や薪で岩肌を熱して鉄槌で砕いた跡などが残っている。背後に妙な気を感じたときは遅かった。鋭い鎌が喉笛に食い込んでいた。

 ビュッ!真っ赤な血が飛び散った。

 

 2月22日

 葵と近藤は酒田にある大泉彦五郎の屋敷を調べていた。金庫から、中年男性の惨殺死体を撮影した写真が発見された。首の両側には切り傷がぱっくり口を開いていた。彼は酒田市長の川原裕太だった。

「川原を殺したのは大泉なのだろうか?」

 近藤彬が言う。

「政治と金がらみ?」

 中山葵が言う。

 

 2月23日

 10年前の成田空港にて、何かの予感を感じ「フランス行きは考え直して」と引き留める葵を振り切って、インターポールで成功するために旅立った俊介。その結果2人は別れてしまい、爆弾テロに遭遇して帰らぬ人となる。そんなことを回想しながら葵は山形タウンのスーパーで買い物をしていた。

 ニット帽をかぶった男がお菓子を盗もうとしていた。

「あなたはまだ若い、これからいくらでもやり直せる」

 葵は命からがらその場はおさめ、そしてお菓子を買ってあげた。

 その夜、葵はJR山形駅近くのシティホテルに椎名と宿泊し、眠りに入った彼女は、翌朝起きると、自分が見知らぬ庶民的な家のベッドにいることに気付く。隣には10年前に亡くなったはずの俊介が寝ており、そして2人の子供と大きな犬までいた。

 夢だと気づいて涙を流した。


 2月24日

 鈴木久米蔵は山形市郷土館に来ていた。中央の庭を囲むように造られた多角形3層の建物だ。JR山形駅からだと歩いて15分だ。医学資料や郷土資料などが展示されている。ステンドグラスは見事だ。

 1943年、南太平洋ソロモン諸島ブーゲンビル島での戦いを思い出した。日本軍はまだこのときは優勢で、久米蔵も多くの米兵を殺した。

 1944年6月16日にはサイパン島に上陸し米軍と激しい攻防戦を繰り広げた。

 久米蔵はそこで仙人に遭遇し、猫みたいな怪物に姿を変えられた。危険を察知すると旧鼠に姿を変えるのだ。


 葵は郷土館に現れた猫怪物をニューナンブで撃ったがビクともしなかった。しかし、椎名がベレッタで撃つと簡単に死んだ。ベレッタに秘密があるのだろうか?実は椎名は魔族の人間で、聖なる剣などを使わずとも普通の武器でも倒せた。

 

 2月27日

「久米蔵が亡くなっちまったな?」

 五兵衛は淳に言った。

「あんな爺さんじゃ勝ち目ないよ」

「あんな爺さんじゃ勝ち目ないよ」

 天の邪鬼の五兵衛は淳の真似をした。

「コロッケさんに弟子入りしなよ?」

「コロッケさんに弟子入りしなよ?」

 2人はスタジオセディック庄内オープンセットにいた。映画撮影の為に建てられたセットで時代劇に出てきそうな宿場町、漁村、農村などがある。

 

 葵は山形駅から100円循環バスで15分のところにある栄屋ってラーメン屋にやって来た。夏場は冷やしラーメンが美味いらしいが、さすがに木枯らしがピューピュー吹くこの季節には温かいのが美味い。太麺で、牛エキスからとった和風スープは体が温まる。

 葵はイケマを持っていた。アイヌ語で『神の足』を意味する。呪術や魔除けとして乾燥させたものを使う。食用も可能で、強心や解毒効果がある。ラーメンにまぜて食べた。スパイシーになる。

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