第2話 ドッジボール


 校舎の時計は十二時三十分を過ぎていた。あと残り十五分を、一人で逃げ回るのはキツイ。

「さあて、皆様。大変お待たせいたしました。デザートのお時間です。本日も、よおく冷えたライチをご準備致しました。」

 勇太オンステージの始まりだ。

「おい、時計回りにパスを回していけ。」

 勇太はニヤニヤしながら、左エンドの伸介にボールを投げた。今日も、勇太のちょっと左に曲がった鼻がひくひくしてる。ショーの結末を想像して、楽しくてしょうがないようだ。いつもの様に標的の周りをパスを回していき、相手の目が回ったところで、勇太が止めを刺すという作戦だろう。雷一ライチは諦めて、自分から声を掛けた。

「こっちのチームの負けだよ。それでいいんだろう。」

 いつも最後に自分が残されて、ねちねちと追いつめられ、最後は勇太の強烈なボールを当てられる。昨日は太ももに当てられて、真っ赤なボールの跡がついた。先週の金曜日は背中に当てられて、夜中に寝返りするたびに痛かった。雷一は今日は早めに降参しようと、ドッジボールが始まる前から決めていた。勇太に散々らされて、最後に痛い目にあうよりはましだ。

その時、雷一はひらめいた。

『そうだ。亀の様に身をかがめて構えれば、少しでも痛みを小さくできるんじゃないのか。』

雷一は我ながら、自分は天才じゃないかと思った。

『よし、この作戦でいこう。』

雷一はしゃがみ込むと、首を両足の間に入れて体育座りをした。勇太が雷一の異変に気づいて怒鳴どなった。

「雷一、何してんだ。」

勇太の怒鳴り声が、昼休みの校庭に響き渡る。雷一には、勇太の怒りに満ちた真っ赤な顔が思い浮かんだ。

『ちょっと我慢すればいいんだ。あと、もうちょっとの我慢だ。』

もうすぐ、昼休みが終わる。

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