第3回 フラワー懺悔室
今回はサボテンや多肉植物が咲いたときの話をしようと思う。
サボテンのペンタカンサという丸っこくてトゲの少ないやつがうちにいる。そいつは多肉植物やサボテンの基本である「動かざること山のごとし」といった風情で、年に2~3回水やりをするだけでピンピンしていた。特にすぐ新芽が出るとかの面白みはないのだが、丸くてすべすべしたフォルムはなかなか可愛らしいし、大きく太っていて見ているだけでニコニコできた。
早春、そのペンタカンサのてっぺんらへんに、突如謎のぽっちができた。
緑色のかさぶたみたいなぽっちを初めて見たとき、「これは……虫?」と思ったが、虫にしてはサボテン本体となじみのいい色をしているし、大丈夫だろうと放置した。
するとそのぽっちはむくむく大きくなり、五月か六月くらいにはにょっきりとアスパラのように育ったのである。間違いない、これは花芽だ。
アスパラ大のその花芽からは、薄桃色の花びらがのぞいていた。そして六月、そのアスパラはついに花ひらいた。薄桃色の、可憐で愛らしい花である。
当然わたしは、
「ウヒヒヒ……ペンタカンサちゃんはかわいいでちゅねえ……」
という塩梅で、そのペンタカンサを眺めていた。かわいい。本体もかわいいが花は格段にかわいい。頑張れ花、と応援したくなる花である。
ペンタカンサの花はひと昔前の美少女キャラクターが着ているピンクの洋服のような花で、家族にも見せたいと思っていたが夕方には閉じてしまった。
次の日も、ちょっとヨレ気味ながらペンタカンサの花は咲いた。嬉しくてニヤニヤした。
それが数日あって、気が付いたら花はくちゃくちゃになって萎れてしまっていた。放置して腐るのも嫌だったので、花がらは結構あっさりもいでしまった記憶がある。
ペンタカンサはまた「動かざること山のごとし」になっているが、また咲かないかなあ、と思っている。
それからフェネストラリアの五十鈴玉というのが咲いたときも嬉しかった。
こいつは「棍棒型メセン」というやつで、通販で買った。
名前通り棍棒が何本もニョキニョキしているデザインで、ゲームだったら設定原画を見たくなるようなやつである。その棍棒の根本に、天空の城ラピュタの飛行石に描かれている模様にそっくりな芽がぽこりと出た。それは次第にニョキニョキと育ち、ばばーん! とある日咲いた。これまた第1回に書いた原初の太陽のような、荒ぶるオレンジの花だった。
こいつは結構な数花芽をつけて、次々咲いてとても面白かったのだが、植え替えが下手くそすぎて枯らしてしまった。
というかわたしは植え替えが下手くそで枯らす率が高すぎる。ちゃんと多肉植物のハウツー本を見ながら世話をしているのに、である。
植物とはいえやっぱり枯れると悲しい。
咲いて楽しい、といえばコノフィツムが最多開花王ではなかろうか。何度も、枯らしては新しい鉢を買う(もちろん枯らす原因は植え替えである)ということをしているわけだが、これもそのへんのホームセンターにホイホイ売られているものでなく、通販で買うのがほとんどである。
このコノフィツムというのがなかなかユニークな植物で、冬の間に花をつけ、夏に皮の内側で新しい球体が育ち、秋に脱皮する……という、そういう楽しい植物なのである。
去年、わたしはこいつをひと鉢植え替えでダメにしてしまったと思っていた。
でもブヨブヨに腐る気配もないので、しばらく放置しておいた。ある日気が付いたら、そいつがカサカサカピカピになった体から、にょっきり花を咲かせていたのである。
反省した。「枯れたからそのうち処分すっかあ」などと思っていた自分を反省した。
こんなにボロボロなのに、花をつけるなんて、めげたりしょげたりしている場合ではないのだなあと、コノフィツムを見て思った。
しかし現状どうやって根を出させるか悩んでいる。メネデールとかルートンを使えばいいんだろうか。わからない。うむむ……。
わたしはとても不器用なので、木質化した根をカッターの背で削って発根させるとか、そういう器用なことができるとは思えない。だれかいい方法教えてください。
透明できれいなハオルチアも花がかわいい。細い花芽が上がり、その先に小さな百合のような花をつけた。
でもこれも1年目に拝んだだけで、株分けしてみたら徒長して花どころでなくなってしまった。ハオルチアは比較的栽培が簡単だから、株分けしても枯れていないのだと思う。ヒョロヒョロに徒長させてしまって、どうしたものか分からないでいる。
花付きの特大のエケベリアを、例の地元密着のホームセンターで買ってきたこともある。これも、どでかい花がどん! と咲いていて、見るからに美しかった。
エケベリアはそもそも植物本体が花の形をしていて、品種改良が進みさまざまな色や形をしている。こいつもかわいいからとつい集めてしまってダメにしてしまったものがやたら多い。
……だんだん懺悔室の様相を呈してきた。
枯らしてしまった話題ばかりであれなのでもう一つ花の話をする。リトープスである。
リトープスも、コノフィツムとおなじく脱皮する植物である。
リトープスの形を端的に言うと「尻」である。
脱皮の時期になると尻の割れ目から新しい尻がにょっきりと出てくる。そして古い尻は皮となる。
この珍奇植物、別名を「イシコロギク」と言い、白や黄色の花を咲かせる。
本当に尻のごとき体から、菊のような花がにょっきり生えてくる、とてもユーモアセンスのある植物である。
こいつ、コノフィツムと違って植え替えてもなかなか枯れないし、とにかく簡単なのだが、花はなかなか拝ませてくれなかった。花芽つきで買ってきたのが咲くのは当然として、なかなかわたしの世話では花を咲かせてくれないのである。
晩秋のある日、なんとなくリトープスを見ていると、オリーブ玉というやつの尻の割れ目からにょっきり花芽が覗いていた。嬉しくなった。ついに自分で花を咲かせることに成功した、と嬉しくなってたっぷりと水をやった。
そしたら花芽が育ちすぎて、あっさり身割れしてしまった。花芽の生長に本体が耐えられず、割れてしまったのである。
しかしそれでも当たり前みたいに黄色い花が咲いた。
その姿は、まさしくイシコロギクであった。
リトープスは「リビングストーン」とも呼ばれている。生きている小石というのは美しい名前だ。ホームセンターとかで「花咲く小石」という名札をつけられて売られているのを見たこともある。
錬金術が大好きな子供だったわたしは石や鉱物の類も大好きで、某百均の鉱物標本シリーズを集めていた時期もあるし、宝石の本を読み漁ったこともあるし、「毒薬の手帖」に出てきた竜糞石がどんなものかぼーっと夢想していた時期もある。
とにかく錬金術の素材になりそうなものが大好きなんである。
きっと中世の錬金術師たちがリトープスを見たら驚いて、賢者の石の材料にしただろう。
そういうことを考えたし、多肉植物にハマったきっかけになった本で一番気に入ったのは、リトープスとハオルチアだった。
植物というのは花をつけるのが仕事である。植物によっては花をつけると枯れてしまうものまである。竹がその一例だ。
花には植物の持てるエネルギーがすべて詰め込まれている。花を咲かし子孫を残す。それが植物の願いである。
その願いを、人間は自分の都合で「こんな花咲かせたいな」とか「こんな色の花にしたいな」といじくりまわしたわけだが、それでも植物は悩みもせず花を咲かせる。
わたしも人生にひと花咲かせたい。人生の持てるすべてをぶつけて、すばらしい自分にしか咲かせられない花を咲かせたい。
まさに世界に一つだけの花、である。わたしもいずれ人生にデカい花を咲かせたい。
ちなみにこれを書いているとき、今年の夏に中学の同期会をやるというのがフェイスブックのメッセンジャーで送られてきた。
夏には将棋エッセイの商業連載も終わっていてまた無職に戻るのだろうが、同級生をみて羨ましがらないで済む人間になりたい。
人はすべて、世界にそのひと一人なのであるから。
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