幼馴染の初恋は月の女神の祝福の下に

第4話 幼馴染の距離感

　これで男子バスケ部は２度と桜に手を出さないだろうと一息入れ、愛翔はサッカー部の朝練に向かった。一応昨日のうちに入門書だけは読破し基本技術に関するイメージだけは作ってきている。愛翔は身体をイメージ道理に動かすのは得意としていた。そのようにトレーニングしてきたし、少なくともミニバスケットボールではそのように動いていた。ただし、これからはサッカーであるため主に使うのが手から足に変わる。どのように違うのか愛翔はワクワクしている。

「おはようございます」

グランドに響き渡る声で挨拶をする愛翔。これは愛翔の主義だった。

「あ、先輩、道具類は朝は何を出して置いたらいいですか」

早速道具だしの件で動き始める愛翔。それにつられて田河と仁平が道具だしに動き出す。ついでAグループの4人も『そう言えば』というかのように道具だしを始めた。それに対してBグループの１年生は『あいつら何やってんだ』的な視線を向けている。愛翔と田河が溜息をつきつつBグループに向かう。

「おい、道具だしするから、おまえらも来いよ」

と愛翔が声を掛け、

「そっちの４人はボールを、残りは、マーカーとコーンを……」

田河が仕事を振り分ける。

　朝練の時間は短い、決められたルーティーンに従って練習を行う。朝練はランニングと基礎練習のため、全員で同じメニューだった。ランニング、マーカーやコーンを置いてのドリブル、ショートレンジのパス練習。愛翔は基礎練習も初めての体験として楽しんだ。

「よーし、そこまで。１年は道具類を片付けてから授業に行くこと。遅刻すんなよ。お疲れぇ」

部長の三原が朝練の終了を告げる。

「じゃ、片付けるか」

ここで最初に声を出し動き出すのが愛翔。そしてその声にすぐに応じる田河と仁平。その後ろにやや疲れた風ではあるが続いて動き出すAグループの面々。Bグループの面々はスポーツ経験の差だろう『なんで１年だからって』といった雰囲気でだらけた感じだ。

「ほら、だらけてないでさっさと片付けちゃおうぜ。SHRに遅刻すると色々やばいぞ」

愛翔の声かけに渋々Bグループのメンバーもノロノロとではあるが片付けに動き出す。それを見た愛翔は小さくため息をつきながら『こいつらいつまでいてくれるかなぁ』と少しばかり心配をする。

　朝練を終え、部室で着替えた愛翔と田河が教室に駆け込んでくる。それを見た桜が声を上げる。

「愛翔遅ーい。ギリギリよ」

「まにあったんだから良いだろ」

さっそく愛翔に抱きつきに行く桜に愛翔も優しく抱き寄せる。

「初日で勝手がわからなかった上に、スポーツ未経験者が足ひっぱったんでしょ」

笑いながら楓もくっついていき、耳元でそっと囁いた。とたんに周りで黄色い悲鳴があがる。入学以来何かと目立ってきた３人が抱き合い、あまつさえキスをするような距離感でいるのを見ればそういう反応になるのだろう。

「まぁ、そんなとこ」

苦笑しつつ愛翔も楓に耳打ちすると、またも上がる女生徒の歓声。３人はそんなものには我関せずといつもの距離感で笑っている。

「なあ、お前たちってどういう関係なんだ？」

田河が愛翔に声を掛ける。

「俺たちの関係？仲の良い幼馴染だな」

愛翔のためらいのない答えに

「幼馴染ってそんなに距離近い物なのか？」

「他の人達は知らないけど、私たちはずっとこんな感じですよ。ね、桜」

楓も平然と言い切る。桜は、愛翔の陰に隠れるようにしながら、それでもそっと頷いている。

「橘さんか華桜さんのどちらかと住吉君が付き合っているってことはないの？」

田河の遠慮の無い問いかけに３人はきょとんとした顔をむけるだけで。

「ああ、分かった分かりました。君たちは仲の良い幼馴染で間違いなさそうだね」

と田河も苦笑いして自分の席に向かう。それを見てクラスの皆も拍子抜けしたように授業の準備を始めた。