マリオット
『申し訳ありませんが、貴女の期待に応えるわけには参りません・・・』
『ぐっ・・・なにこれ』
『なっ・・・』
『いや・・・うっ』
『い・・・意識が・・・』
バタバタと倒れてゆく他の部員達。
『な、なにをしたの・・・?』
驚きの表情のまま固まるあんず。直ぐ様、倒れた部員達が起き上がる。
それは、ぴょんっと何か糸のような糸のようなもので、上から引っ張られたような不自然さだ。
ーそれはまさにマリオネット(操り人形)のように・・・くるりとそれもあんず達の方へ振り返る
『・・・ひっ・・・いやあああああっっ!!』
あんずのすぐ近くで耳をつんざくような叫び声が響く。後輩のこうだった。
『こう・・・ちゃん?』
『これは私の術が通じないなどとは・・・その人間も特性変異人なのかもしれませんね・・・可哀想ですが、生かして返す訳にはまいりません』
マリオネットと化した少女達があんず達に向かって一斉に動き出す。カクカクと皆、同じ動きで迫りくる。
『こわい・・・こわい・・・こないでっ・・・こっちにくるなぁ・・・ぁ・・・』
こうの目線がマリオネットの一体とあう。涙でぼやけてはいるが、恐ろしさにはなんの影響もない。
『いやぁっ!!』
悲痛な叫びが終わりを告げると、あんずの片腕に重量がかかる。こうはあまりの恐ろしさに気絶をしたのだ。
あんずはじりじりと距離を詰めてくるもとは部員だったものの方を向いて考えていた。
(力を使えば、操られているみんなを退ける自信はある。
・・・だけど手をあげるなんてできない。・・・みんなを傷つけることなんてできないよ)
『どうすれば・・・』
あんずの心の内など知らない。・・・いや、わかろうともしない。心なきマリオネット達。その中の一体の腕が無慈悲にもあんずの首にのばされる。
ギュッ、ギュウウウウウッ
『・・・しまっ・・・く、苦し・・・。』
尋常ではない力で締め上げられる。あんずも力を使い抵抗を試みるが、相手を傷つけないようにセーブしているため。
そして、力の使い方にまだ慣れていないため脱け出すことができない。
『・・・こ・・・のままじゃ・・・』
ドオォォンッ!!
なにかの大きな音と共に外界の光が射し込んでくる。もう夕方なので強い光ではなかったが、
解放感を感じるには十分であった。
音の原因であろう、ぽっかりと丸く空いた部室の出入り口であるドアの前には、二丁拳銃を携えた女性徒。ありさが立っていた。
『あ・・・りさ』
首を締め付けられる力で目の霞む中、あんずは親友の名前を力なく呟いた。
ありさは親友の命が危険に晒されてるのを即座に感じとると、その場まで走りより首を絞めているマリオネット(元は同じ人間)を躊躇わずに突き飛ばす。
あんずは苦しみから解放され、突き飛ばされたマリオネットは受け身もとらず後頭部を強打する。
『がはぁっ・・・げほっ・・・げほぅっ』
あんずの締め付けられていた気管が元の状態に戻り始める。
『あんずっ、大丈夫?』
先ほどとは違い目の前の自分を気遣うありさの顔。
『ありさ・・・どう・・・して・・・けほっ・・・かは・・・はぁはぁっ』
『もうっ、一緒に帰るって約束してたでしょ?それで・・・待ってたんだけどなかなかこないからさ、ちょうど、この部室から顧問の先生が出てくるのが見えて
じゃぁ、もうすぐあんずも来るころだなぁって思ってまた待つことにしたんだけど、あんずだけじゃなくて他の陸上部の人たちも誰一人として出てこないから。心配になって。
まぁ、こんなことになってるなんて思いもしなかったけどね』
『けほっ、ごめんね・・・ありさ・・・昨日のことでなんか頭の中でそればっかり考えちゃって』
『ううん、いいって・・・わたしもそうだし。・・・それより喉、大丈夫?』
『うん・・・だいぶ落ちついてきた。ありがとう』
とはいうものの、あんずの表情からはかなりの疲労感が見てとれる。あんずの瞳を一直線に見つめたまま真剣な目指しでありさはいった。
『あんずっ、今ならわたしが穴を開けたドアから外に出られるから、はやくその子も連れて逃げて。』
ありさは視線を落としこうの姿を捉えると、出入り口の方を示して外に出るように促した。
(あっちゃあ・・・急なことだったとはいえ、やり過ぎたかも)
ぽっかりと大きく穴の空いた、扉を眺めながらありさは思う。この危機的状況でそんなことを考えている彼女はやはり大した人物なのかもしれない。
『・・・え、・・・ありさは?』
わかりきっていたあんずの返答。ありさはその言葉にすぐさま応える。
『・・・わたしはここにのこるよ。・・・あんずお願いっ・・・なにも言わないでいうとおりにしてほしいっ・・・わたしを親友だと思ってくれるなら信じてほしいっ!
・・・大丈夫っ・・・絶対に死なないし、操られている他の陸上部の人たちも無事に帰らせてみせるっ・・・それは邪滅聖魂を持つわたしにしかできないことだから』
『わかった。・・・ありさを信じるよ・・・でも絶対に死なない。・・・約束だよ?』
ありさにそこまで言われてとめられる筈もなかった。あんずは気を失っているこうを背中におぶると、ドアの穴から射し込む光に導かれるようにその場を後にした。
・・・この後、あんずは自分のとった選択肢を後悔することになる。だがもう動きだした歯車は止めることはできない・・・。
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