決心
『あれ、じぇねからだ・・・えっ!?』
のえるの顔からだんだん血の気がひいてゆく
『血がいっぱいってなんだよ・・・。』
『え・・・?』
血という単語にすずふみも驚きを隠せない。
『ちょっとえるっ、私にもみせてっ』
『あ、うん・・・はい』
送信の内容はこうだ。
― 血がいっぱいたすけてっ ―
いつものじぇねからは考えられないような短い文面。
(・・・やばいっ)
のえるは何故か大きな胸騒ぎを感じる。
『すず・・・わたしいかなきゃっ』
『える・・・なにいってるのっ、もちろん私だっていくよ』
『うん、そうだね、ごめん、すずいこっ!』
チャラランッ
いつもであれば胸踊るであろうメールの通知音だが、いまではのえるの心のなかにある不安を
かき立たせるだけだ。
すぐさま内容を確認する。
『今度はいふからだ・・・』
『いふちゃん?』
『うん・・・校舎に入れないとか打ってある』
『えっ、・・・なにそれ』
『わたしにもわからないよ・・・』
(なにがあったの。これじゃわからない・・・電話もできないじょうたいなのか・・・一体)
『いやっ、今は考えてるときじゃない、行動しないとっ』
のえるはひとりごとのようにそういって首をふる。
『場所だけでもわかればいいんだけど・・・あっ、そうだっ!えるメールだよっ。こっちから送ってみたらどうかな?』
『そっか、その手があったねっ、すずナイスだよっ!!』
のえるはそう言葉を返すと、ビッと親指をたててウィンクする。
(でもなんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろ・・・わたしあせってる?)
馴れた手つきでいふのアドレスにメッセージを送る。・・・画面に送信完了の文字。
『よしっ、とりあえずは送れた。』
のえるはそっと胸を撫でおろす。
『あとは返信まちだね』
『うん、でも、ここでじっとしててもしょうがないと思う。ねぇすず、体育館にいってみようよ』
『そうだね、いいかもしれない。・・・じぇねちゃんたち部活に行ったんだもんね』
『そういうことっ』
・・・場所は変わり女子陸上部部室。夏の大会に備え、選抜メンバーと顧問でミーティングをしている。その中にはあんずの姿もあった
出場種目は主に長距離(1500m走)で、努力の賜物かその実力は、全国大会に出場できるほどだ
そんなあんずに寄せる顧問や他の部員の期待は相当なものだろう。この弥勒高校女子陸上部には短距離も早い生徒がいる。
一年生のこうだ。一年から三年生の部員(五十m走)のタイムをはかったランキングで実に五位につけている。まだ高校に入った小さな体で快挙といえるだろう。
あんずと同じで顧問の期待の程が伺える
ミーティングが終わり顧問が部室から出ていく今日は自主練の日だ。荷物を持ち帰宅しようとする者、よい走り方やスタートダッシュを初稿錯誤する者、部活とは関係ない話をしている者たち。様々だ。
あんずも今日は帰宅するつもりでいた。それは想像に難しくない。昨晩あのような出来事があり、精神状態が安定していないいま、無理に練習したところでよい結果は得られないだろう。
あんずは鞄を手にとり帰宅する準備を整える。
(ありさはどうしてるかな・・・)
同じ境遇である親友のことを考えながら・・・。
タッタッタッ
足音が近づいてくる。自然とその方向へと視線が向かう。
『あんずせんぱ~いっ』
舌ったらずな愛らしいしゃべり方、そして声色。一年のこうだった。
『あれっ、こうどうしたの?』
『あんず先輩、今日は帰るんですか?』
『えっ、うん、そのつもりだけど・・・』
これから日常の光景が映し出されたであろう未来は一人の部員の行動から、暗闇がさしこめる
『あれっ、鍵が掛かってるなんで・・・うそ・・・うごかない』
ガチャッ、ガチャガチャッ
異常を感じた他の部員たちは音のなる方へ視線をむける。
『ちょっと、なにしてんのよ』
『ド、ドアのが開かない・・・ん、くっ』
力みぎみの声でドアのノブを動かそうとする。
『もう、なにいってんの・・・』
呆れたように違う部員がドアのノブに手をかける。
『・・・くっ、・・・ほんとだうごかない』
『ねぇ、ちょっと、窓も・・・ぐ、開かない・よ』
『ぐくっ・・・こっちも開かない』
窓に手をかけた二人の部員が口を揃えていう。
『うそ・・・まさかこれって・・・』
あんずの頬を冷たい汗が伝わり、その表情も険しいものとなる。
『・・・こわい・・・』
あんずの腕にひっしと捕まりこうはちいさな体を震わせる。
あんずはそっとその小さな肩を抱く。そうすることにより、こうの体の震えが少し和らぐ。
『・・・あなたがあんずとかいう人間。・・・なるほど、確かに素晴らしい魂をお持ちのようですね
・・・まだ、成長過程のようですが。』
何処からか聞こえてくる美しくも冷ややかな女性の声。
何者かの名指しに、部員達の視線が自分に注がれていることをあんずは肌で感じていた。
少女はすぐに察した。この声の主が人ならざるもの、そして人間以上の力を持つ特性変異人である自分の命を狙っているということに。
(わたしのことで、他のみんなを危険な目にあわすわけにはいかない。・・・でもこの言葉を言ってしまったら・・・わたしはっ』
あんずはやがて決心したようにゆっくりと顔をあげ口を開く。瞳には涙が浮き出ていた。
でも力強く言葉を紡ぐ。
『用事があるのはわたしだけなんですよね、他のみんなは関係ないはずです。・・・ここからだしてあげてくれませんか?』
『あんずっ』
『あんた、一体?』
『なにいってんのよ』
『あんず先輩?』
・・・もはやあんずの耳にはまわりの声など聞こえていなかった。ただ、何者かの声がした方向の一点に強い目指しをむけていた。
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