エピローグ その2 マルトさん胃が痛い


 大阪のとある街の路地裏に面した、看板も暖簾も出ていない小さな鉄板焼き屋、鉄板焼き処・冥王。今日は貸し切りである。


「うい〜す。ハデっちゃん準備出来てるか〜。」


「ハーデス、野菜ミックスね〜。」


「ごめんくださいまし……」


 にこやかに予約客を迎えるのは店主の冥王ハーデス。


「おお、まいどっ!めっちゃええタイミングやで。仕込みも終わっとるし好きな席に座ってな。」


 好きな席にと言われてもテーブル席は1つしか無いのだが。


「あれ?ゼウスとポセ丼は?まだ集合時間じゃ無いけど、5分前だよ。」


「ああ……それは……」


「まいどだ兄上。今日は世話になる。」


 5分前行動をしてくれていたようだ。


「待ってたぜゼウス、こっちこっち。」「5分前行動とか女関係以外は相変わらず真面目だな。」


「叔父上、ロキ。まいどっ。」


 2日前までいがみ合っていたとは思えない。ぺこりと一礼して同じテーブル席に座るゼウス。


「途中で拾ってくれなければ走って帰らねばならぬ所だった。助かった。」


「走って帰るとか流石にな……いくらゼウスでもキツイだろww」


「んでポンちゃんとゼウスは再戦するんか?頼むからさ、叩いて被ってジャンケンポンで惑星を吹っ飛ばすとか止めてくれよ。」


「確かにアレは洒落にならへん。方や雷霆とかアダマスの鎌。方やメガ粒〇砲やソー〇レイを使ってやるなんてアホの極みやんか。」


 1戦目は最後に食らわしたメガ粒〇砲でテューポーンの勝利、2戦目は無常の果実の効果で1度もジャンケンに勝てず負け。


「今度は神器も残ってねえし、あんな被害は出ねえんじゃね?」


「そうなのだよ、雷霆も……と言うか神器が何一つ残っとらん。お気に入りだったフェラガモの財布すらも……」


『それはゼウスが悪い。』


 皆に口を揃えて悪いと言われたゼウス。


「ちゃんと話しときゃな。王権とかじゃなくて数人の人間だけ連れて行きたいって聞いたら、許してただろ?」


「せやせや。王権も貸し剥がした後やってんから。」


「嫁に怒られて冷静な判断が出来なくなってたのは分かるけどさ。アレはやり過ぎだろ? 流石に俺もビビったよ……ってそう言えばハデっちゃんの可愛い嫁はどうした?」


 テューポーンが何かに気付いたようだ……


「そう言えば、何時もならゼウスが来たら、おとぅさまぁ〜とか言って飛び出して来るのに。」


「だよな。他の娘には女関係の事で毛虫以下の扱い受けてんのに、ペルちゃんだけ不思議だよな。」


「まぁ……嫁はええやんか、そっとしといてくれへんか……」


 嫁大好きハーデスがそんな事を言うものだから、3人の神は気付いたようだ。


「なあハデっちゃん……もしかしてペルちゃんって……」「台所とかに立ってないよな?」「すまん兄上、嫁入り前に料理修行くらいさせとくべきだった。」


 3人から目を逸らすハーデス……


「なあ、そこに置いてある靴ってアクアソックだよな?ポセ丼も来てんだろ?どこ行った?」


「叔父上、どんぶりっぽく呼んでやるな。流石に小兄ちぃにいちゃんが可哀想だ。」


「だって、ポセイ殿どんって呼んだら西郷せご殿どんみたく呼ばないでくれって言われたんだもん。な〜ロキ。」


「ポセイドン殿どんって呼ぶのも変だろ?」


 2階の住居スペースのトイレを見上げるハーデスなのだが、申し訳そうな顔になって……


「おとぅさまが来るなら、心を込めた手料理をとか言い出してん。ポセの奴は味見させられて2階のトイレで死にかけとるわ……」


「ちょっと待て!俺達にも食わせるつもりじゃねえだろな!嫌だぞ!嫌だぞ!絶対嫌だぞ!」


 3回目に絶対と言ったからフリなのだろうか?


「食べられる物を使って作った料理がダークマターに変化するなんて、どんなメシマズ嫁だよ。ダークマターなんか食ったら死にそうなくらい酷い下痢になるじゃん。」


 昔テューポーンが下痢になって野糞をしていたのは、ペルセポネーの手料理を食べたからだったりする。


「大丈夫や、慣れたら何とかなんねん。今じゃ少しゆるくなるくらいにワシはなっとるし……」


 ドン引きしているのだが……


「おい!マルト。前に残しとけって言ってたみずみずしい世界樹の葉って残してるよな?あれを刻んでお好み焼きに混ぜたら何とかなる。」


「おお!みずみずしい世界樹の葉か!それはいい考えだポンちゃん。」


「何と、ここに居られる御方はそのような希少な物まで所持しておられるのか。先程から挨拶もせずに放置してすまぬ。初めてお目に掛かる、オリュンポス・ゼウスである。宜しく頼む。」


「これはこれは御丁寧に。パンツノ・丸兎の尊と申します。」


 名前を聞いて驚くゼウスなのだが。


「まさかこれ程の癒しの権能を持つ神が味方をしていると知っていたら、話し合いから始めていたものを。マルト殿、貴方ともっと早くに知り合えなかった事が今回の誤解を招いたのだ、許して頂きたい。」


「お初じゃねえだろが。まあ気付いて無いのは知ってたけどさ。それよりあるんだろ?世界樹の葉。」


「それが〜……ハーデス……言っても良いですか?」


 お前も特級神になったんだから名前で呼び合おうぜ、と言われて無理矢理名前で呼ばされているマルトさん、入って来てから存在感をずっと消していた。


 そして更に遠くを見るハーデスなのだが……自分から白状するようだ。


「アレは既に私の腹の中だ……」


 冥界の主に戻ったようだ……キリッとしている。


「ひでえ!ハデっちゃんひでえ!俺達を毒殺するつもりか!」


「そうだそうだ!前に食べた時は酷い目にあったんだからな。ケツが混沌カオスに戻った気がしたぜ。」


「すまぬ、うちの娘が……」


 そんなやり取りの中で、小さくなってるマルトさん。自分の社の裏で栽培してますよと教えるまで、ずっとテューポーン、ロキ、ゼウス、ハーデスの、誰が食べるかの擦り付け合いに巻き込まれていて。


「アイタタた。胃が胃が痛いです……」


 そんな事を呟いていた。




 貸切の時間も終わりに近付いて来たら、テューポーンがニコニコしながらゼウスに話し掛けている。


「なあゼウス。今度もカードで眷属にする生き物を決めんのか?」


「今となっては間違いだと思わされるな。私ももふもふしたい。確かに人間も良いが……特に美人は。」


「やめとけって、他の生き物を巻き込むなってポンちゃん、ゼウス。」


「そうやね、再戦するんやったら何もおらへん無の空間でやってきたらええねん。めっちゃ迷惑やわ。」


 どうやらカードに書いてある事縛りで勝負していたようだ。


「再戦は当分お預けかな。ニノの奴がなんか楽しそうな事を始めそうじゃん?」


「ああ、あの御仁にも謝罪しておかねばならんな。」


「国の所のダンジョンと一緒になって巨大複合レジャーランドだったっけ?国の所のヘッドスパって気持ちいいんだよな。俺ってロン毛だから根元まで綺麗に洗うのめんどくさくてな。」


「せやから短髪がええねんや。ロン毛のトラックドライバーとか見た目あかんやん。」


 そんな事が話題になっているのだが……結局ペルセポネーの料理は完成せず、ポセイドンにも会うことも無く集まりは終わる事になるのだが……


(私って、なんで家族の食事会に呼ばれたんでしょうね……アイタタた……胃が……胃が痛いです……)


 マルトさんの頭髪は、とあるギフトのおかげでフサフサになっている。


 頑張れマルトさん。

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