おっさん家!


 空を見る聖域中の生き物達にもニノの叫び声は聞こえた。もちろん、ニノの家に避難していたルイ16世一家にも。


「どうなったのだ!ニノの声が!」


 鬼さん達の歌う声をかき消してしまう程のニノの叫び声だったのだが、耳がキーーーンとなることも無くて。

ルイ16世が空を見ても、青空を覆い隠すガンモ雲に覆われて何が起きているのか分からない。


 宇宙から見ている3人には……


「なんだありゃ……雑草?」「雑草だな……ペンペン草だろうな……」


 祟り神の最後に残った物は、それまでの肥大化した生物でも、枯れた植物でも、腐った微生物でもない。人間でも無ければ化け物でもない、たった1本の小さなペンペン草。


「アイツよ、俺の言うことなんて全く聞いちゃくれなかったんだ。俺がいくら言っても俺の方に根を伸ばしてきてな。」


 唖然としているロキとハーデス。


「おかしいと思っていたのだ、貯まるはずの無い解脱ポイントが貯まっている事が。神を助けたなら納得だ。」


「だな、納得だよ。ポンちゃんの細胞や権能混じりの腐った無常の果実を食って爆散しねえはずだよ。」


 岩と土と火山灰だけだったエトナ火山に、たった1本だけ生えていたペンペン草。それがニノの最初に体験した一生。


「だよなぁ。ポンちゃんが人神を部下にする訳無いよなあ。そう言うルールなんだし。」


「そゆこと。アイツは、無常の果実に全身を侵されて、雷霆で縫い止められてた俺の体から栄養を吸っちまったんだ。果実の効果と雷霆の効果も一緒にな。」


「だから人間の時に食べても生きていられたのか、耐性と言う奴だな?」


「あれ程の数の神器に纏わせた雷霆の直撃を喰らって、消滅しないからおかしいと思ってたんだよ。慣れって怖いな……」


「転生を繰り返して、様々な死因に耐性を付けていたのも、ここに繋がるのか……」


 そんな会話をする3人のタブレットにメールが届く。


「おっ!キタキタ。どんな感じだろ……」


 メールを開いたロキだったが……呆れ果てている。



 三千世界に新しい世界が誕生しました。


所在地 パンツノ惑星から惑星カラフルを含む宙域


世界のテーマ 共生


所属神


最高神 

守護神 パンツノ・ニノ 


主神

治癒神 ガンモ 観察神 丸兎の尊 蟲神 カン 睡眠神 ゴン 料理神 アオ 木神 ナメッコ 魔神 東郷和真 建設神 安西隆文 大地神 白虎 天空神 朱雀 北海神 玄武 南海神 青龍 野菜神 チシャ 細工神 ドルトムント 鍛冶神ゴスペル 木工神 アントニウス 裁縫神 ベニ 天弓神 エメリー 地弓神 コリンナ 酒造神 アルト キノコ博士 アカ 筋肉神 クロ 演舞神 ハク 歌謡神 チャ 魔法神 パン 石工神 エンジ 臆病神 アイ 走狗神 スイ 機械神 トルスサヒ …………………………


 通常のメールでは表示しきれない程の主神の多さに。

ハーデスの見た神は更に多く…………中級や下級に至っては……


「やべ、読み込めなくてタブレットがフリーズしちゃった、どんだけ神が生まれたんだよww」


「途中まで読み込めたが……やはり億は超えているな……ロキ……ゲームアプリの入れ過ぎじゃないのか?」


 どうやらハーデスのタブレットもフリーズしたようだ。


「見てみろよ、弱肉強食の螺旋がズタボロに引き千切られて、世界の摂理テーマが変わっちまった。共生だってよ。」


 テューポーンの興味は世界のテーマ。


「微生物まで神になっていたぞ……どうするんだ?ポンおじ。」


「新世界の誕生にどっぷり関わったんだからそうだろうよ。これぞ正しく新世界誕生の瞬間ってやつだな。」


「あっポンちゃん、それは俺も聞きたい。自分の主星の近くに新しい独立した世界が出来て、しかも多ければ兆、少なく見積もっても数千億は神が住む、惑星2つくらいの範囲に凝縮された世界だぜ?ポンちゃんでも危なく無いか?」


 戦いになる事を危惧するロキだが。


「何言ってんだよ、新世界だけど恒星なんて1個も無いじゃん。だから大丈夫だって、太陽を俺に依存してんだからさ。それに、攻めてきたら主星ごと移動すっから、そしたら生き物なんて絶滅だろ?アイツはしないさ。」


 あ〜確かに、なんて言うロキ。叔父の言葉に安心してニコニコしだすハーデス。


「まっ、見るもん見たし、ハデっちゃんの店でタコ焼きパーティーでもしようぜ。新世界の誕生祝いにさ。もう見てなくても大丈夫だろ?」


「だな、久々に働いたら腹減ったや。俺のタコ焼きはタコ無しでね。」


 テューポーンもロキもベジタリアンだったりする。


「そう言えば……ポンおじ。新世界の最高神になれば、惑星の名前は自由に変えられると教えてやらんのか?」


「30億年くらいしたら、クロノス兄ちゃんが復活するし、そん時に兄ちゃんに勝てたら教えてやるよ。」


「おお!クロノスも30億年くらいで復活すんのか、楽しみだな。」


 楽しそうにワイワイしながらロキのトラックに乗って3人の神は地球に帰って行った。





 三千世界のタブレットを持つ神々に新世界の誕生を告げるメールが届く直前、ペンペン草を前にしたガンモとマルトさんは……


「これがニノ?う〜ん……マーキングしたい。」


「たぶんニノさんなんですよね?癒してみましょうか。」


 2人が発動した僅かに力を込めた癒しだったのだが……


 2人とも走り疲れていたから、合体癒し魔法になってしまった。


 そして、雲が割れる……



 雲が割れて差し込んで来る光が幻想的ではあるが、聖域に居る者達の興味は星神がどうなったか?それだけである。


 もちろん最初に見つけたのはカンタ君なんだが……


「やべ!ゲーム入れすぎててメール開けない……フリーズしちゃった……」


 仕方ないから上を見たようだ。まだ新世界の誕生に気付いていない。


「あちゃーニノにい、それはダメだよ。日本だったら捕まるレベルだよ。まあ最後の詰めが甘いのもニノにいらしいっちゃらしいのかな?」


 カンタ君の目に映るのは……全ての祟を浄化されて、初期アバターに戻ったニノなのだが……


「でもさあ、気絶したまま裸で落ちて来るのは分かるよ……あんな膨れ上がってたんだから、服は破けちゃったんだろうしさ。」


 地球から持ち込んだ服だったから世界の壁が仕事したんだと思われる。とりあえずニノは裸らしい。


「それにしても、落ちてきかたってのがあるじゃん……なんでフルチンなのにうつ伏せに落ちて来るんだよ。丸見えじゃん!平均サイズのニノにいが丸見えだよ……」


 ニノを許して下さい皆さん。それは仕方ないのだ、背中には走り疲れた猫と兎が座っているから。星神の背中を座布団代わりにして。


「ガンモ君。せめて何か布を巻かないと……このままじゃニノさんのフルチン姿が聖域中のさらし者に……」


「僕もウサギさんも裸だよ。ニノも裸で大丈夫。」


 猫だけに……兎だけに……そんな事を言っている場合じゃない。なぜなら子供も居るから。

ジョゼフ君とかシャルル君とか……モモちゃんもだし、リョクちゃんとかオウちゃんとかミドリ君とかコクちゃんとかギン君とか……ソフィーちゃんとか。


「え〜と……確か羽衣があったはず。」


 マルトさんは、あんまりスキルやギフトを持ってないから、タブレット操作をしなくても普通に自分の習得スキルや特技は発動出来たりする、使い慣れてるから。

だから普通にインベントリを開いて、異界渡りの羽衣を取り出してニノの腰に巻き付けた……タブレットを使っていれば現状を把握出来ていたのに。


 風呂上がりにバスタオル1枚巻いて出てきた、おっさんスタイルの出来上がりである。


「これで全裸は回避できました。ニノさんの言う通りですね。布がコレしかなかったら巻きますね……以前は怒って申し訳ない。」


 未だに目覚めないニノには聞こえていない。


 落下して来るニノを遠巻きに見守る聖域の生き物達。

その生き物達を掻き分けてルイ16世が走る。


 落下して来るニノを受け止める為に。


 聖域の生き物達は分かっていた、だから動かなかった。

浮くスキルを使いっぱなしだったと言う事を分かっていたのだ。


 なので地上に墜落する直前にニノは5cm浮いている。


 地面に近付いた段階で、ガンモとマルトさんはニノの背中から降りたのだが……

ガンモは逃げ出し、マルトさんは少し離れて焦っている。


 何故なら……


 ニノの元に、涙と鼻水で顔を濡らしながら、マッチョなおっさんが腰にバスタオルを巻いて走って来たから……

それも仕方ない、すっぽんぽんでカンタ君に家に放り込まれたのである。上手に着地出来なくて死に掛けたが、神の家に付与してあるガンモの継続癒し魔法で超回復したルイ16世。


 全裸だったせいで、純血を守っていた妹に変態と叫ばれ、キン〇マを蹴られそうになり、可哀想に思った友に差し出された羽衣をバスタオル代わりに腰に巻いて走って来たのだから。


「うわあ……マッチョなバスタオルいっちょの白人さんと、イケメンでバスタオルいっちょの白人さんが……」


 近くで見ているマルトさんもドン引きである。


「なんかダメなモノを見てる気がするよオイラ……」


 ニノを抱き締めて、名前を呼んでいる。


「ニノ!起きろ……私だ、ルイだ。」


 ルイ16世が大声で叫んだら……


「我が王……どうなりました?」


 目を覚ましたニノ……


 感動のシーンなのだが、大切だからもう一度言う。

2人共、風呂上がりにバスタオルいっちょ腰に巻いてリビングに出て来たおっさんスタイルである。


「ここはもうフランスでは無いのだろ?それなら私は王じゃないさ。ただのルイ・カペーだ。王などと呼ぶでない。ありがとうニノ、必ず来ると信じていたぞ。だいぶ前にマリーから聞いていたからな。」


「なんだ……知ってたのですか……」


 遠巻きに見たり、絵になったりしたら、神話の1ページに見えそうな感じだが……2人とも半裸のおっさんである。



「さあ!皆の者。宴の時間だ!宴の用意だ。」


「だなナメッコ。防衛戦成功!死者0だし怪我した奴は全員治療済だし、最高の結果だな。宴に参加しない奴は解散。」


 そして、他のルイ16世一家の中でニノの元へ走って来る者が1人。


 マダム・エリザベートなのだが……


「どけやゴラァ!」と叫びながら豪快なドロップキックを兄に食らわして吹き飛ばした後に……


「ニノ!私と結婚するか、私に殺されるか選びなさい。」


 そんな事を叫んだとかなんとか。




 その後の宴では、再会を祝う者、婚約を祝福する者、防衛戦の成功を祝う者、暴れられた開放感に酔いしれる者、色々な理由で宴に参加している。数年に渡りため込んでいた食料も酒も大放出である。


 今は笑顔になってはいるけど、聖域に生きる者達は様々な辛い事を体験してるし、これからもパンツノ惑星には色々辛い事もあるけど。


 パンツノ惑星の聖域の、おっさん家は今日もソコソコ平和です。




              おしまい



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