若竹一族と丸兎の尊



 ガンモとマルトさんのやり取りを見ていたロキとハーデスは、何故に木っ端神のマルトさんの言うことにガンモが従うのかが不思議だった。


「やっぱり動物同士で通じ合うもんがあんのかな?」


「それは分からん、不思議な事もあるもんだ。」


 聞いていたテューポーンは驚いた顔をしている。


「はあ?さっき鑑定したんじゃ無かったのか?ほら服やらヘルメットやらの時にさ。」


 マルトさんの事である。実を言うとマルトさん自身も、見たら悲しくなるステータスなのでタブレットを貰った日に確認しただけで、それからから1度も見ていないし、ニノも一度も鑑定した事が無かったりする。


「ん?木っ端神なんか鑑定する価値も無いだろ?」


「まて……ロキ、見てみろ。」


 ハーデスに見てみろと言われたロキがガンモを引き連れて走るマルトさんを鑑定したら……


「まじっ? うっそだー……そりゃ知らんかった。」


 ハーデスやロキの目に映った鑑定結果は両者同じ。



 トト=丸兎の尊


種族 兎神

属性 光 土

眷属 若竹黒芽彦 若竹冬華姫 若竹若芽彦=ガンモ

所持神器 異界渡りの羽衣 大島紬 桃色の花柄ヘルメット 白いパ〇ソル

概要 18世紀初頭から21世紀前半に掛けて、日ノ本の関東地方の秘境の道祖神を勤め上げ、2019年の神在月に土地神に昇格した兎神。

田崎 和信という名の20世紀後半から21世紀前半を生きた人間も半眷属であったが、死して解脱した際に半眷属から独立してしまう。

権能 見る 聞く 走る 癒す

特徴 丸々と太った茶色の毛の兎、少し小汚い。

特技 司会進行 即興ダジャレ

備考 現在はオリュンポスの神と交戦中。



「まったくよう、俺のお気に入りだぜ。ちゃんと見とけよな。」


「そりゃ従う訳だし仲が良い訳だ。マジかよww」


「叔父上が……気を掛けて良くしてやる訳だ……そうだな若竹の猫又一族はアイツの眷属だったんだな。」


 ニノが星神になった時のメールに眷属無しと書かれていたのも、ニノが自分のステータスを確認した時に眷属の項目が無かったのも、神の眷属になった時点で猫又だった事も、若竹の猫又一家はマルトさんの眷属だからである。


 マルトさんがニノに向かって眷属になさったのですね?と問い掛けた理由は、ガンモの神格が格上過ぎて、名前以外の項目は種族と権能しか見えなかったから。


 眷属が居るのにマルトさんが消え掛けていた理由なのだが……猫だもん、祈ったりしないから仕方ない。


 にゃん族の祈りは、スキルだし……呪いだし。


「だけど兎も羽衣持ってんじゃん。いつの間に?」


「ああ、ルン〇包んでた奴だろ?作ろうと思えば、これから先は量産出来るぜ。だって髪の毛なんて伸ばし放題だもん。」


「1枚貰えないだろうかポンおじ。欲しかったんだ、妻に土産を包むのに。」


 そんな話をしている3人の神だが。


「さあ、こっから先は見逃し厳禁だぜ。なんつったって……俺たち古いにしえからの特級神でも滅多に見られ無いショーだからな。」


 そう言った目線の先にには……



「ガンモ君!最初は田崎和信です!順に行きますよ!」「うん!兎さん。何時でもいいよ!」


 マルトさんとガンモの追いかけっこである。

祟り神から滴り落ちる腐汁はガンモの尾からほとばしる癒し成分に癒されて、次から次へと綺麗な神気に変わって行く。


「ここです!」「うん!」


 最初にガンモが癒しを込めた爪で切ったのは田崎和信の変質した祟り。人間には見えない程に醜く膨れ上がり、どす黒く腫れ上がったそれが、ガンモの爪で引き裂かれ浄化される。


「次は……チンパンジー……あっちです!それが終わったら……」


 マルトさんの目には正しい道筋が、正解へ至る1本の道筋が見えている。

雨のように降り注ぐ祟りや呪いを避けて、ニノが辿って来た解脱の道を遡り。後ろを走るガンモが、次から次へと過去にニノが体験した生き物達を切り裂いて癒して行く。


「ひょーやるじゃんマルトっち。木っ端神だからって馬鹿に出来ねえな。」


「そうよね。もう終わるわ。」


「僕はお昼寝に帰っていい?」


「ええ、ゴン。ゆっくりおやすみなさい。」


 ゴンが何時ものサイズに戻り雑草ハウスへと歩き出し、玉藻御前が青い粒子から元の白狐へと戻って行く。


「あちゃー。1番いい所持ってかれたな。オイラがヒーローかと思ってたけど……MVPを決めるなら……」


「もちろん私よね、カンタ?」


 もう誰も祟の事を気にしていない。皆が皆、空を見上げている。


「やっぱりパパさん!カッコイイー!」「結界は解いて良さそうだな。」「エルフ、お主らもやるもんだの。」「疲れたー、なんとか魔石足りて良かった。」「ほんとにギリギリ。あと3個しか残ってない。」「示芽慈、お疲れ様だな。」「さあ鬼共、最後の歌だ声を上げよ」


 鬼達が歌うのは賛美歌。3人の踊る巫女姫を中心に据えて、周りを囲み歌い始める。


 1つ1つと解かれていく、祟や呪いを振り撒く神に向かう兎と猫を讃える為に。



 ガンモやマルトさんが祟り神の体を浄化して行く中で、波〇砲の衝撃のせいだろうか、徐々に祟り神の打ち上がる速度が緩んでくる。


「ガンモ君。次はゴキブリですが、先に向こう側です。そっちの大きいのは後回しです。」


「分かったよウサギさん。こっちのは後回し。」


 次から次に浄化されて行く祟り神は徐々に徐々に大きさも小さくなりながら、成層圏を超える直前に重力に引かれ落ち始める。


「さあ、ガンモ君。そろそろ金鬼ですよ、爪は大丈夫ですか?」


「もちろん、全然大丈夫だよ。爪が折れてもすぐ治るもん。」


 金ピカだったはずなのだが、ドドメ色をしている膨れ上がった金鬼を軽々と切り裂くガンモの爪。


「次は反対側に回らねばなりません!少し迂回しますよ。離れないように!」


 マルトさんの指示は的確で、例え神気が足りなくなってもパンツノ惑星に漂う大量の神気が直ぐに補充され、目が疲れても瞬時にガンモの波動で癒される。


 そんな兎と猫の追いかけっこなのだが……


「見てみろよロキ、ハデっちゃん。どんどん切れてくぜ真理って奴がよ。」


「やべえな。真理眼で見たらやべえなこりゃ。」


「摂理の螺旋が千切れて行ってるのは分かるが……」


 3人が見ているのは、兎と猫の追いかけっこでは無い。真理を見通す真理眼でパンツノ惑星その物を見ている。


「すげえな。新しい摂理の世界が誕生する瞬間だ。滅多に見れるもんじゃねえ。」


「千切れて行く弱肉強食の螺旋か……」


「ロキでも母ちゃんでもクロノス兄ちゃんでも断ち切れなかった弱肉強食の螺旋がズタボロになってら……」


 過去にどれだけの神が思案したのだろうか、戦わずに生きれる世界を。戦うことを止められる世界を。


 そんな新世界が三千世界で初めて誕生するのである。


「未来眼も重ねて見ろよ。もう見えるぜポンちゃんハーデス。」


 3人の神は大笑いである。なぜなら。


「すげえ数じゃねえか。八百万やおよろずどころじゃねえぞ。」


「どれだけ居るのだ? 数えるのも億劫になる。」


「兆を超えてんじゃね?微生物とかまで……」


 次から次に癒されるニノ、未だに意識は戻らないが確実に祟は小さな物へと変わって行く。


「さあガンモ君!大きい方のゴキブリです!その後は隣に居るオオカミです。一気に引き裂いてやって下さい。」


「ウサギさん、ニノがいた!ニノが見えた!」


 どれだけ空を駆けたのだろうか、ガンモ雲が空を覆い尽くそうとしている時に、ついに見えてくるニノアバター。


「もっと後です。カニ、エビ、ザリガニの順です。ガンモ君、少し下に避けて。」


 襲い掛かる祟りは、マルトさん見る権能で抜け道を見つけられてしまう。後ろから着いて来るガンモは聞く権能で動きを把握されている。普通の猫サイズのガンモの走るスピードと同じくらいの兎姿のマルトさん、見る聞く走るの権能は伊達じゃない。


「ウサギさん、次は……次はどこ?」


「いよいよですよ……イノシシが終わったら……」


 ニノが転生修練を開始した時はイノシシだったはず、だが……


「変です……イノシシの次はニノさんの初期アバターですが……もう一体……」


 マルトさんにも見えない何かが潜んでいる。


「行きますよ!次が今のニノさんの初期アバターです。ガンモ君前に!突っ込んで下さい。」


「うん!分かった!」


 イノシシをすれ違いざまに切り裂いて、マルトさんを追い越したガンモ。これまでは全て爪に癒しの力を込めていたものが……牙に宿って……


「ニノ!何処に行くつもりだよう。僕は言ったよね!次に僕を置いて何日も居なくなったらかかじってやるって!置いて行くつもりだっただろ!」


 ガンモは怒っている。とにかく怒っている。


 そんなガンモの牙が……肥大化して赤黒く腫れ上がったニノの目を……


 噛んで齧って引っ掻いて、そんな事をするもんだから。


「何をするガンモっ!目がぁ目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 意識が戻ったのか? それとも言い慣れていたからか? 肥大化して赤黒く腫れ上がったニノが、惑星中に響き渡る声で叫んだ。


「ガンモ君まだです。まだなんです。あと1つ残って…………」


 ニノだった祟り神の殆どが浄化されて、残っていたのは……


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