ヒーローは遅れてやって来る


 離れてと言われて、離れるわけが無い。巻き込むと言われても、もう巻き込まれている。


 そんなマルトさん……なのだが。


「白い月ですよね?白い月に入るんですよね!私もついて行きます。ニノさんが元通りになるまで癒して差し上げますとも!私の産まれ持った権能は癒しですから!」


 そんな事を叫ぶ。


「マルトっち、よく言った。見たぜ、お前の覚悟。」


「まるどざんにば……ほんどじがなわないなぁ……よろじぐだのむよがんだぐん……」


 ここまで巻き込まれたのだ、今更地球に帰ってもオリュンポスの神々に狙われる事は間違いないのである。覚悟は決まっているようだ。


「行きましょうニノさん!お願いしますカンタ様!うわっ!なんです!何んですかこれっ!」


 それまでマルトさんの体には覆い被さないように必死にニノが抑えていた肥大して腐った触腕達がマルトさんを飲み込む。


「なんですかこ……れ……」


 そして……


「ペッ………………がみのおじ……あじがどうごさぃまじたまるどざん……」


 ニノの口から吐き出されるマルトさん、吐き出されると同時にニノの発動した神の檻に閉じ込められてしまう。


「うん。それでこそニノにいだ。いつかまたな。」


 なんですか!何してんですか!と飛ばされながらマルトさんが叫ぶのだが、ゼウスの放った最後の雷霆がニノだった物に突き刺さり、微かに残っていた意識も全て粉砕されてしまう。


「ニノさん!ニノさん!何してんですか!何してくれてるんですか!こんな時まで遠慮なんてしないでください!何してんですか!出して下さい!」


 もう何も聞こえてはいない。


「ニノにい、帰ってくるまで責任持ってパンツノ惑星はオイラが預かるよ。安心して無に帰りなな……」


 地上では降り注ぐ祟りに悪戦苦闘している生き物達、雷霆本体を飲み込み更に膨れ上がる祟り神。


 檻に閉じ込められて叫び続けるマルトさん、そして……


「バイバイ。どっせいっ!」


 ゼウスと白い月が一直線上に重なっている、今この時を狙って、ニノだった物を宇宙そらへとカンタ君が打ち上げる。


 ゆっくりとゆっくりと空に打ち上げられた祟りが、ロケットの打ち上げの時のように、少しずつ少しずつ速度を上げて上って行く。




「ぬう!まだ足りぬ……足りなかったか!」


 出せる全てを出し切ったのだが、消滅まではさせられなかった、しかし完全に祟り神へと変質させる事が出来たゼウスは……


「ぐぬぬ。界渡りすら出来ぬか……神気が回復するまでは走るしか無いな……。」


 自分に向かって速度上げる祟り神を見て走り出す、牡羊の姿になって……




「見てみろよロキ、ハデっちゃん。またゼウスのやつ羊になって逃げてやんの。」


「相変わらずだな。」「あれはあれで癒しだと思うのだが。」


 それを見ている3人なのだが。


「なあ、今回の記念にさ……俺の銀河に負け羊座って星座でも作ってやろうか?逃げ羊座の方が良いかな?」


 テューポーンがそんな事を言うと……


「エロ羊座の方がよくね?ゼウスってさ……変態羊座じゃ呼びにくいし……」


 ロキが更に酷い被せをして……


「ロキ、ポンおじ。弟を虐めてやるな。アレが目の前に迫ればロキもポンおじも逃げるだろ?」


 ハーデスがフォローする。


 既にロキは配達員の格好に戻ってロン毛のイケメンに。

テューポーンも神気を抑えて今までのようにあやふやな存在に。

ハーデスはまだ冥王として動いてはいるが、どちらかと言えば弟を助けようとしている。


 なんでこの3人が余裕なのかと言うと……



「なあ!なんで休んでんだよ!まだ祟は降り注いでんだろ!示芽慈!白虎!まだ気を抜くな。」


 カンタ君が叫んだのはシメジにだけじゃない。

聖域中の回復役をしていた猫系の生き物達がシメジもハルちゃんも、にゃん族も猫又達も含めて、立ち止まって上を見ているから。


「大丈夫。もう大丈夫だよ。だってパパさんが来たもん。」「ガンモ君が居るなら大丈夫。」


 上を見続けている猫達が一斉に唸り出す。


 音にすると……

にゃーーーーごーーーー にゃーーーーーごーーーーー うーーにゃーーーーーー


 としか聞こえないのだが……


『ヒーローは遅れてやってくる!お迎えするぞ!若芽彦様のおかえりだー!』


 なんて叫んでいる。


 そう、ヒーローは遅れてやって来る。





 テューポーンに出番と言われて飛び出したガンモだが、神獣でも宇宙空間は自由自在に動けはしない。1歩目を踏み出した時は最高速度まで瞬時に達するつもりだったガンモだが、無重力状態では前に進むのがやっとの事だったのだが……


「ヒーローは遅れてやってくるですぞ!」「我々を踏み台に!」「さあ若芽様、憎きオリュンポスの神に見せ付けてやるのです。」「断じて我々は生体鉱山などでは無いのです。」「ド〇イYS、若芽様の踏み台に!」「繋がれ、繋がるのだ。」「我々1人1人を1つの生命体として扱って下さる主の為に。」


 カラフルに住む機械生命体、エクス族の作った道を最高速度で駆け抜ける。


「エネルギー充填率80%、核融合エンジン異常ありません。」「若芽様!こちらへ!」「エネルギー充填率90%、射出に問題ありません。」「さあ、喰らうが良いエクス族の長、最大の……」「エネルギー充填率100%、何時でも撃てます。」「波〇砲発射用意!」「エネルギー充填率120%、核融合エンジン限界です。」


   『3・2・1……発射!』


 ビグ〇ムタイプのエクス族の中に入ったガンモ、波〇砲に乗って祟り神化したニノへと向かい発射されてしまった。と言うか……アニメの元ネタが変わってんじゃんトルス・サヒさん……

艦長なのか?艦長にでもなったのか?


「ありがとう!行って来るよ!ガンモ、いきま〜す!」


 波動〇に乗って高速で射出されたガンモだったのだが。


「邪魔!そんな所に飛び出して来たら危ないよ!」


 途中で、後ろを見ながら走っていたゼウスを跳ねてしまう。


 4tトラックサイズのガンモは急に止まれない。



 それを見ていたテューポーンは……


「跳ねられてやんのww 後ろ見ながら走るからだよww」


 大爆笑しながら腹を抑えていて……


「アレは痛いぞ……てかゼウスのヤツ……クロノスのタブレット落として行きやがった。」


 ロキは落し物を見つけて……


「仕方ない、拾って私から返しておこう。」


 ハーデスは弟に優しかったりする。



 その頃の聖域では。


 ガンモを呼ぶ猫達、降り注ぐ祟を消滅させてゆく者達、神の家を守る者達、周りの者を鼓舞する者達、様々なのだが……


「なんでこんな時まで置いて行かれないといけないんですか!カンタ様、貴方なら破壊できますよね?出して下さい!」


 カンタ君の上に落ちた檻の中で叫ぶマルトさん。

ニノが最後の力を振り絞って作った檻だったのだが、不完全な檻は所々に穴が空きひび割れている。


「お前が行ってなんになるんだよ!ニノにいの気持ちも考えろ!」


 カンタ君なりの優しさだったのかもしれない、マルトさんを包む檻を破壊しなかったのは。


「私は……私やニノさんは、貴方たちの様な生まれながらの神とは違うんです。知ってますかカンタ様!解脱の道がどれほど厳しいか!知ってますかカンタ様、ニノさんがどれだけ苦労して来たか!私は諦めませんよ!諦めてたまるも……ん……あ……れ……」


 もうマルトさんには、アバターを維持するだけの体力が残っていなかった……茶色の毛の太った兎に戻ってしまう。


「なっ。お前が行っても無駄だよ……」


 カンタ君が空を見上げる。

未来眼で見た、原初神カオスに呑み込まれるニノだった物を見る為に。


「あれ?戯神に戻ってる……なんで?」


 見る事は苦手だから、ちゃんと見えてなかったりもする。


 そして、マルトさんは兎に戻った事で……


「空いてます……この姿なら通り抜けられそうです……」


 ひび割れていた檻の隙間から抜け出せそうな事に気付いた、だが……頭は通った、前足は通った……お腹が……通らない……太ってるから。


 ジタバタもがくマルトさん。後ろから見たらモコフワでジタバタするのが可愛かったりする。


「うーん……むー!んーーー!いけそう!ギリギリいけそう!」


 通った……そして、ニノだった物に向かい走り出すマルトさん。カンタ君が空を見上げている間に、手を伸ばしても届かない場所まで駆け上がる。


「ガンモ君、私が導きます!早くこちらへ。」


「うん。ウサギさん、ついて行くね!」


 波〇砲の威力に乗って、祟り神を突き抜けてマルトさんの元にたどり着いたガンモ。マルトさんと一緒にニノを癒す為に、癒し成分を最大限に撒き散らす。


 ガンモの溢れ出る癒し成分を吸収してマルトさんの目も使えるようになった。


「ガンモ君、何時ものサイズに戻って下さい、そのままではすり抜けられません!」


「分かったウサギさん!」


 丸々と太ったウサギを追い掛ける普通の猫サイズのガンモ、走った後にはニノの名付けたガンモ雲が流れる。



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