カレーを食べる時に


 魚谷さんの事は前話で話したけど、話し足りない……でも次の出来事に進む。


 キャブレターの話なんだけどさ。

まず令和で新品でラインナップされてるキャブレターについて。


「このキャブレターは分離給油方式になってません。つまり、オイルをガソリンに混ぜて混合ガソリンで使わないといけないキャブレターになってます。」


 2ストロークエンジン搭載車両が1990年代後半に新車市場から姿を消して20年くらい。新車で出るバイクの殆どが車と同じインジェクション方式に変わっていく中で、古いバイク乗り達は考えた。


「しかし、この部分にオイルを注油出来るニップルを付けてやると分離給油方式に変えることが出来ます。」


 無いなら穴を開けて、そこからオイルを流してやれば良いじゃない!カレーの時にライスが無ければナンを食べればいいじゃない!


 そう、それを今回はやる。


「今回使うキャブレターは私の故郷でもコピー品と言われている、粗悪品1歩手前の安物ですがまだまだ惑星パンツ製じゃ追い付けない精度が出ています。」


 今回の話に特に真剣なのは鋳型製造組・ローソンさん一家率いる弟子軍団と、アントニウスさん率いるエルフの木型作成軍団だ。


「ニノ様、口径をピッタリ同じ精度で仕上げる理由は分かっとる。しかしこの真鍮で出来た部品に空いとる小さくて正確な穴は手作業で行けるのか?」


 メインジェットやパイロットジェット等の真鍮部品の事だな。


「無理です。そこはハッキリ言って今の体のサイズじゃ無理です。でも皆さんに渡したスキルを覚えてません?」


「そうか!だから小さくなれるスキルオーブを渡されたのか!」


 結局の所、精密作業になる部品は小さくなって部品を加工すりゃ良いんじゃ無いか?なんて簡単に考えてみたんだよな。


 地球と違って、スキルや魔法のある世界なんだから使わないとだろ?


「わざわざ全てを地球あっちの真似をして作らなくても、私達なりの作り方で勝負しましょう。」


 髪の毛1本分位のサイズの穴を正確に同じ大きさで開けるのは難しいけど、それが1cmに見える程に体を縮めたら……簡単になるだろ?


「計測機器も小さい精密部品専用に作っちゃいましょう。皆で体を小さくして。その他の工作機械も含めて。」


 追い付けない部分の解決策を提案してみたら、皆が一気に動き出した。


「まずは小さくなった時に使う工具の製造からじゃ、鋳型組、鍛冶組、木工組、全員が協力せにゃならん。」


「あらあら。私達、女衆も忘れて貰っては困りますよ、椅子に敷く敷物や作業着も小さく作らないと。」


「それだけじゃないですね、建物も小さくしないと。普段の作業小屋じゃ歩き回るだけで疲れますよ。」


「ちゃんと立ち入り禁止の看板も立てないといけないんだぞぅ、気付かずに蹴り飛ばしたらダメなんだぞぅ。」


「その前に長さや大きさの単位を統一せにゃ。体をどれだけ縮めて何を基準にするかが規格を揃えるには大切じゃ。」


 うん、これなら皆をほったらかしても大丈夫そうだな。



 皆が議論をしてる会議室と言いたいけど、ニカラ村の大食堂を後にして、カンタ君とガンモを探しに来た。


「カンタ君、ちょっといいかな?」


 ちょっと前にカンタ君にお願いしといたんだ。外界を見てくるから少しだけ聖域の事をお願いってさ。


「ん?ニノにい。もう行くのか? ちゃんと若芽彦は連れて行きなよ。」


「もちろん、連れていくよ。何も無ければ良いけどね……。」


 この間ガンモが言ってたの声ってのが気になるんだ。


「野生の勘ってのは馬鹿に出来ないからな。若芽彦一家しか感知出来てないから、まだ大丈夫だとは思うんだけど、聖域の他の動物達が感知出来るようになったらヤバいかもだもんな。」


「直前になって右往左往するより、少しずつ潰して行った方が良いでしょ?」


 何が起きてるか分からないけど、怨嗟の声とか穏やかじゃないもんな。


「でもニノにい、無茶しちゃダメだよ。最悪ニノにいが星と繋がれば殆どの事は解決出来るんだから。」


「うん、手に余りそうだったら星と繋がるよ。」


 何が起きてるか見てくるだけのつもりだ。


「和真も来てるし、誘って行ったら? ニノにいは誰か見てないと危なっかしいんだもん。」


「うん、そうだね。東郷君の見た目も触覚さえ隠せば人間タイプだから、世界中回ってもバレなさそうだもんね。」


 和真と若芽彦が一緒なら大丈夫!聖域は任せて、なんてカンタ君が言ってくれたから任せよう。


「ガンモ〜!お仕事行くよ〜。」


 うにゃって言いながらガンモが肩に飛び乗ってきた。


 まずはアトラ大陸の江戸城からだな。




 ガンモを肩に乗せたまま江戸城前に転移してきたんだけど……なんか騒がしくない?


「ガンモ、降りて歩く? このまま乗ってる?」


 通常より少しだけ小さいサイズになったガンモが頭の上に乗って、額から生やしてる触覚で遊んでる……。


「乗ってる、だって降りたら囲まれるよ?」


 囲まれる?なにそれ?そう思って周りをよく見たら……


「うわ! めっちゃ沢山いる!」


 草むらや木の影に隠れて、たくさんの生き物達が遠巻きにこっちを見てる……


「やっぱり田崎さん……いや……ニノさんでしたか。」


「東郷君、何これ?なんでこんなに集まってるの?」


 気持ち悪いくらいに隠れて密集してる生き物達……。


「伝染病的な物が流行ってるみたいで、治療出来る僕の所に尋ねて来てるんですよ。」


 伝染病か……微生物さん達だな。


「うーん、ガンモが怨嗟の声って言ってたのはコレかな?」


 ガンモは聞いちゃいない、触覚の先に付けて動かしてる練り消しに夢中だ。止めると頭皮に爪を立てて動かせって文句を言ってくるんだ。


「それが……何回鑑定してもコレラとかペストって出るんですよ。しかも地球産コレラとか地球産ペストとか……ここって異世界ですよね?」


「もちろん惑星パンツだよ。地球産って事はこの間の違和感がこれかな?」


 先日感じた違和感。あれが宇宙の壁を超えて転移してきた物なら原因が白い月の奴らって事になる。


「違和感って?」


「惑星パンツを含む銀河と、地球がある天の川銀河の間には宇宙の壁ってのがあってね。それを超えると物理法則とか時間軸とか全く違う世界になっちゃうんだよ。それを許可無く超えると感知出来るようにして貰ってるんだけどね。」


 パンツァー様がちゃんと仕事しててくれてたみたいだ。


「人間サイズを召喚すると丸分かりだから、微生物サイズを召喚したのかもね。」


「それってヤバくないですか?ウイルスだと対処しようが無い気がするんですが?」


 それは全く問題ない。


「全然大丈夫。大腸菌とかピロリ菌とか、インフルエンザウイルスとかの微生物に何回もなってるし、話も出来るし、どの宿主に宿れば1番快適かも分かってるから、微生物さん達をちょっと説得するよ。」


 何百と繰り返した微生物としての前世が役に立ちそう……。


「神様になるって、大腸菌とかにもならないとなんですか?」


「う〜ん、俺の場合は罰だったんだよね。自殺した罰。」


 とりあえず、ここに居る生き物達に宿ってるウイルスさん達からどうにかするかな。


「各種族のウイルスの皆さん、代表の方を数体私の所に向かわせて貰えないですか? ちゃんとした宿主を紹介しますよ。」


 東郷君だと、惑星パンツの言語は全部理解出来てるだろうけど、地球の微生物語までは分からなかったみたいだ。


「どうしたんですか?急に金切り声を上げて。」


「ああ、地球の微生物語で代表者を出してくださいって言ったんだよ。」


 頭の上に乗ってるガンモが耳を伏せて爪を立てて抗議してきた。


「急に叫んだらビックリする!ちゃんと言って。」


「ガンモだっていきなり光るでしょ?」


「ニノいじわる!」


 頭皮にダメージを与えないで、禿げないけど少しだけ気になる年頃なんだから!


「ガンモごめん、ゆるしてえ〜。」


 ニコニコしながらガンモと戯れてたら、数体のウイルスさんがフワフワと漂いながら近付いてきた。


「ガンモ、ちょっとお仕事するから下りてて。東郷君、このスキルオーブ使って。」


 ガンモを下ろして、東郷君に地球圏微生物語のスキルオーブを渡した。





 どうやら全微生物さん達が、突然知らない世界に連れてこられたみたいだ。微生物さん達も相当焦って対応してない宿主に宿るしかなかったみたい。


「とりあえず、今説明した宿主さんに宿れば快適に過ごせますよ。引越した後は宿主さんを助けてあげてくださいね。」


 様々な微生物さん達に、宿っていい宿主を紹介したんだ。その後に、お引越しのお手伝いもね。


「ニノさんが神様みたいだ……。」


 東郷君失敬な!と思いながら東郷君を見たら。


「そんなに驚く事だった?なんで戦闘態勢なの?」


 ゴキブリの着ぐるみになってた。


「この鎧を装着してたら、病気とかにならないもんで。」


「凄いねそれ、どんな神器なの? 鑑定していい?」


 どうぞって言われて鑑定してみた。



 ト〇ボ学生服型高機動装甲


太陽神アポロ・天照大御神・夜と月の女神ルミナスの祝福を受けた3段階変形する高機動装甲の神器


興奮状態の度合いで3段階に変形する


通常形態・体温を適温に保ってくれる機能がメインです、汚れません


着ぐるみ形態・見た目と裏腹に衝撃や斬撃を完全に無効化します、病気にもなりません


悪のヒーロー形態・バーサク状態になれます、赤い筋がワンポイント




「何これ? とんでも性能じゃん。」


「ですよね。ちょっと前に追記されたのがあって、祝福って項目は最近まで見えなかったんですよ。」


 白い月に封じ込められてる神って、鑑定に出てた3柱も含まれてるのか?


「これはちょっとキツイかも……。」


「どうしたんです?キツイって何が?」


 そりゃね……


「太陽神アポロ、天照大御神、月の女神ルミナスを含む数体の神と、真正面からやり合わないとかもなんだよね……今の状態だとさ。」


 勝てるのかな?と言うかパンツァー様が言ってた一体なら余裕とか連携されたらキツイとか……


「太陽系の主神達が白い月に封印されてるみたいでさ……アイツらが東郷君とかを異世界こっちに召喚したらしくてね……。」


「僕に出来ることがあるなら、お手伝いしますよ!ゴキブリと融合なんて、とんでも無い事をしてくれたお返ししたいですから。」


「ん?ゴキブリって俺も2回なったけど、悪いもんじゃ無かったよ。」


 東郷君の目が、凄いジト目だった。


 ゴキブリの一生なんて、案外楽しいもんだったよ?人間が居ない地域に住んでた頃はね。





 聖域に何かあったら心配だから、ガンモを先に聖域に帰して、癒し魔法が得意な東郷君にお供をお願いした。


 蟲魔王の姿から東郷和真アバターに変化して貰ってアトラ大陸の案内を頼んだんだ。


 触覚が消えて、学生服を脱いで、現地の服に着替えたら、誰も魔王だと気付かないとか……少しだけ東郷君に同情してしまった。


「この時計を着けてると、普通の16歳ですもんね……。」


 身体能力も魔力も、普通の高校一年生だもんな。


「俺も触覚消したら、普通のオッサンだもんなあ……。」


 アトラ大陸の農夫が着てる一般的な服装だから、余計にオッサンな見た目なんだよ。


「人種の領域に微生物さん達って来てないみたいだね。」


「そうですね、動物や魔物に感染してるだけですもんね。」


 アトラ大陸全土を回るのに2日と言う強行軍だったけど、地球生まれの微生物さん達を適切な宿主の体に引越しして貰って、疫病の流行は抑えられた。


 ラスト大陸も天元大陸も蒼大陸も、微生物さん達は来てなかったみたいで一安心。


「だけどホントに腹が立つよ、連れて来るのは別に構わないけどさ、その後に放置とか何を考えてるんだろ。」


「確かにそうですよね、僕なんか手紙1枚だけ持ってて、後は放置でしたもん。綺麗な女神様と出会って、考えてる事が筒抜けなんてイベントすら無かったですし。」


 おっ!


「最初は布切れ1枚と手紙だけを握りしてめて、全裸だったんだよ俺って。東郷君なんか、服を着てただけマシだよ。」


 東郷君の目付きが、可哀想だなこの人って感じの目付きになってる。


「パンツすら履いてなかったから、掴んでた布切れを腰に巻いて、風呂上がりにバスタオル巻いてるオッサンスタイルだったんだよね、パンツ星に来て初日は。」


「自分の事を悲惨だなって思ってましたけど、ニノさんの方が悲惨ですね。」


 うん、確かにそう思う。


「東郷君なんか、モーブさんやタマオさんが居たでしょ? 俺なんか会話出来る生き物すら周りに居なくてさ、初日は流木と雑草を集めて、寝るための簡易テント作りからだったんだよね……懐かしいな。」


 雑談しながら色々と見て回ったけど、概ね大丈夫そうだった。聖域に帰りますか?って言われて、東郷君と2人で転移して帰宅した。




 家の横に設置してある、自動販売機の隣に転移してきたんだけど、帰ってきて直ぐに東郷君が俺の家の周りを見ながら呟いた。


「数年でここまで作り上げるなんて、僕には無理だろうな……」


 だからちゃんとアドバイスしといた。


「俺一人だったら自宅しか作って無かったよ。いつの間にか集まった沢山の生き物達が居たから、こんな感じになれたんだよ。」


 ガンモが居たから色々作ろうって思えたんだし、鬼さん達が来てくれたから色々やってみようってなったんだし、マルトさんのアドバイスが無かったら、ドワーフさん達も来てなかったんだろうし、隣人って大切だよなあ。


「1人だったら聖域に引き篭ってたんだろうけど、やっぱり外界も見て回った方が良いのかもね……神として生きるなら。」


「どうせなら地球みたく、沢山神様が居れば色々手を回せそうじゃないですか?」


 それは嫌だ。


「嫌だよ。地球の神様なんて、多すぎて全員の名前すら覚え切れないじゃん。」


「確かにそうですね。でも少しくらい居ても良いんじゃないですか?」


 う〜ん……。


「主義主張が違う神様なんて敵にしかなれないんだから要らないかな。」


「敵ですか?」


 地球の神話を色々読んで思ったんだ。


「直ぐに戦うでしょ神様って。しかも色んな種族を巻き込んでさ。嫌なんだよ争うのって。」


 戦争ばっかりしてるじゃん地球の神様達ってさ。


「出来るだけまったりと、のんびり生きて行きたいんだよね。競い合う事は良いけど争う事は無しでさ。」


 うん、良いこと言った。


 ドヤ顔しながら東郷君を見たら、さすが神様が考える事ですねって言ってくれた。


 カンタ君や鬼さん達なんか、俺がドヤ顔すると、まただよって顔をするのに。


 東郷君の反応が凄く新鮮に感じたよ。




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