リバースエンジニアリングと魚谷さん
日本から持ち込んだ工作機械のレストレーションも殆どが終わった。
だから皆に、もう一段階上を目指してもらおうと思ってる。
「さあ皆さん、ここからが本番ですよ。各種機会類を惑星パンツ産の素材で1から作りましょう。」
皆が数日掛けてサビ落としして、腐食してる部分を埋めて、使えない物は交換してって感じで、あと少しで全ての機械が動くって所で提案したんだ。
「ニノ様、全てを1から作るんか?ワシらドワーフが総力を上げても数年かかるぞい?」
「ええ、長い人生です。数年くらい使っちゃいましょうよ。」
今回は譲らない、だって日本の技術力に追い付きたいからさ。
「負けちゃって良いんですか? 今回持ち込んだ工作機械は私の故郷の50年以上前の技術力で作られた物ですよ。」
そう、今回持ち込んだ工作機械は殆どが昭和30〜40年製なんだ。
「それに、その機械を作ったのは人間です。ドワーフさんじゃありません。負けて良いんですか?人間の技術力に。」
鼻息荒くして、負けるかコラってドワーフ4人組がフガフガ言ってる。
「ニノ様、あんなにドワーフを煽ったら後が大変ですよ。大丈夫なんですか?色々と細かく質問攻めになると思いますが……。」
忠告ありがとうエンジさん。今回は聖域の人種皆で、試行錯誤しながら作るつもりだから大丈夫。
「木型を作る時は、エメリーさんの御両親も
「魔族の中にもドワーフ種が居るので、その辺に声を掛けてみるのも、よろしいかもしれませんね。」
ん?魔族の中のドワーフ種?なんだそれ?
「あれ?ドワーフって人種だけじゃないんですか?」
慈王君に、気になる事を言われた。
「聖域に来ている4人組は人種のドワーフですが、魔族のドワーフは大人になっても子供にしか見えない髭の無い種族ですよ。」
居るんだ、ロリ&ショタドワーフ……
「魔族と人種のドワーフの違いってそれだけなんでしょうか?」
ドルトさんがフガフガ鼻息を荒くしたまんま。
「
なんと!知らなかった。
「作れなさそうな大型の部品は細かく分けて削り出して、組み立て式にするつもりだったのに!リバースエンジニアリングが出来るじゃないですか!スカウトしてこないと!」
今ある物を型にして、再度鋳型を作るなんて言う特殊技術が使えるかもしれない!と思って興奮してたら。
「ニノにい!興奮し過ぎて神気がダバダバ漏れてる!」
ん?あらま。広場の周りの
「いやあ申し訳ない、難しい特殊技術なんですよリバースエンジニアリングって。出来るかもしれないと思ったら興奮してしまいました。」
そう、滅多にお目にかかれない技術なんだよ。
「そのリバースなんちゃらってのは、どんな技術なんじゃ?」
ゴッペさんが恐る恐る聞いてきた。すまん驚かせて。
「簡単には説明出来ませんから、夜ご飯の時にでも映像と共にお教えしますよ。」
エメリーさんが、父も連れてきますなんて言って自動販売機型転移装置の方にアカさんと2人で走って行った。
「長くなりそうなら、お酒も必要ですね。色々準備してきます。」
アルトさんが鬼の女衆を集めてお酒と宴の準備をしに行った。
「今回はグルテンミートの料理も最初から食べて貰えそうなので、腕によりを掛けて作ってきます。」
アオさんが料理を作りに向かおうとしたら、最近少しだけ積極的なモモちゃんが、後ろから着いて行った。それを慈王君が追いかけて行く……。
「ライ造さん、魔族のドワーフの代表者って連れて来る事は出来ますか?」
最近ずっと聖域で過ごしているライ造さんに聞いてみた。
「神に技術力を享受されて、後々披露できると言えば、酒をほおり出して……いや酒は握ったまま押し掛けて来ますよ。」
何処かで聞いたようなセリフだな……。
「連れて来て貰っても良いでしょうか?」
ライ造さんに聞いた瞬間、親指を立てていい笑顔で転移して行った。
「ニノにい、暴走しそうになったら若芽彦に噛み付いて貰うからな。」
「大丈夫カンタ君。外界もどうにかしたいと思ってる事のとっかかりだよ、今回のは。」
そうなのかな?って言いながら食堂の方にエアスクートで移動して行ったカンタ君……。
「それはサーキット専用! 普段は歩く。」
後ろからダッシュで追いかけて、頭を鷲掴みにして止めてやった。
「30cmくらい浮かして普段から使いたい。良いだろニノにい。」
「うーん、確かに。普段から乗れる乗り物って必要かもねえ。」
だろ?だろ!なんて言いながら、鷲掴みした手をすり抜けて食堂に向かって行ったカンタ君を見てたら。
「うん、普段から乗れる乗り物も作った方が良いな!」
ガンモに乗って移動なんてさせないぞカンタ君。
俺だって乗った事無いんだからな。
リバースエンジニアリングの説明会付き夜ご飯に、外界から魔族のドワーフさんと、エメリーさんの御両親も参加して貰った。宴会になるかな?と思ったら、皆が真剣に画像を見ながら議論を始めた。
「鋳型を既存の製品を元に作り出すのか! その考えは無かった。しかし鉄は痩せる、それを考慮して数十は試作を繰り返さないと。」
「あのような複雑な形の鋳物をお主らは作り出せると言うのか?」
ドルトさんの隣に座った、美少年に見える魔族のドワーフさん、鋳物関係の技術力は深淵の森で1番のドワーフさんで、名前はローソンさん……
ファミマさんとかも居るのかな?
「人間もやるもんだ。俺たちより短い人生だが、あんなに楽しそうにモノづくりが出来るってのは人間の才能かもしれんな。」
「木型は任せろ、砂型は全て任せる。ローソン、神に披露出来るぞ。我々が長年培ってきた技術が。」
エメリーさんのお父さんが、ローソンさんの肩を叩いている。
「アントニウス、ここは天国なのか? こんなに良質な魔力が漂うなんて、まさに神の国じゃないか。」
ローソンさんの言葉に全員が苦笑いしてる。
まあ、まだ自己紹介してないもんな。
「自己紹介した方が良いでしょうか?」
アオさんの近くに座ってた、アカさんとエメリーさんに聞いてみたら。
「我々の受けた衝撃を、彼にも……」
と言って親指を立てられた。
自己紹介の事は省く、だっていつも通りに五体投地されちゃったんだもん。
身長140cmにも満たない、美少年だけど3千歳を超えてるドワーフさんの五体投地の詳細なんて聞きたいか?
俺は聞きたくない。
「慈王様、俺はここで暮らす。嫁と子供も呼んで良いだろうか?」
ローソンさんが慈王君に許可を取ろうとしてるけど、それはダメ。
「ちょっと待ったローソンさん、通勤出来ません?転移門作りますから。」
惑星パンツ内の転移なら服も脱げないし、毎回銅貨1枚必要だけど、交通費として支給すれば良いんだし。
生き物を増やし過ぎて、俺の家の周りを開発し過ぎたらカンタ君になんて言われるか……。
「通勤出来るのか! ならば弟子を数人と家族も連れて来れるな。」
ある程度人数が居た方が良いかな……。
「ドルトさん、ゴッペさん、貴方達の身内も連れてきます?お弁当持参して貰えたら仙人化しませんし。お酒なんかも、もちろん持参になりますが、経費として支給しますよ?」
キラリと目が光ったのはアルトさん……
「ニノ様、まだまだ教えたい事が沢山あったんです。今すぐ連れてきます。」
さすが元高機動スナイパー……凄い速さで自動販売機に銅貨を投げ入れて、転移門を開いて出掛けて行った……。
「主よ、いよいよ本格的に神の手に世界を取り戻すのですな?」
アバターが欲しいと駄々を捏ねた最長老に、いつもお世話になってるからと、1つアバターをプレゼントしたんだけど、チシャ菜タイプのアルラウネアバターにしてくれって言われて作ってあげた。
世界樹の若木アバターって言うんだそうだ。
小さくなれるからって、最近は半日くらい俺の家の近くの地面に生えてたりする。
「本格的にどうこうも無く、少しずつですが、変えて行きたいんですよ。」
「主の思うままになされませい。我々は協力を惜しみませぬぞ。」
有難い事を言ってくれる最長老だけど、どう見ても見た目がチシャ菜……つまりレタスなんだよ。
「普段の仙桃の木の方が良くないですか?どうもそのアバターだと……。」
∑(๑º口º๑)フガッ!!って感じになった最長老……。
「どうせなら小さくなれるスキルあげますから、たぶん盆栽くらいに縮めますよ?」
森のエントやドライアドの分もお願いしますって言われた。
皆が楽しそうに工作機械やバイクの部品を作ってる中で、俺一人だけひたすらスキルオーブの作成をしてた。
ずっとガンモ一家が周りに居てくれたから寂しく無かったけどな。
「ニノ、なんか変なの。近くじゃない何処かが、なんか変なの。」
背中の毛を少し立ててるガンモから言われた。
「怨嗟の声がするの、まだ小さいけど少しずつ大きくなってきてるの。」
シメジとハルちゃんもソワソワしてる。
聖域はいつも通りの日常だから、外界になんかあったのかもな……。
スキルオーブ作りが終わったら、世界を見に行ってみるか。
ここ最近の作業は、日本から持ち込んだバイクの部品を、1つずつコピーして行く所まで来た。
まずは計測なんだけど、殆どの計測機器は日本製、そこは惜しまずにお金を使った。
「ダイヤルゲージっちゅう物モンは、キチガイの産物じゃのう、髪の毛の数十分の一程のブレまで計測出来るなどと感心を通り越して呆れてしまうわい。」
「マイクロメーターもデジタル計りもそうですよ。粉粒1つの重さを計れる、大きさを計れる、そんな事を考えた事もなかったですもの。」
確かに、目で見てある程度大きさが揃っていれば十分なんてのも分かるけどね。
「計測機器も芸術まで高めた技術力なんじゃのう。」
鬼さん達は、半分話に着いて来れない組と、興味津々組に別れてしまった。
「部品を作るより組み立てる方が我々は好きかもです。」
「作ったネジの、どれとどれを組み合わせても使える事が楽しいな。」
なんて言いながら組み立て組になっちゃった。
「まずはフレーム作りからですが、フレーム自体は1〜2mm程度の誤差があっても大丈夫です。一体型にせずに数個に分けてボルトで固定する作り方もありますが、どっちを採用しますか?」
殆どの部品を1度俺のバイクに組み込んで、実際に使えるか試してみたんだ。
そしたら数点ダメな部分があって、そこを作り直す作業と、大丈夫そうだから1度組み上げてみる部品に分けてみた。
「最初にニノ様が言うた弱点だったかのう、ピボットシャフトのフレーム側の固定するプレートをボックスタイプに変えてやるじゃったか?あれをやるなら組み立て式より一体型の方が良いかもしれん。」
RZの弱点だな、レースに出るようなRZは、後に出た後継機のRZRのようにフレーム側のピボット部分をプレートタイプからボックスタイプに補強している物が殆どだ。
「フレームの補強とやらも、ニノ様のバイクを使って色々試してみたいが、許されんのじゃろ?」
もちろん、俺の宝物アールゼットには手を付けさせてあげない。
「ええ、ダメです。私の持っているフレームは、日本あちらの様々なノウハウを元に、既に補強を入れている物ですから。」
色んなサイトを見て、どの部分にどんな補強を入れてるとか、色んなカスタム車両を見てどんな感じに収めてるとか自分なりに勉強して自分で入れた補強だから、触って欲しくない。
だから。
「言われると思って、書類なしの安いフレームを2本買ってきました。これを使いましょう。」
どちらもサビが酷かったし、登録書類が無くて1本7千円くらいで落札出来た、と言っても250のフレームだけどね。
350と250のフレームが共通なんて、エンジン載せ替えてパワーアップしなさいって言われてるみたいなもんだろ?
昔の走り屋さん達は、250の車体に350のエンジンを載せて峠を攻めてたらしい。
「しかしニノ様の言う通りじゃ、魚谷さんは凄いのう。純正と言うイグニッションコイルをコピーするのはなんとか出来そうじゃが、魚谷さんだけは無理じゃ。」
「CDIと魚谷さんは、私の方で用意しますね。この2つだけは、まだ作成は無理でしょうし、超えるのなんて不可能に近いでしょうから。」
ヤ〇オクに出品してある、個人で作ってる純正を元に少しだけ強化してあるCDI。
これは、1度純正がパンクした時に、予備を持ってたんだけど、何となく気になって購入したんだ。
そしたら凄いの、経年劣化で少しだけ点火不良を起こしてるなって感じが消え去った。
それからは、もう一個同じ物を購入して予備に置いてあった。
今回はそれを地球時間を1ヶ月ずらして10個落札してきた。
1度に頼んで怪しまれないようにね。20万円を超える出費だったけど後悔はしていない。
因みに、魚谷さんも同じ要領で購入した。
魚谷さんは、プラグコードとプラグキャップは別売りの汎用品、それだけでも12万円位の出費。
「私でさえ、最初に魚谷さんを取り付けた時は感動しましたから。」
そう、古いバイク乗りは感動するはず。
「冬の寒い日には、エンジンをかけるのに一苦労だったんですよ。」
キックスターターしか付いて無いバイク乗りなら分かるだろ?
「チョークを引っ張ってみたり、キャブクリーナーを軽く掛けてみたり、寒い冬の朝の1番嫌だった事が。」
冷え冷えの状態のエンジンがさ。
「キック1発始動したんです、あの時から魚谷さんの信者ですよ私は。」
神様だけど信じる物があっても良いだろ?
「汎用品と言う専用設計でも無い物で、あれ程苦しんだ冬の朝が快適になったんですもん。キャブをどれだけ調整しても朝の調子が悪かったバイクが、真冬の寒い朝から元気に走ってくれたら嬉しいなんてもんじゃ無かったですよ。」
いてっ!
「ちょっとガンモどうしたの!お尻痛い。」
ガンモにお尻を引っ掻かれた……。
「ニノにい、皆がドン引きしてる。」
「ニノ、興奮し過ぎ。皆が困ってる!」
やっちゃった……
最近さ、興奮すると神気がダダ漏れになっちゃうんだよな……。
興奮して神気が漏れると、人間タイプの皆が青ざめてるのに、植物タイプの皆は狂喜乱舞して。
「ヒャッハー!我らの主の新鮮なエーテルじゃあ、余すこと無く浴びまくるぞ!うひょー!」
なんて言いながら元気になっちゃうんだよな……。
アレ?俺って人間タイプの神様だよな?
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