美味しいカリカリは全部好きらしい
1番最初にやる事は旋盤の全バラからのサビ落としだ。
「まずは旋盤を修理しましょう。モータやチャック等は清掃だけで大丈夫でしょうが、他の部分はダメそうなら、サイズを計測した後に溶かして素材そのものに戻しましょう。」
既に水車小屋に設置してある旋盤からと言う事を疑問に思ったようだ。
「ニノ様、何故に旋盤からなのじゃ?ある物を最初にやらんでも、先に他の物でも良くはないかのう?」
「それは違うんですよ。まず、回転する物に刃を当てて、削っていく機械と言う物を完全に理解してからじゃないと応用が出来ませんから。」
4人のドワーフやエンジさん、他にも物作りが好きなニカラの男鬼さんが、工房にしようと思ってた建物に集まってる。
「ボール盤、旋盤が切削機械の基礎だと思ってください。真っ直ぐ正確に穴を開ける、真っ直ぐ正確に丸く削る。この2つを極めたら、
髪の毛の1/50くらいの誤差しかない精度で、ものが作れます」
みんなの唖然とした顔が面白い。
「そんなに精度を求めてどうなるのですか?石臼の時のようになるのでは?」
石臼の時に助けてくれたエンジさん。物作りに真摯だけど精密さが何故必要なのか分かってないね。
「エンジさん、石臼を作る時ですが、全く同じ粒度の粉を作ることは可能ですか?」
「同一と言う物は無理でしょうね、近しい物なら作れますが。」
「精度を出すと言うのは、可能な限り同じ物を作ることなんですよ。同じ物を作る意味って、どなたか分かります?」
答えてくれたのは木工大好きアルトさん。
「どれを持ってきても同じなら、壊れた時に同じ物さえあれば修理出来るわ。」
鬼さん達の中でも少しだけ影の薄いアイさんが。
「全く同じ物を作れると言うなら、2種類以上の部品がある物なら、どれとどれの組み合わせでも合うと言う事でしょうか?」
二人ともいい事を言う。
「大量に正確に、全く同じ物を作ること。1品ものの芸術品じゃなくて、実用的な品物を同じ精度で作ることなんですよ、工作機械の存在する意味は。」
俺はそう思ってる。異論は認める。
「今回私が用意した物は、1つの物を作るのに特化した機械ではなく、汎用的に使える工作機械ばかりです。」
皆が真剣な顔をしてる。
「今は長年放置され、経年劣化で動かないですが、元々が質実剛健に作られている工作機械です。」
ドワーフさん達は少しだけ悲しそうな顔になった。
「修理すればまだまだ使えるんで、本物の精密切削機械を生き返らせて、最高峰の技術力を身に付けませんか?」
数人の
「ここにある工作機械や他にも少しだけ必要ですが、極めれば魔法の力を使わずに月に行けますよ。」
全員の目が輝いて来た、さあサビ落としから始めよう。
手作業で。
1つずつ絵に書いて、部品の場所を間違えないようにバラして行く。
その時にマニュアルを見ながら1つずつ説明して行くんだけど、ドワーフさん達は流石だな、質問1つ1つが鋭いや。
「爪の3点で保持するのは分かる、しかし4点5点と増やせば、もっと頑丈に保持できるのでは?」
確かに、俺も考えたことがある。
「4方向や5方向から保持するより3方向から保持する方が中心を取りやすいんですよ。頑丈さもですけど作業性と言うのが大事なんで。」
鬼さん達が少しだけ疑問そうだな。
「この旋盤は、あくまでも仕事で使う道具です、仕事である場合納期と言うものが有るのは分かりますか?」
皆が分かってくれたみたいだ。
「正確に、丁寧に、その後に求められるのは速さです。最小限の手間で最大限の正確さを出すなら3つ爪チャックで良いんです。」
皆で丸太の椅子に座りながら、コンパウンドと合皮で必死にスリスリしながらサビ落としをしてるんだ。
こんな時のガンモは、近くで日向ぼっこしてるはず。
やっぱり、皆が1つずつ丁寧にサビ落とししてくれてる後ろの方で、へそ天して日向ぼっこしてる……
写真に収めたい。
そんなジレンマをかき消しながら、三層二百ボルトの大型旋盤の部品を、コンパウンドを塗って、スリスリスリスリサビ落とししてる。
神様の俺も。
旋盤の部品をサビ落とししながら、ベルト類をどうするか考えたんだけど、ゴムを作るなら。
「最長老に連絡して、ゴムの木のエントさんを呼んで貰わないとですね。流石にこのVベルトは再生出来ないでしょうから。」
鬼さん達が錆を落とした部品を、ドワーフさん4人が鬼さん達に指示を出しながら、1つ1つ丁寧に油で処理してくれてる、だから誰も手が空いてない。
「ちょっと最長老の所に行ってきますね、色を塗る部品の脱脂は特に念入りに処理してくださいね。」
「塗膜は油の上には乗らんのだったな。脱脂は任せておけ、シリコンオフでバッチリ処理しておく。それと、表面に紙やすりで小さな擦り傷を付けて、塗料が食い付きやすくしとくわい。」
「ニノ様、ついでに蜘蛛さん達から色々な種類の糸玉も貰ってきて下さい。中に入れる繊維にどれが適してるか試しますから。」
ゴッペさんから任せても大丈夫そうな言葉を貰って、アルトさんから新しい提案を貰った。
うん、皆が自主的に動き出したな、いい感じだな。
「そろそろ夕方じゃ、作業を明日に回す物は油で処理しておくぞい。今日は酒が美味いぞ!」
「アオや女衆が握り飯を用意してくれてるさ、皆で温泉に浸かった後に夕飯でも食いながら反省会でもやるか。」
俺の分の夜ご飯、残ってるかな……。
そんな事を考えながら森に向かおうと歩いてたら、何故かガンモが足元に擦り寄ってきて。
「ニノおさんぽ?おさんぽするなら一緒にいこ!」
なんて言ってきたものだから。
「うん、たまにはゆっくり歩きながら行こうか。」
って答えたら、九つの尻尾をくるっと1つにまとめて、ピーンと真上に立ててゴキゲン尻尾になったガンモと2人で歩いた。
「ニノ、ニノは偶に難しそうな顔をするけど、何か嫌な事があるの?あるならガンモがやっつけてあげるよ?」
「う〜ん、それはガンモのお仕事じゃないよ、ガンモのお仕事は、のんびり楽しく皆を癒しながら生きる事だからね。」
東郷君と出会ってからと言うか、外界に出掛けるようになってから、難しい顔をする事が増えてたかもな、ガンモに心配かけちゃダメだな。
「たまには抱っこしてあげようか、昔みたいに。」
「うん、乗る!ニノに乗って楽に移動する!」
自分で左肩まで這い上がってきて顔を預けるガンモ……。
「爪を立てて登ったら痛いよガンモ。」
「行くのだ、下僕号!」
下僕号って…………
痛って言っても、聞いちゃいない……でも可愛いからいいか。
そう思いながら、左手をガンモのお尻を支えるのに添えて歩く、もちろんモフモフを堪能しながらね。
「ハルちゃんやシメジや他の猫さんと仲良くしてる?」
ボス猫になったガンモが、普段は何をしてるか気になるから聞いてみたんだけど。
「いつも皆で、どのカリカリが美味しいかで議論をしてる!ガンモはモ〇プチの箱に入ってる鰹節入りが好き!」
お気に入りだもんな。箱に入ってて、小さな小袋に別れてる高いやつ……。
「でもシメジもハルちゃんもササミ味が好きなの。カツオ味が好きな子も沢山いるけど、1番人気はマグロ味なの!」
「そっか、マグロ味が人気なのか。ガンモだったらイワシとマグロはどっちが好き?ササミは苦手だよね?」
「違うよ!全部好き!ガンモ美味しいカリカリ全部好き!」
ありゃ少しだけ怒っちゃった、肩に爪を立てて抗議してる。
「爪を立てたら痛いよガンモ、全部好きなら毎日かわりばんこで食べてみる?」
………………
「カツオ味をメインでお願いします。」
1番カツオが好きなんじゃ無いか、ぐはっ!たまらん……。
「うん、朝と夜はカツオ味で、昼は毎日変えてみようか?」
ガンモが頭でスリスリしてくる……もふもふや!
「うん! ニノ大好き!」
カリカリがかな?俺の事だったら嬉しいな。
お日様が沈み始めて、青い月が明るい空に上がってぼんやり光ってた。
穏やかな毎日が続く事にに少しだけ罪悪感を覚えた。
ガンモを抱きながら、ボチボチ歩いて森まで来たんだけど、金色の大きい何かが寝そべりながらドングリを食べてた……。
「ゴン、お行儀悪いよ、ちゃんと起きて食べなさい。」
「ニノ……、ガンモ様……。僕は出来るだけ動きたく無いんだよう……。」
母親は
「ゴン、その気持ちガンモもわかる! そんな時もあるとおもいます!!!! だけど誰も踏み潰しちゃダメだよ!」
「うん、ガンモ様。ちゃんと浮いてるよ! 毛が長いから地面に着いてるけど、ちょっとだけ浮いてるよ!」
どう見ても寝そべってるようにしか見えないんだけど、ちゃんとルールは守ってるみたいだな。
「もうすぐ木苺が食べられるんだ、だからドングリは少しだけえ〜。」
自分でドングリの木のエントさんに神気をまぶして、落ちて来るドングリを食べるゴン……。
う〜ん、エントさんがヒャッハーって言いながらドングリを作っては落とし、実らせては落とし……
見てはいけない物を見てしまった気になる。
結局の所、Vベルトの素材は簡単に解決した。
「摩耗性や伸縮性に優れ、熱に強く加工が比較的容易な樹液を出せばよろしいのですな! 行きますぞ我らが新しき大いなる主よ!」
とか言って、もうね……ダバダバと樹液をくれるんだ……。
タイヤを作る時も協力して貰おうかな?
「魔力に触れた部分から固まるので、加工するなら出来るだけ素早くお願いしますのじゃ。」
神気と日本製の植物用栄養活力液をまぶしてあげたら、めちゃくちゃ爽やかな笑顔で、やり切った表情をしたゴムの木のエントさん……。
用意した入れ物6㎥の容器から溢れそうなくらいに、ダバダバと注いでくれた。
蜘蛛さん達に糸を下さいってお願いしたら、エントさんと同じように、1番頑丈なしおり糸を数種類の蜘蛛さんが糸玉にしてくれた。
「編みましょうか?編んでいいですか?編ませて下さい!」
断るのもなんだから、お願いしといた。
お礼に、カンタ君が神気を込めて作った魔石のエーテルを、魔力解放してまぶしたんだけど。
「ウヒョー、カン様の良質なエーテルじゃ!余すことなく浴びるぞー!」
なんて言いながら、体長5mくらいある大きな蜘蛛さんが、小さい蜘蛛さん達に指示を出してた。
俺の部屋に置いてある北斗〇拳や、北斗〇拳イチゴ味に、聖域の皆が影響を受けているような気がするのは俺だけなんだろうか?
エントさんや蜘蛛さんがお手伝いしてくれるのを見ながら、他の生き物達も目を輝かせて(目がない生き物達は小刻みに体を揺らしながら)お手伝いしますって目で見てくる……
「必要な時は皆にお手伝いして貰うから、その時はよろしくね。」
ガンモは暇だったのか、ずっと肩に頭を預けて寝てた……。
肩がヨダレで濡れてた。
ガンモを起こさないように浮きながら、胡座をかいて移動して帰宅したんだけど、やっぱり夜ご飯は残ってなかった。既に誰も食堂にいない。
「うん、今日は久しぶりにカップラーメンでも食べようかな。」
「ガンモはカツオのカリカリが良いな。少しだけトッピングにシラスを乗せて下さい。」
お湯を沸かしてる間にガンモのゴハンを用意して、ヤカンを持って部屋に入ったら……。
コタツに首まで入ってるハルちゃんとシメジとカンタ君が。
「「おかえり。」」
ガンモと2人で、ただいまって言いながら俺もコタツに入った。
カップ焼きそばのお湯を捨てに外に出て、戻ってきたらコタツの四方を占拠されてた。
ここって俺の部屋だよな……。
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