1章 ピカピカの1年生
ニヤけた猫とダーツのアレ
ドアをすり抜けると、そこは真っ白な世界でした……
自分でも何を言ってるか分からないけど、そう表現するしか無いくらいに、部屋の中が真っ白なんだ。
なんと言うか……
冬の朝に雪が降って、目の前の世界が一面真っ白な感じが一番近いかな?
近いってのは、何かが積もって白いんじゃなくて、置いてある物が全部白っぽくなってるんだ。
唯一白くなってないのが、コタツに乗って二足歩行じゃなくて、この場合歩いてないから直立不動かな? でこっちを見てるガンモ……
すげー違和感。
扉を上半身だけすり抜けて、お金持ちの家に飾ってある、鹿の剥製みたいになりながらガンモを見つめ返すと。
「さっさと入ってきてや、なにボケっとしとんねん。それとも何か?理解できひんくてフリーズしとるんかいな?」
『なんで関西弁なんだろう?』って思いながら全身部屋に入った瞬間に、何回分か分からない沢山の前世の記憶って奴が一瞬で甦って来て。
「お久しぶりです。あれですか? 今回人間だったから、次はミジンコとかですか?」
と、普通に聞き返してしまった。
そう、目の前に居るガンモの中身は、輪廻転生を繰り返して、魂の格を上げてる最中の下っ端神様候補の、次の転生先を決める神の世界の人事部みたいな所の、中間管理職的(中間管理職と言うけど、めちゃくちゃ凄い権能を保持しておられる)な神様だった。
色々な生き物(ゾウリムシの時も有れば、カピバラだった事ある。ひどい時は、日本庭園の苔の一部で、庭師さんに取り除かれて死亡とか)を経験して、色んな生き物からの視点を知り、神に至る研修的な物を受けてる最中だったのを思い出して、次はミジンコですか?って聞いてしまったけど……
愛猫のガンモの体を借りてる、目の前の転生課の課長的な神様が、猫がやっちゃダメな感じのニヤケ方で喋り掛けてきた。
「おめでとうさん、今回で解脱ポイントが貯まったから晴れて解脱やで。喜びや! ちょっとか前みたいに、産み付けられた場所の地面がコンクリで伏せられてて、いざ成虫になろうと這い上がって見たものの、コンクリが邪魔で地上に出られへんくて、セミになりきれんまま、地面の中の生活、約7年間を無駄にして死んでしもた、セミとかもうならんから。」
『嫌な事を思い出させるなあ』なんて思考が逸れそうだったし、どうやったら猫の表情筋でそんなにニヤニヤ出来るんだ?てくらいニヤニヤしてるのが凄く違和感がある。
それでも、掛けられた言葉を反芻して、じわじわと達成感が湧いてきた。
そして出た言葉が。
「何処に配属されるんでしょうか?」
世知辛いかもしれないが、これも現実?だ。
やっと輪廻転生の輪から解放されたけど、自分の目的を成就するには、まだ神格が足りないわけで……
神格を上げようと思うと、色々な雑用から始まって、それこそ輪廻転生していた期間が短く感じられる程の時間を下積みをするか。何かしらの生物達から、凄まじい量の信仰を集めて、一気に神格を上げるしかないんだ。
だけど生前(一番古い前世から今生まで)に、信仰されるような事なんか、たいしてやってない俺だから後者は無理で、必然的に下積みから始める事になる。
「アレやで、いつもの様に決めたらええんちゃう?(ニヤニヤ)」
「アレですか……。」
ソレは過去に俺を。
ミドリムシやピロリ菌、象のウンコに咲いた花、地面に落ちたは良いけど干からびて死んでしまったミカンの種等々。
散々っぱら苦しめてくれたアレが、またしても俺の目の前に召喚される瞬間だった。
白っぽい空間の床の上に、約1メートル程の円形の魔法陣(正確には魔法陣じゃない)が3つ出現する。
そこから出て来るのは、相も変わらず東〇フレンドパークもかくやと言わんばかりのアレだよ……
メダルをダーツの矢に替えて、真ん中が【たわし】の、あんな感じの板が、ヌメって感じで出現してくる。
「相変わらずこれなんですね。」
何回繰り返しただろうか? 今回は投げられる生物で良かった、と思いつつ聞いてみると。
「今までのとはちゃうで!今回は解脱ポイントようさん有るし色々追加出来るんやで!」
「追加ですか?」
俺が聞き返すと。
「せや!これまでは修行中やったやん?
せやから解脱ポイントなんて貯めるだけで放出なんて出来ひんかったんやけど、今回はちゃう! まず第一に、ハズレ枠がないねん!あんさんこれ迄めっちゃハズレ枠に当たってたやろ? まっ、それだけ業が深かったちゅうわけやけどな。」
コタツの上を右へ左へ、二足歩行で歩き回る愛猫の姿が可愛すぎる。
「ハズレに行ったら次に矢を投げられる生物すらなれん時の方が多かったやん? 前々回辛うじてチンパンジーやったやんか、それでその死後になんとか人間になれたけど、ピロリ菌の時とか他の微生物の時とか、そもそも矢を持つことすら出来んくて、半泣きになりながら、カマキリかカメムシの2択でカマキリで良いですって言うたやろ?」
懐かしいな。結局の所、カメムシにもなったんだよな……。
「ほんで場所も時代も選べんかって、産まれた場所が蜘蛛の巣の真横で、産まれた瞬間に蜘蛛に御馳走様されとったやん?あんな事もうあらしまへん。」
ないのか! それは嬉しい。
「今回選ぶんわ、どの神の
画面の割れたスマホの神……どんな仕事なんだろう?
「それかて場所の項目で、天の川銀河の太陽系の地球、時代で21世紀前半を選ばななれしまへん。 しかも今回は、解脱ポイント使こて、そんなハズレ枠を……」
ハズレ枠なのね……。
「この、もう一度輪廻転生やり直しに替えられたりするんやで!」
猫の顔なのに、めっちゃドヤ顔してるのが分かる。
「しかもやり直しの輪廻転生は、そこそこちゃんとした生物枠しか表示されへんく作ってあるんやで。めっちゃ親切設計や!」
後ろ足だけで立ってるガンモ(愛猫)の姿で、妙ちくりんな関西弁を喋りながら、凄い肝心な事を最後にちょっとだけ言って、円形の
真ん中に場所って書いてある的を見てみる。
地球って項目は、直径1m程の的の中で2mmくらいしかない。
中級神まで神格を上げたら、配属先は自分の希望の場所と時代になるはずだから、時間さえ掛ければいい訳だし。
次の的の、どの神様の見習いって的を見てみる。
画面の割れたスマホの神様の
その隣には、時間と空間の神の見習い・大地の神の見習い、その他も比較的マシな感じがして、時代を見てみるが……
宇宙暦で、何年から何年と書いてあるから全くわからん……
それでも、輪廻転生の輪に戻るのは勘弁って感じだから……
「ポイント使わなくて良いです。このまま投げます。」
そう言って
愛猫姿の課長さんが、手動で回してくれたクルクル回る的に、約1mくらい離れた場所から三本の矢ダーツを投げ終わった。
的が止まるのを待ってる間にガンモ(中身は神様)を見ると……
これまでのニヤニヤしてた表情が、嘘のようにキリッとした表情になって俺を見ながら。
「これで、あんさんもワシと同じ神界の一員で末席やけど神様や。せやさかいこれから起こる事が色々あるんやけど、ワシから細かく説明したあかんねんや。そんな決まりになっとんねん。せやから何もアドバイス出来ひん。」
過去に転生するときは、色々教えて貰ったな。役に立つこと、無駄な事。
「ほら的が止まるで、先に進みや。 次に顔合わせるんは、神としての命が終わった時やねんけど。めっちゃ先の話やから、ワシの事は心の隅にでも置いといて、せいぜい頑張りや。」
止まった三つのダーツの的が、ぐにゃりと歪んで、融合しながら門の形を作っていく。
三つの的が融合する時にチラッと見えたが、場所の項目は知らない言語形態の文字だったから読めなかった。
かろうじて読めたのは、聖域の管理者の休暇中の臨時管理者って項目だった……
期間は2万年…………長くない?
ガンモ(中身は神様)に軽く頭を下げて門を潜ろうとしたら。
「この子には、ちゃんとワシから説明しといたるわ。お前の下僕は、おらんなってしもたけど忘れたあかんよってな。ほなまたな。」
その言葉を聞いて少し安心しつつ。
俺って下僕だったの?なんて少しブルーな気持ちになった。
そして、色々な生物として地球で生きて来た記憶が、全て蘇ったのを感じながら門を潜り抜けたんだ。
そして全身が門を潜り抜けたら……
会議室ぽっい場所で、やたらデカい白いイノシシが居て。
アロハシャツとハーフパンツ姿で、サングラスとビーチーサンダルを装備して、キャリーバッグ片手にこっちを見ている。
さっき潜った門は、この部屋のドアに繋がっていたようだ。
「オッコトヌ「言わせねえよ!色々問題になるだろ! 俺は白くてデカいイノシシの姿が好きだから、この外見なの。バカンス中は、ちゃんとその場所に溶け込む容姿に変わるから、今の俺の姿にツッコミとか入れたらダメ。」はぁ。」
どう見ても、
「あんたの解脱直前って、地球の日本って国で、昭和・平成から令和を生きた成人男性だよな? タブレットの使い方わかるだろ? ちょっと前にノートPCが神界で導入されて、やっとノートPCの概念が無い世界から来た奴に説明するのに慣れたと思ったら、今度はタブレット導入とかされてな……」
イノシシなら、なった事があるから表情が分かるや。
白い猪は、苦虫を噛み潰したような表情になってる。
「タブレットとかスマホとかの概念が無い地域なんかから来た奴に、いちいち操作方法説明すんの面倒くさくてな。 使える世代を経験した、地球出身ってマジでありがたい。」
何処から取り出したか分からないスマホで、時間を見てる猪……
「あんたに説明終わったら長期休暇が始まるんだが、説明しなくても使えそうだな。 それじゃ旅行の出発時間が迫ってるから、これ渡しとく。あとはタブレットの指示に従って、最後まで入力してくれ。」
そう言いながら、手に持ってたタブレットを俺に渡して、白くてデカいイノシシが普通に部屋のドアを開けて出て行った。
開けた先が少し見えたけど、白いイノシシと同じような格好をした、美人さんと小さい子供が、早く早くって急かしてた。
家族旅行は、南の島なのかな?
1人になってしまった。
とりあえず指示通りににしないとな、と思い、渡されたタブレットに目をやると……
なんと言うか、ゲームのアバターを決める画面的な物が映っていて、画面の下の方に[自分の違和感の無い外見を設定してください]と書いてある。
左上に種族の項目があるので、外見は人間を選ぶ。
個として初めて意識を持ったのが人間だったから、人間を選ぶのが馴染む気がすると言うのが理由だ。
選んだら、顔が無い黄色人種の人間の体が画面に表示された。
次に[顔を選んでください]と左上に表示されたのでタップしてみると、過去に俺が生きた生き物の顔が一覧で表示される。
でも、一覧の中にほとんど人間の顔なんて無くてさ……
ピグミーマモーセットや犬、虫の頭や、酷い物になるとカツオの頭やエビの頭なんてのもある……
まあ、自分が一度経験した顔しか選べないのは分かったけど。
感心してしまう程に微生物とか虫が多いな……
「体を人間にするんだから、ゲンゴロウの頭とか付けたらおかしいだろ……」
つい独りごちるが、個として意識を持った最初の顔か、解脱直前の最後の顔のどちらかで迷ってしまう。
前者を1、後者を2とすると、1の顔で過ごしたのが約25年程で、でも俺が限りなく長い時間を、もがいてでも神になろうと思ったきっかけなんだからと思い、1をタップしたら……
体が2の顔の時の物が表示されてるので、凄い違和感がある。
体も選べないのかな?って体をタップしても、何も反応が無くて選べないようだ。
どっからどう見ても、アジア系黄色人種の体に、北欧系の顔は似合わないのだが、いずれ神格が上がって正式な神になると、自分の外見は好きに出来るはずだからと思い、顔を2に決めた。
人間の体に田崎和信だった時の顔を選ぶ。まあ、ついさっき死んだ時の外見が裸でタブレットの画面に表示されているが、股間がツルツルと言うか……
なんもないんだな。
性別の選択肢が出ないから、性別なんて選べないんだろう。
左上の顔を選んでくださいの項目が消えて[解脱ポイントを振り分けてください]と浮かんで来たのでタップしてみる。
ほんと、ゲームのマイキャラ決める感じなんだな。
スキルやステータス的な物が表示されて、残り解脱ポイント352Pと書いてある。
ステータスの項目を見ると、隣に参考値が書いてある。
ステータスが人間離れするのもなんだし、神様見習いともなると、生物としての死の概念が無くなるから、普通の人間より少しだけ高めで良いと判断して、参考値の五割増くらいにしておいた。
残りポイントは332P、あんまり減ってない。
スキルの項目をタップして表示すると神力・ギフト・スキル・特技・その他の5項目に別れている。
とりあえず神力から見てみると、神罰(雷)神罰(洪水)神罰(疫病)神罰(日照り)等々と、おおよそ常識的に考えて、使い所に困る物が並んでいる中で目を引いたのが、実家に
実家?って思いながらタップしたら説明文が出てきた。
[解脱直前の生物だった時に住んでいた、時代と場所に1週間に一度だけ行き来出来る。帰省する場合に持ち込んだ物は、現地の素材に置き換わるが。現地から物を持ち込む事は、原則として出来ない。]
つまりは、田崎和信として生きた時代に遊びに行けると言う事のようで、最後の人生の終わりが、令和元年の日本で良かったと思いながら、実家に帰省をタップして選択したら、残りポイントが232Pまで減った。
神力を選択すると100Pも使うのならば、ギフトやスキルや特技は何ポイント使うんだろ? と考えながらギフトの項目をタップしてみた。
精力絶倫、万夫不当、一騎当千等々、これまた使い所に困るギフトが表示されているのを、流し読みしていたら[スキル作成]とあった。
気になってタップしてみると。
[スキル一覧の中に存在するスキルを、1年に1回作成出来る。ただし作成のみで、作ったスキルを自分で使うにしろ、誰かに付与するにせよ、スキル付与のギフトが必要となる]
つまり1年に1回スキルを作れるのであれば、見習いの期間があの時チラッと見えた、2万年と言うなら、時間を掛ければ2万個のスキルが手に入ることになる。
ついでに[スキル付与]の項目もタップしてみる。
[スキル作成で作ったスキルを、自分もしくは他者に使える状態で付与する。スキルのレベルに関しては、付与された者が経験を得る事で上がって行く。付与直後はスキル自体が潜伏している状態なので、ある程度経験を得ると潜伏スキルが常用スキルとして発動する]
セットで効果を発揮するギフトのようなので、セットで選択すると残りポイントが52Pまで減ってしまった。
物は考えようで、スキルは後々作れば済む話になるので、たぶん時間を掛ければ得するだろうと思い、特技の項目を開く。
針に糸を通すのが上手い、歌が上手い、くじ運がほんの少しだけ良い等々、微妙な特技が並んでいる。
その中で[包丁さばきが微妙に上手い]と[金槌で指を打たない]を選択する。
生前に野菜を切るのが下手くそで、金槌を使うと、たま〜に指を痛打するので、迷うことなく選択すると、残りポイント50Pになった。
別に全部振り分けなくても良いかな、と思いつつ初期画面に戻してみた。
自分の外見が表示されてる横に[イケメンにしますか?はい いいえ]と表示されているので迷うことなく、はいを選択してみると[解脱ポイントが足りません]と出てくる。
期待させられて裏切られた気分だ。
気を取り直して、その他の項目を見てみる。
言語理解や文字理解、アカシックレコード参照や鑑定、と言った必要そうな物が並んでいたので、言語理解と文字理解を選択すると残りポイントが10Pになった。
初期画面に戻ると[服は必要ですか?はい いいえ]と表示されている。
迷うことなく、はいを選択すると。
[現在の残りポイントで選択出来る服装一覧]
と表示されたのでタップしてみると布……
布しか無かった。
布を選択して残りポイントが0になった瞬間に、会議室のような部屋が縮み出した。
使っていたタブレットが、俺の掌に溶けて入ってくる。
タブレットが完全に俺に融合して、部屋が俺の体にぴったりに縮んだ瞬間に、眩しい光に包まれて気を失ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます