どうやら地球じゃ無いようです
目を開けたら綺麗な青空が広がっていた。
どうやら仰向けに寝転がって居るようだ。
右を見ると、右手にバスタオル程のボロ布を1枚。
左を見ると、左手に持っている茶封筒が1つ。
雑草の匂いにまみれながら、フルチンで布と封筒を持っているおっさんが、仰向けに寝転がっていたら公然わいせつじゃん……。
とりあえず、左手に持っている封筒を草の上に置いて、右手の布を腰巻きにした。
風呂上がりに、バスタオル1枚巻いてリビングまで出て来た、おっさんスタイルの出来上がりだ。
現状を把握するのに立ち上がり周りを見渡してみる。
太陽がある方向に海が見えて、反対側に山並みが見える。
今が何時か分からないから、太陽を見ても方角まで分からない。
立っている場所は、山裾から海岸線まで続く草むらと言うか、草原と言うか、そんな場所で、少し小高い部分に居るようだ。
「困ったな、何も情報が無いや。」
呟いてみても、答えなど返って来る訳もない、だって周りに誰も居ないから。
とりあえず、今出来ることと言えば、草の上に置いた封筒を開けるくらいだ。
封筒自体には、何も書いてなかった。
開けるしか無さそうなので、とりあえず開けて中身を取り出してみる。
書いてある文字が、日本語や英語じゃないのに読めるから、少し安心しつつ読んでみた。
「ちくしょうめぇっ!!」
動画サイトでよくアテレコされてる閣下の「ちくしょうめぇ」と同じようなテンションで叫んでしまうほどの内容だった。
以下封筒の中身の内容
ごめんねぇ、眠ったまま五分経っても六分経っても起きないから、手紙を書いておくよ。
君がこの手紙を読む頃。僕は、地球の七世紀頃の南アメリカ大陸に観光に来ていると思う。
だってさ、三億年ぶりの休暇なんだよ?テンション上がりっぱなしで、数日眠れなかったくらい楽しみにしてたのに、君は目を覚まさないんだもん。チョー焦ったよ。
一応僕の事を軽く書いておくね。
僕は、この星の唯一の神で、聖域の管理者と共に星の管理者でもあるんだ。
そして君にお願いしたいのは、僕の代わりに二万年くらいの間、星の管理と聖域の管理をして欲しいの。
星の管理者と言っても、聖域からあんまり出る事無くテキトーに過ごしてて良いんだけどね。
でも、たまに迷い込んで来る生き物が居るから、見つけたら住んでた場所まで送り返してください。
それと、二万年後に元に戻すから、地形は変えても構わないよ。
星の管理者の方は、基本的に何もしなくても良いです。
星に何らかの影響がある程の事が起きた場合は、自動的に僕が強制送還されるから、僕の方で対応します。
聖域と呼んでる大陸自体は、外界から隔離されてます。
人型の意思疎通出来る生き物なんて居ないけど。
動物や植物、虫や魚、その他にも色々な生き物が住んでるから、その子らが絶滅しないように無茶だけしないでね。
その星で生きるのに必要な知識は、無理やり君の脳にインストールさせて貰ったので、思い出してください。
因みに僕って、その星で活動する時だと大きなミミズの外見なので、地中でのんびり過ごしてました。
だから君が暮らすには、少し何も無さすぎるかもね(笑)
最後に1つ。
この手紙は、読み終わったら自動的に消滅します。
*
読み終わって「ちくしょうめぇ!」と叫んだ直後に、封筒も手紙も同時に発光し始めた。
その後は、天空の城で目を潰された大佐のように目がくらんで「何をするぅ! 目がぁ目がぁ。」のコンボだよ。
なんで神ってのは、基本的に相手の事を考えないんだろう……。
まだ俺が、最下級の見習い神だからなんだろうか。
そんな事を考えながら軽くへこみつつ、大きなミミズの生息地なんてどうすんだよ?
神殿的な物でも在ると思ってたら、配属先は人型生物の居ない大陸って……
「言語理解なんて要らなかったじゃないかよ!ちくしょうめぇ!」
思いっきり叫んで、少しだけスッキリした。
たった数分も待てない星神様に放置された事を憤りながらも、タブレットの画面に表示されなかった、股間のイチモツをフラフラ揺らしながら、とりあえず海の方向へ向かって歩いてみる。
タブレットのマイキャラを見た時に、股間のイチモツが付いてないと思っていたら、普通に付いてるようだ。
バスタオルを腰に巻いている状態だから少し歩きにくい。
現状所持している物が、腰巻き代わりの布切れ1枚なので、これを無くすと、まさに裸一貫を体験する事になる。
今の気温は、裸で適温と言える程に丁度よくて、数日前まで夏の日差しに焼かれながら、草刈り機を動かしていた事を思い出す。
一年中こんな気温だと助かるが、もし冬があるならと身震いしてしまう。
とりあえず今は、短い場所で足首、長い場所で脛の中ほどの草原を、海に向かいつつ手紙に書いてあった事を思い出す。
必要な事は、無理矢理インストールしてあるなんて書いてあったが、1年が何日か考えたら360日と頭に浮かんでくる。
現在地の平均気温と考えたら、1年を通して日中27℃前後、夜間で23℃前後になると浮かんで来て、なるほどインストールされてるのは便利だと感心してしまった。
人間を辞めた体の確認するのに、軽く走ってみた。
なるほど、これはボルトより速いかもしれない。
神人のデフォルトの能力で、少しだけ浮くと言うのがあるんだけど、浮かべと思ったら地面から5cm程浮いてる。
それなのに地面の上を歩いて居るような不思議な感覚になる。
浮きながら歩いていると、ついに神の一員になれたんだと、つくづく感慨深いものだ。
草原を少し浮いて歩きながら、こんな草むらだとガンモを連れてきたら狂喜乱舞するんだろうなと思った。
基本的に室内飼いで、毎日1時間くらいだけリードを付けて散歩させる以外だと、網戸を破って脱走した時くらいしか、屋外に出る事の出来なかった愛猫の事を考えながら、タブレットに表示されてた事を思い出す。
思い出そうとしたら、目の前にあの時使ったタブレットが実体化して浮かんでいた。
タブレットを手に取り画面をオンにしてみる。
[ようこそ新しい神]と書いてある下の、鍵のマークをフリックしてホーム画面を表示する。
幸いな事に、画面ロック等掛かっていないようだ。
ホーム画面が表示されたんだけど、アプリが一つだけ、ヘルプしか無かった。
とりあえずヘルプを開くと、自身の身体の詳細のようで。
体を構成する物はエーテル[地球人にわかり やすくすると魔力]である。
怪我をすると、その部分のエーテルが霧散して、回復するのに2秒程掛かる。
基本的に病気にならない。
体の年齢は、現在の体を使用していた時の、全盛期の頃を参照する。
食事は必要としないが、嗜好品的に食事を摂る事も可能である。
食事をした場合は、排泄等も必要となる。
身体の老廃物などは基本的に存在しない。
体毛の長さは、ある程度自由に変えられる。
そんな事が書いてあった。
便利な身体になったと思いながら、もう少しで海岸線まで着きそうだ。
海岸線に至るまでが、だいたい3km程で、そこまでの道程を、草むらの中を観察しながらぼちぼち歩いて来た。
見付けた生き物は、カマキリ、バッタ、カエル等の虫や小動物。
空を飛んでいた小鳥(なんて名前か考えたら突撃スズメと浮かんできた)やトンボ、蛾や蝶。
たぶん草むらをかき分けたら、ネズミやウサギやイタチ等も居そうな感じがする。
植生なんかは、まぁ雑草だな。
雑草に詳しくないから、なんと言う草か分からない。
でも、地球の日本に生えてる物と、何ら変わらないように見える。
しかしこの体は、便利だ。
浮く以外でも千里眼、透過、念動力なんかは、
草むらを歩いても、膝下までを透過しておけば、草の葉で足を切る事すらない。
千里眼で何処まで見えるのか試して見る。
遠くに見えてる小さい木に止まっていたセミの背中が、超アップで見えた。
少しだけビビったし、ちょっとだけ気持ち悪かった。
お前は成虫になれたのにな。セミよすまぬ。
気を取り直して、海岸線を観察してみる。
軽く左右を見渡すと、砂浜と岩場とごちゃ混ぜになっている。
手入れなんかされていないので、流木や軽石、枯葉等が波打ち際に打ち上げられていた。
雑草を叩き斬るのに丁度良い感じの枝(田舎で小学生時代を過ごした人なら分かるはず)をゲットして、漂流物が溜まっている所をゴソゴソとほじくってみる。
枯葉や流木等の中に、貝殻やイカの骨、サメの卵の殻なんかの、生き物の残骸も見つける事が出来た。
初期装備が、ボロ布と枯れ枝と言う、ド〇クエの布の服とひのきのぼうにも劣る神って……
と軽くへこみながら、砂浜から岩場に移動してきた。
潮だまりを見てみると、カニや巻貝、アメフラシや取り残された小魚等が居る。
まぁ普通の海岸線だな。ここまでは、良かった。
でもアレはダメだ。アレは無視できない。
海を見たら凄い違和感があってさ。
スケキヨ?って感じの、人間の下半身を模したような角を付けたウナギっぽいデカい何かが、数百メートル先の海上で、鎌首を持ち上げながらこっちを見ている。
遠目に見たら、角がスケキヨの下半身そのものに見える事に憤りを感じてつい。
「地球じゃないのは、薄々分かって居たけど。まさかの不思議生物だよ!」(なんて生き物なんだろうかと考えたら、つの鰻の成体。食性は微生物をこして食べる。と浮かんできた)
思わず叫んでしまったよ。
地球じゃないって思った理由が、まず地球に観光に行くってのと、神が1柱しか居ないって所。
地球だと、神様なんて無数に居る。一神教だと他の神を認めてないが、実は沢山いるから。
画面の割れたスマホの神様なんてのも居たくらいだもんな。
だから神が1柱だけの時点で、ここは地球じゃないって事だよ。
そして、なんて星か考えたら星の名前は、パンツ星。
もうちょいマシな名前あったろうに、誰が付けたんだよこんな名前。
とりあえず、前世では肉体労働で体を酷使していたから、少しだけのんびりしたいなと思う。
空腹にもならない、疲れることも無い身体に、少しだけ感謝しつつ、砂浜まで戻って寝転んでみた。
そして悲劇が……
拝啓、母上様。
貴女の愚息の和信は、現在フルチンで、右手に草を薙ぎ払うのにちょうど良さげな枯れ枝を持ち。
それを振り回しながら砂浜を爆走中で御座います。
何言ってるか分からないかも知れませんが気にしないでください。
死んだ後にこんな事を言うのもなんですが、とりあえず元気です。
砂浜に寝転がって、この先どうするかを考えようとしてたら上空を何かが横切った。
あぁ鳥か……長閑だな。
なんて思ったのもつかの間、その鳥が俺の方を目がけて急降下してくる。
危な!と思った瞬間には、既に俺の腹部に
胴体に大きな穴を開けられて、一瞬だけ死んだ!と思った。
だけど、死なない身体なのを思い出して横にゴロゴロと転がって、どんな鳥なのか見てみると突撃スズメだった。
この時までは、まだ余裕があった。
突撃スズメの詳細を考えてみると、思い浮かんで来たのが。
体長25cm~30cmの肉食のスズメで、食べられる肉を見付けると嘴から突撃する。
虫などには見向きもせず、動物の肉を見付けると集団で突撃してくる。
群れになると、数十人規模の村程度なら、一夜で食い尽くす程の凶暴性をみせる。
スズメじゃねえだろ!ってツッコミつつ、じたばたと砂浜に顔を埋めながら、もがいている突撃スズメの方を見てたから、上空に数十羽の突撃スズメが居て、俺を狙っているのに気付くのが少し遅れた。
だけど、神のデフォルト能力の1つで全身透過と考えたら、突撃してきたスズメ達が、俺の体をすり抜けて砂浜に次々に突き刺さっていく。
それを見ながら、最初に抉られた腹部を見る。
うねうねとうねりながら、肉が盛り上がって元の状態に戻っていく。
見た目が気持ち悪いが、痛みも無いし傷も残らず治ってしまう身体に、少し感動してた。
そしたらボロ布を、トンビのような鳥が咥えてかっさらって行く……
全身透過してしまったから、腰巻き代わりのバスタオルくらいの大きさのボロ布は地面に落ちてたようだ。
焦ったよ本気で。
だってさ、布が無ければフルチン決定で。さらに言うと、解脱ポイント10ポイント分の布なんだよ。
解脱ポイントを1ポイント貯めるのに、虫の一生くらいの時間使うのよ? 10解脱ポイントって時給換算だと超高級品だし、唯一俺がこの世界に持ち込んだ物だもん、盗られるのなんて勘弁してくれと思いつつ母親への手紙っぽいアレだ。現実逃避ってやつだな。
追い掛けながら、あの鳥って何? と考えてみた。
いみしかトンビ。イタズラ好きなトンビで、食性は草食。
主に木の実を好んで食べる。
同族以外をおちょくるのが習性の、お茶目な鳥。
ふざけた鳥も居るもんだ。
布を咥えていたら飛ぶ速度も遅く、高さも3m程しか飛び上がれないようで、何とか走って追いつけそうなので、最大限浮きながら、思いっきり走って追っかけてみる。
この体の能力は、かなり優秀だ。
若い頃でも50mを7秒8とかの、早くも遅くも無い程度の走る速さの俺が、思いっきり走るとビビるくらい速くて。
ジャンプすると余裕で3mくらいの高さに手が届いた。
布を掴んで着地すると、忌々しそうにこっちを見て、キュローと鳴きながらいみしかトンビは、飛び去って行った。
とりあえず今日の寝床は、安全な場所を確保したいなぁ。
着る物も欲しいし、最低限安全に住める場所も欲しいな……
「食べ物が要らないのが唯一の救いだな。」
なんて独り言を呟いて、寝床確保に付近を探索してみようと動き出した。
とりあえず現在必要な事を考えよう。
飲み食いなんかは、この体だと、そこまで優先的な事じゃないから後回しにするとして、着る物と住む場所の2択のどちらを優先するか……
意思疎通の出来る人型生物が居ないのならば、とりあえず透過しておけば安全も確保出来るし、気温もそれ程気にならない。
だから服は後回しにして、最初に住む場所をどうにかしようと思う。
家とか……
まず木が無ぇよ!
山まで行かないと建材に出来そうな木が生えていない。
たとえ行けたとしても建材に加工する道具も無い!
とりあえずだが、柱替わりになりそうな流木を集めて、草を被せて雨風をしのげる環境を作りつつ、建材を作るための道具を……
どうやって手に入れよう?
海岸線まで戻って、直径5cm程の流木を数本抱き抱えて草むらまで戻る、を繰り返すこと数回……
既に疲れた。肉体的にじゃなくて精神的に。
これが21世紀の日本だったら、ホームセンターに行けば、木材も工具も釘もお金を出せば手に入るし、運ぶのに軽トラを貸してもらえる。
だけど、今いる場所なんか、お金の概念もあるか怪しく、あったとしても現地通貨なんて持ってもいない。
いちおう高校中退した後、最初に就職して10年程働いたのが建築の仕事だった。
だから木造の建物の設計や作成なんかは、自分で出来る。
でも、そんな事関係ないレベルの建物しか作れない。
黙々と草を結って(藁縄を作る要領で)、作った縄で流木を縛っている。
長さ2mちょいくらいにして、柱替わりの棒を作る事すら四苦八苦してしまう。
テントの骨組みっぽい形に木を縛れたら、長さ60cm程の草を掛ける為に、横方向に小枝を縛り付けていく。
既に日が落ちかけて、少しだけ夕焼け色に染まる空を見ながら、暗くなる前に簡易テントだけでもと思い、一生懸命草縄を結んでいく。
横に小枝を縛り付け終わったら既に空には星や月達が出ている。
月達? って思うかもしれないが、なんとこの星には6個の月がある。
6個の月が、それぞれ色や形が違う。
それぞれの月が、この世界の曜日に対応しているようで、そのうち別の大陸に行って、人型種族に会うのなら覚えないとなぁなどと、今まったく関係無い事を考えながら、草を被せて行く。
簡易テントが出来上がったのは、朝日が昇る直前だったのがとても悲しかった。
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