オッド家の苦悩 ②
アダムスとギースは十五年ぶりにオッド家を訪問した。ギースがすでにデニー・オッドに連絡を入れていたのでデニーは喜んで彼らを迎え入れた。デニーはもう齢90近くで遠い親戚筋のメアリーという名の若い女性が介護役として一緒に暮らしていた。体の方は補助なしでは動かしづらいほど弱まっていたが意識と記憶の方はしっかりしていた。
ギースはデニーの父、フレデリック・オッドのノートを差し出した。メアリーがノートをデニーの手の平へと乗せ、表紙を捲る。デニーは目を細めて文字を読み、弱々しい手つきでページを捲る。デニーが読んでいる間、二人は押し黙っていた。ギースは質問したいのを拳を握りしめ、それを膝に当てることで我慢をしていた。アダムスはまだ余裕があり、そんなギースを横目で見ていた。そしてデニーが読み終えてノートを静かに閉じた。閉じると同時にギースが質問をいくつか矢継ぎ早に投げた。興奮していたせいか早口になっていたのでデニーには上手く届かなかったようだ。メアリーがデニーの耳元にギースの質問を簡潔な言葉に直して教える。デニーは返答ではなくメアリーに指示を出した。そしてメアリーは頷き、部屋を出て行った。アダムス達もメアリーが戻ってきた時に答えが来ると理解していたので黙って待っていた。
意外にも早くメアリーはすぐにお盆を持って部屋に戻ってきた。そのお盆には数枚分の日焼けしたしわくちゃのプリントと『9』の形に加工された碧色の宝石が載っていた。それらはまるで前もって用意していたかのようでもあった。お盆がテーブルの上に置かれるとデニーがやっと口を開いた。デニーが語るにはお盆に載っているのはかつて父フレデリックが戦後日本で手に入れた碧色の勾玉であること。そしてアダムス達が持ち寄ったノートは鳴楽村で経験したことをしたためたものであること。お盆に載っているプリントは父が死の間際に書き残したプリントであると。アダムスは断りを得てから碧色の勾玉を手にした。それの大きさや重さは小石程度であった。ノートには勾玉のことには触れてはいない。次にギースに勾玉を渡し、アダムスは勾玉について聞いた。デニーは答える代わりにプリントを差し出す。アダムスはプリントを受け取り、目を通す。そこにはノートには記されていない鳴楽村の仔細が記されていた。
デニー・オッドからは新たな真実は得られなかったが碧色の勾玉とプリントを目にすることができたのは
ギースから連絡がきたのはデニー家訪問の一週間後であった。仕事もあらかた済ませていたので丁度、フレデリック・オッドのプリントについて手伝おうと連絡をしようと考えていた所であった。だがキースからの言葉は手伝いの催促ではなくデニー・オッドの訃報であった。
先程、ギースの元にメアリーからデニーが亡くなったという連絡が来たのだ。死因は老衰であると。そして葬式は二日後執り行うとのこと。それでアダムス達も葬式に参列することにした。葬式は親族とアダムス達を含めた少数でつつがやしく執り行われた。
二人は葬式の後、メアリーからデニー・オッドからの包みを受け取った。そこには碧色の勾玉とノートが。これらとギースに預けたプリントを二人に受け取ってもらいたいということ、そしてプリントに書かれていることの真偽について解明してもらいたいというのがデニーの遺言であった。
その日の夜、アダムスは変わった夢を見た。そこは上下左右真っ白な霧に包まれた空間であった。周囲は霧に包まれているので何があるか分からない。下は地面剥き出しで外であるというのが分かる。そんな霧の中をアダムスは歩いた。歩き続けて、大きく欠けた古い塀に辿り着いた。その塀を興味も示さずアダムスは開かれた門戸から塀を越える。まるで操られた人形のようにアダムスは動く。塀を越えると霧は薄まり、視界がクリアになる。塀の向こうは道が広く長く続いていた。どうやら越えた塀は家の塀ではなく、町を囲む塀のようだ。さらに町には日本家屋が建ち並ぶ。アダムスは日本家屋に目を配らずに道を黙々と突き進む。そして町を越え、田畑を越え、大きなクレーターに辿り着いた。クレーターの縁から見えるは大きな青色のモノリス。それは色が青いのか光が青いのか、はたまた両方か。その大きなモノリスは鼓動するかのように青い光の明滅させる。アダムスは躊躇なく階段を下りて、クレーターの中心、青いモノリスに向かう。そこには恐怖はない。だけどアダムスの心は得も知れぬ内からの感情に震え、青いモノリスに惹き付けられていた。そして青いモノリスへと手を伸ばし触れる。その瞬間、アダムスの全身に電流が走る。電流にはひりつくような痛みと同時にうずくような快楽が走る。まるで体には無数の穴があり、その穴を埋めるような充実感が生まれる。思考は蕩け、魂が肉体から分離するような感覚を味わった。
目が覚めた時、アダムスは自室のベッドではなく病院のベッドに横たわっていた。目慣れぬ景色にまた夢であるかと錯覚をした。医師からの話によると大学の講義を無断で休んでいて連絡も取れずにいた。それを大学側が不審に思い、事務員が部屋に訪れたときアダムスは謎の昏睡状態だったという。そしてそのまま病院へと運ばれたという。さらに驚いたことに謎の昏睡状態で病院に運ばれたのはアダムスだけではなかった。ギースもまた昏睡状態で運ばれたのだ。同じ病院で思わぬ再会をしたアダムスは夢について語った。するとギースもまた同じ夢見ていたらしい。それについてはお互い驚かなかった。なぜなら、お互い同じ夢を見たのではと感じていたからだ。だからこそ二人はますますフレデリック・オッドが日本で経験したことを探ろうと決意した。
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