021

「早く彼女さんのところに行って下さい。…待ってますよ。」


倉瀬を遠ざけようと発した言葉なのに、胸がチクリと痛んだ。

さっきの女性は倉瀬の“彼女”なんだと思うと、胸がザワザワさてしょうがない。

あんな親しげなところを見てしまうなんて気分は最悪で、奈々は心がどうにかなりそうだった。


「彼女じゃねえよ。誤解するな。」


掴まれている腕により一層力が入れられる。

未だ顔を逸らしたままの奈々の肩を掴んでこちらに向かせると、倉瀬は静かに言った。


「お前にだけは誤解されたくないんだ。」


ゆっくりと、言い聞かせるように。

じっと奈々の目を見て。


それはとても優しい声色で、奈々の心の奥にしゅるしゅると入り込んでいった。

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